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山田 武

偽善者なしの『覇導劉帝』 その07



 どれだけの時が経たのかは分からない。
 朕の意識は再び表層に現れ始め、周囲の状況が理解できるようになる。
 体と心が乖離し、朕は思念だけでフワフワと漂い続けた。

 そんな中最初に頭の中へ入ってきたのは、煩い騒音であった――。


『おいおい、世の中の大半の人々は『あ』や『う』だけじゃ会話できないんだぞ。狂っているんだか何だか知らないが、いい加減お前さんの知性とやらを見せてくれよ。ま、お前さんが仮に知性を持っていたとしても、戦闘狂の知性なんて、あって無いようなものなんだろうけどな!』


 ――何を言っているのかは理解できない。
 耳には入って来るが、その言葉が何を表すかが認識できない。
 それからも、その声の主は狂った朕へと騒音を喚き続けた。

 ……拒絶し続けた認識が怒りを、狂気が殺気を覚えた時、朕の意識は再び明白なものへと切り替わる――喧しい畜生を、この世界から排除するために。
 離れた二つは一つとなり、縛られた戒めを部分的に解き放ち――朕を吠えさせた。


「黙れと言っておろうがぁ! 朕を誰と心得るか、元とはいえ劉帝であるぞ! ――頭が高いわ!!」


 しかし、その者は強かった……『覇導士』である朕よりも。 
 爪を振るおうと転移を行い、息吹ブレスを吐けばその者が持つ矛によって穿たれる。
 何をしようともその者は傷付かず、全てがその者の掌であるかのように思えた。
 唯一一撃加えられたと思った攻撃も、朕に止めを刺すための下準備として受けられたものであり、攻撃自体は通用せず、その者は全く無傷の状態で立っていた。

 朕はその者を見て思う。

 ――この者が共にいてくれれば、朕は独りでは無かっただろうに。

 かつての朕に足りなかったもの……それは同じ立場で話し合える者なのだろう。

『覇導士』であった朕に、並び立てる存在など存在しなかった。
 故に、それを求めるのは諦めていた。
 見つからない者を求め続けることは、とても辛いことだったから。

 だが、それももう叶わない。
 朕はその者によって、二度目の死を迎えるのだから。

 肉体を縛られ力を吸われ……朕にできることなど何も無い。
 口で何を言ったとしても、朕の敗北は目に見えていた。

 せめてもの抗いとして色々と言ったが、その者はそれらを無視し――朕を口説く。


『一度死んで英霊になっても、お前さんは元劉帝としての枷があったんだろうな。なら、俺に殺されて二度目の死を迎えたその瞬間、お前は真の意味で自由のはずだ。いつか出会えたらならその時は……俺の眷属として、女として、一緒にイチャイチャしようぜ』


 ――言っていることは無茶苦茶であった。
 だが、不思議と嫌悪感は感じない……むしろ、体が内から温められ心地良い。

 ……そういえば、朕を倒す者などこの者が初めてであった。
 ならば、褒美が必要であろうか。

 そう自身の行動に理屈付けて、朕はその者へと応える。


「……ふ、フハハハハハ! 面白い、面白いぞ其方は! 名を何と申す」

『メルスだ。絶対に忘れさせない、三度目の人生の案内人さ』


 その者――メルスは朕に名を告げる。
 様々な色に変化する龍の鱗を、翼を持つ龍人……だと初めて見た際は思ったが、それは表面のみであり、実際には龍人の皮を被ったナニカであった。

 ――龍でも不可能な回復力
 ――辰でも不可能な技術力
 ――劉でも不可能な破壊力

 かつて最も朕を追い込んだ存在――『超越者』よりも力を持っていた。
 そんな者が、龍人という一種族の枠に収まるはずが無い。

 メルスからは神の氣も感じ取れた。
 神の氣がある時点で、存在の格は跳ね上がる――古より生きる者たちが朕にそう言ったことがある。
 当時の朕は神氣を操れなかったため理解していなかったが、英霊となり、神氣を操れるようになった今では良く解る。

 ……と、話が逸れてしまったな。
 だからこそ、朕はメルスを『畜生』と呼んでいた。
 理解しがたい紛い物の力を振るい、正体を掴ませない存在……そう呼ぶ以外に他無かった(最も、発言に苛立ったのも理由の一つではあるが……)。


「メルス、約束しよう。朕がまた其方と出会えたのならば、その時に朕が朕であったならば、朕は其方のものとなろう!」


 メルスは朕に、その身を以って証明した。
『覇導士』の定めた天命は、必ずしも正しくないということを。
『覇導士』は、朕に決して負けるはずが無いと告げていた。
 しかし、実際に朕は敗北した……そういうことだ。

 もう天命に従う必要は無い……が、最後に確かめてみたかったのだ。
 メルスが、朕の望む未来を創り上げられるのかを。

 そして、もしできたならば――それは、約束を履行する時ということだろう。


『そりゃあ嬉しいこった。――んじゃあ、また後でな・・・・・

「うむ、また来世で」


 メルスはそう言って朕に矛を突き刺し、二度目の死を朕は迎える。
 意識は薄れていき、段々と思考が回らなくなっていく。

 ――かつてはそれを喜んだ。

 死を以って、天命より解放されると思ったから。
 だが、今はそれを少し寂しく感じている。
 折角会えたメルスと、すぐに離れればならない。

 今まで他者にそんなことを考えたことの無い朕にとって、それは新鮮な感情であった。

 ……ほんか、くてきに、いしきが、うす、くなっ、てきた。
 からだ、がおもくて、とんでられない。
 だけ、どめるすが、ささえ、てくれた。
 ……ああ、やっぱ、り、あたた、かいな。
 また、あたため、て、ほし、いな……。


TO BE CONTINUED



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