AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と『異端魔機』 その03



 決闘というだけあるので、開始の宣言と審判的なものをユラルにお願いした。
 相手が強者なので、『模倣玉』を防具として身に纏い、あらゆる武技や魔法を模倣する予定である。


『えっとー、それじゃあ、試合開始!』


 その声を切っ掛けに両者動き出す。


『"破城拳"!』(――"正拳突き")


 どちらも拳で発動させる武技を使い、その力を交わす。
 ぶつかった衝撃で空間が揺らいだ気もするが、そんなことを考えている暇は無い。


『ほぅ、無詠唱か。目に見えないし、自分に干渉してないから苦手だよ』

「……何がだよ」

『さぁ、ねっ!』


 拳を打ち払い、彼女は次のアクションを起こす。
 使わなかったもう片方の手と共に、猛烈なラッシュを行ってくる。

 その拳は様々な色に包まれ、武技であることを示していた。


『"破拳""崩拳""虎拳""龍拳""正拳""裏拳""閃拳""炎拳""氷拳""嵐拳""岩拳"…………!』

「ちょ、待っ(――"反射眼")!」


 一気にこちらに飛んでくる武技の数々を、俺は全て捌いていく……うん、何ソレ。
 早口言葉みたいで少し怖いが、機械である彼女に失敗は無いだろう。

 俺の反射行動をその機械的な瞳でジッと観察しながら、俺の視覚の死角を突いて拳を突いてくる(だ、ダジャレじゃないぞ)。


「いきなり本気出し過ぎだろ!」

『ヒュー、やるな。でも心配しなくても大丈夫大丈夫、まだ1割も出してないから』

「……マジかよ」


 さっきの一撃一撃が、エリアボス級だったぞ!? プレイヤーだったら、即死ものの威力じゃねぇか!
 ……えっと、微妙に口調変わってないか?


『もっと魅せてくれよ、アンタの本気ってヤツをさぁ!』

「俺はさっきので限界だったよ!」

『いいや、記憶を見たんだから分かる。アンタの底はまだまだあるはずだよ』


 再びラッシュを行ってくるので、(反射眼)に全てを委ねて捌いていく……が、少しずつ俺の対処を超えてダメージが来る。


『アンタのそれは……(反射眼)だね? 確かにそれは、相手の攻撃に対処できる。
 ……だけど、それはアンタ自身が攻撃に対処できる時だけだろ?』

「…………」

『沈黙は肯定だよ』


 やっているのは『反射』だからな。
 それはあくまで自分の行動であった。
 ならもっと超えれば良い――自分の限界ってヤツを!

(――"他力本願・戦闘経験")

『……ん? 今度は{他力本願}かい。確かに体を壊せば防げるだろうね。だけど、それがいつまで持つんだろうね』

「さぁね。お前が決闘に満足するまでは持つと思うぞ」

『……なら、一生無理だね。私に満足してもらいたきゃ、全損させるまでやりなっ!』


 ギアを上げてくる。
 その影響で捌きに体のことを気遣うだけの余裕が無くなり、少しずつ内側からボロボロになっていく体。
 それでも破壊と再成を繰り返し、気持ち悪い最適化された動作で防ぎ続ける。


『どうしたどうしたぁ! (因子注入)も(異端種化)も限界突破も使わない気か? さっさとどれか使いな――"多連拳舞"!』

「いいや、まだまだこれからだ(――"聖拳崩撃")!」


 再び拳がぶつかり合う。
 両者の拳がぶつかると、何かが弾けるような音がする。

 こ、これが……龍球の世界観なのか。
 お、面白い。オラわくわくすっぞ!


("破拳""崩拳""虎拳""龍拳""正拳""裏拳""閃拳""炎拳""氷拳""嵐拳""岩拳"…………)


 コピーした彼女の武技を発動させ、再び状況を中勢に引き戻す。
 余裕も生まれ、反撃のチャンスができた。
 躊躇わずに地面を蹴り、彼女へ詰め寄る。


("スラッシュ""クロススラッシュ""パワースラッシュ""回転突き""パワフルスマッシュ""エナジークロウ""エアカッター""バーニングスラッシュ""ソニックスラッシュ""抜刀""ボルカニックランス""貫通槍撃""シューティングスター""足砕き""メテオナックル""ファングクロー"…………)


 ギーによって使える武技も一部発動させ、優勢へと押し返そうとした……のだが、彼女は俺の攻撃を上手く捌き、中々押し戻すことができない。
 最後ら辺の方では"ユニーク"の奴らが使っていた武技を発動させていたのだが、それでも結果は変わらなかった。

 そうやってこまねいでいる俺に、彼女は残酷な発言をする。


『いいねいいね、その勢い。やはりアンタと決闘をして良かったよ』

「……なんでもう終わった感が出るセリフを言ってるんだ?」

『なんでって……そりゃ……』


 突然、彼女の速さが急激に変わった。
 速度自体はそれでも(反射眼)で充分に対応できる速度だが、振られた拳に宿った光に戸惑うことになる。


『――アンタと同じで、私も技術を模倣できるからさ!』

「んなっ!?」

『もうアンタの武技も大体模倣した。一人から盗れる技術としちゃあ、上出来な方だったよ――"聖拳崩撃"!』


 そう言って彼女が放つ拳には、紛れも無く聖氣の反応がある。
 ……こ、コイツ。
 人の武技をパクりやがった。


《メルスーン、人のこと言えないんじゃないの~?》

「(んなこと知ってるわ)」


 いやはや、【因果応報】、自縛自縄、自業自得とはこのことだよ。
 彼女の放つ聖拳を横に避けて、一度【物体再成】で体を戻す。


「……やっぱりか。大規模な武技を使った時は、クールタイムが必要なのか?」

『さすが同類、分かっているな』

「普通、あんな連続で武技を放てるわけないだろうが。それなら方法もある程度予測できた。お前の場合は、何らかの条件達成によるキャストタイムとリキャストタイムの無効化か短縮……俺はそう考えた。じゃないと、今隙を見せた俺にお前が攻撃しない理由が見つからないからな」

『パチパチパチー、大体当たりだな。正解は一度使った能力なら、どっちも0にできる便利なスキルがある――だ』

「うわ~、上位互換だ~」

『摸倣だけどな。今までのアンタの行動が、それ以外なら私を超えると証明している』


 ……ボッチと契約、神器を賭けての闘い、魂関係の契約、ゴーレムにぶん殴られる、天使をフルボッコ、カードゲーム……碌なもんがない気がする。


『……それに、アンタはまだ全力を出し切れていない。それを出させるまでは、慢心できないな』

「そりゃあ丁寧にどうも」

『……もう殴り合いは終わりか。さっきは微妙に脚での攻撃もしていたし、そこはどうでも良いか。ならば、次は武器での打ち合いと行こうか』


 拳で語るのはもう終わりだ。
 俺はいつも使用している不壊の聖剣偽物(偽・デュランダル)を取り出して、戦闘を再開する。



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