AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしの偽善者戦 その07



 偽者の元へと向かった三人――ユウとシャインとペルソナは、偽者が放つ攻撃を捌きながら、少しずつ前進している。

「"十字斬"!」
「"光迅剣"!」

 ユウは(剣術)スキルの武技を、シャインは【勇者】の持つ固有武技を発動させ、魔法や糸による攻撃を斬り付けていく。

「――"ソニックスラッシュ"」

 既に【魔導甲冑】を外套の中で纏ったペルソナ。
 彼女は深い青色の剣身を持つ騎士剣を握り締め、二人と共に攻撃に対応する。

『"糸界継薙"』

 偽者も、同じ攻撃を繰り返すわけでは無かいのだ。
 手首を動かし、手先に巻かれた糸を振るって武技を発動させる。

 それによって、彼女たちの周りには無数の糸で作られた円が出来上がる。
 糸は鋭く尖り、触れた者を傷付ける程に硬くなっていた。
 偽者は目にも止まらぬ速さで手を水平に薙ぎ、その糸のサークルの端を彼女たちへとぶつけようとする……が、

「"閃空斬・魔法剣ver極光"!」
「"闇迅剣"!」
「――"虚透斬"」

 ユウは眩しい光を、シャインとペルソナは異なる暗さを持つ闇を斬撃に纏わせ、糸へとそれらを衝突させる――

 ギャリギャリギャリギャリ……

 斬撃は何かを削るような音と共に、糸でできた円を破壊していく。

「シャインさん、そっちの技を使って大丈夫なんですか?」

「ご主人様の眷属になってからは、こっちを発動させてもリスクが苦にならなくなった。顔が隠せる今なら、どっちを使っても問題無いな」

「(偽者でこれだけの威力だなんて……本人は一体、どれだけの技を使うの?)」

 ペルソナは不思議に思う。
 これでも劣化しているというのだ。
 それなら本者の実力は、どういったものなのか……そう思うことは自明だろう。

「えっと~、師匠は僕とアルカを相手に、魔法剣を花火みたいにたくさん投げてきたよ」

「俺の場合は……全力で挑んで負けた後に、精神世界で心を折られたな。……ま、まあ、今となってはイイ思い出だが」

「(……やっぱり、良く分からない)」

 魔法剣は、鍛冶職の中でも優れた者が極稀に作りだすことのできる貴重品だ。
 それを花火のように揚げるなど、大富豪か鍛冶職……または幸運な者だろう。
 また、ダンジョン内でも魔法剣が見つかるらしいが、現在発見されているダンジョン内で魔法剣が見つかったという報告は無い。
 なので、恐らくそれも無いだろう。

 また、シャインへの対応へも謎が残る。
 シャインと言えば、第二陣という枠で絞りさえすれば、『最強』と呼ばれるまでに優秀なプレイヤーだ(かつては性格面が問題視されたが、現在はそういった問題も解消され、純粋に羨まれている)。
 そんなシャインの全力に勝ち越し、問題であった精神まで鍛えたのだ……傍から見れば不思議でしかないだろう。
 実際には鍛える意図など無く、ただの私怨だったのだが。

 不思議に思っていても、時間だけは着々と進んでいく。
 目の前には偽者が立っており、彼女たちの機微を見つめていた。

 プレイヤーは手出しできずにいた――麗しき姫たちが、自分たちを守ろうと動いていてから。
 無粋な真似などできない、勝利を祈って見届けることしかできない。

「(それじゃあ、後は作戦通り)」

「ペルちゃんも頑張ってね」
「ご主人様の偽者など倒してしまえ」

 二人はそう言い、偽者へと突撃してする。
 偽者もまた彼女たちを迎え撃つような形をとり、水晶を武器へと作り変えて対応を行っていく。

 ペルソナはその光景を一度見てから、騎士剣を空へ掲げ――念じる。

("誓約"――要求:能力値の向上 対価:【魔導甲冑】の封印)

 心で念じた宣言と共に、彼女の身を包んでいた鎧が光となって消えていく。
 そのとき、剣身もまた菫色へと変色する。

("誓約"――要求:能力値の向上 対価:(暗黒魔法)の封印)

("誓約"――要求:能力値の向上 対価:(邪剣術)の封印)

 彼女が行っているのは、対価を要した能力値の底上げだ。
 彼女が所持する騎士剣――誓約の制剣『リミテーション』は、要求と対価を宣言し、宣言した対価が要求を上回った時のみ、要求を一時的に叶えることのできる能力を持った剣である。
 ……これもまた、本者が趣味で創り上げた傑作の一つであった。

 対価として支払えるのは、HPなどの能力値の減少やスキルの封印、自身の行動の制限などだ。
 当然、減少量や封印するスキルの質、制限される行動の重要性によって、叶えられる要求は変わっていく。

("誓約"――要求:『神殺し』の付与 対価:全技能系スキルの封印)

 叶えられる要求は、考えられるものほぼ全てである。
 対価さえ支払えば、このような要求すらも叶えることが可能。
 それによって『神殺し』の力を一時的に身に取り込んだペルソナは、[スキル共有]を通じて最初に封印した三つのスキルを再使用しようとするのだが……。

(何? ……頭に、何かが流れ込んで来ているの?)

 流れてきた情報によれば、自身のスキルは最適化され、一つのスキルに創り変えられているらしい。
 ペルソナはそのスキルと新たに三つのスキルを共有し、戦線へと向かう。

 ――そして、新たに創られたそのスキルを発動させた。

(――<天魔騎士>)

 再び彼女の体に光が現れる。
 ただ、前回の光が黒一色であったとするならば、今回は白と黒の二色の光が彼女の身を包んでいく。

 モノクロカラーの翼が外套の背中部分から出現し、傍から見た者には天使か悪魔、また堕天使を思わせる姿へと変貌する。
 見えない場所では髪も目も、見える所では外套も鎧も……全てが白黒へと変わり、色彩が異なる物は、握り締められた青く光る剣のみとなった。


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