AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と『異端魔機』 その01



 遺跡 奥部


 ユラルと道を進みながら、俺は索敵系のスキルを発動させて、強者らしきものを確認していく。


「……ここが遺跡の奥だな。生体反応は無いけど……何かがあるな」

『何かって……どんなものなの?』

「う~ん……人の形をした機械? アンが歯車で動いたバージョンかな? 機械の中で何かが常時稼働している音がする。今はスリープ状態にあると思うが、実際にどうなっているかが分からないな。ま、歯車と言っても、完全に魔法が使われていないって訳でもなさそうだ……魔力の反応があるし」

『……ちなみに、アンちゃんとの違いはどんな部分に?』

「多分だが――明確な意思、かな? アンは自分の意思を持っているから、人として定義付けられる。だけどここにある機械は、思考ルーティーンがある程度決まっているみたいだ。だから、ただ人の形をしただけの機械だと、俺は考える」


 そんなもんじゃないか?
 自分の意思が確かにあれば、それは生きているってことだろう。
 例え生き物であっても、目的も無く上からの指示に従って行動していれば――それはただの機械だろうし。


『あれれ? メルスン、どうしてそこまで分かっているの? 見てもいないのに、思考パターンなんてものまで分かるっけ?』


 ……お、ちゃんと気づいてくれたか。


「(透視眼)と(精乱看破)、<千思万考>の複合技術だ。凡人のスペックでもそれくらいなら分かってしまう、便利なスキルだよ」

『凡人なのかなー』

「凡人だろ。最近はLimitに達したスキルも多いし……。主人公君ならきっと、俺を超える全知全能の力の一つや二つ、余裕で習得しているよ」


 だが、この回答に納得がいかないらしいユラル。


『う~ん……。メルスン、私には主人公君が来ても、メルスンみたいにはならなかったと思うよ』

「そりゃあそうだろうよ。なんてったって、主人公なんだから。お前たちのことも、きっと俺以上に救っただろうs『いやいや、そういうことじゃなくて』……ん?」

『そんな完全無欠な主人公君がさ、私たちを救ったとして……私たちは本当に、幸せになれるのかな?』

「……少なくとも、俺に救われるよりは幸せなんじゃないのか? だって、偽善だぞ」

『…………今のメルスンじゃ、まだ理解できないかな?』

「はっ? おいユラル、それってどうい『何でもないよ。それよりほら、ゴールが見えてきたよ!』……待てって……ハァ」


 理解できない? どういうことだ?
 モブなんかの行動より、主人公の行動の方が救われるに決まっているだろう。

 確かに俺は、彼女たちに尽くしたい、身を捧げたいと思っている。
 だが、本当にその選択は合っていたのだろうか?

 どれだけ考えても、答えは生まれない。
 俺にそれを解くための鍵が無ければ、答えは一生分からないままだ。


「……ま、今はいっか」


 ユラルのことだ。
 答えは俺の自覚が無いとか、存在しない幻想に自分たちを救うことはできないとか、大体そんな感じのことだろう。


「今はユラルを追いかけよう」


 この選択が、俺の運命を大きく変える……ということは全然無いのだが、俺の思考とユラルの発言が眷属たちに知られていることについて、今の俺は忘れていた。



 遺跡 最深部


≪Q.■は何者であるか≫

「……いや、知らねぇよ」

『ちょ、メルスン! ここは、可愛い女の子だって言うところでしょ!』

「なぁ、さっき主人公が云々って話をしたばかりじゃないか? それだと俺、聴覚が優れた主人公になっちゃうぞ」

『それとこれとは別だよ!』


 理不尽な……。
 俺の目の前では予想通り、人型――それも少女型の機械が座っていた。
 グラスファイバー(?)のような髪の毛と何も感じない無機質な瞳……うん、機械っ娘ですね。

 部屋に入った途端、彼女は突然起動した。
 体内で止まっていた歯車も進み始め、彼女が稼働するための準備を整えていく。

 ……そして、大体の・・・歯車が噛み合い、瞳に俺たちを写した彼女の最初の発言が――ソレであった(■の部分はノイズが掛かっており、何と言ったかは理解できなかった)。


「……大体、いきなり会った相手のことをいきなり分かるわけ無いだろう。自分が何者かだと? そんなもの、自分が一番分かっているだろうよ」

『メルスン……それ、私に名前をくれた人が言うセリフじゃないよ』

「……はいはい。自分の行動には責任を取ってますから。ユラルが何を言いたかったかは良く分からなかったが、偽善したからには、ちゃんとユラルたちに責任を取るよ」

『あっれ~? メルスン、こういうのってもう少し深く悩んで気付くことじゃ無いの? 何でもう分かっちゃってるの!?』


 おお、正解だったようだな。
 いつの世も、責任は大切なことみたいだ。


「ユラルさんや。今まで俺が、何回お前たちに何かを言われてきたと思うのですか?」

『ああ~。もう懲りた?』

「うんにゃ、まだまだ『えっ?』……いや、実際にどうすれば良いか……というか、する気が無いからな」

『……ヘタレ』


 桜桃に、アッチのことは、求めずに、幸せなんて、人それぞれや。


「意味が分からない短歌だな。あ、でも、桜桃に青い春的な意味があれば、川柳でもイケるんじゃないか?」

『……メルスンにヤる気がないことだけは、良~く分かったよ』


 こっちの世界の人たちは、どうしてこうにも積極的なのだろうか。


『メルスン、確かに一番の幸せはソレだって考え方もあるよ。だけど、メルスンがそれをやらなきゃいけない道理も無いんだよ』

「うん、それ普通だからね。地球の倫理観を知っている皆様にとっては、普通だからね」


 え 好感度がMAXな女の子から『やらまいか?』で、上げ膳だろうが据え膳だろうが喰うだって? ……するワケ無いだろうが!

 嫌だよ! 今までの眷属たちの俺への熱い言葉の全ての根源が、俺とヤりたいからだったとか!
 ……違うよね? 違うんだよね?
 俺、健全なプレイ、ちゃんとできてる?


≪Q.■は何者であるか≫

「だから知らねぇよ! むしろ、俺の質問に答えてくれよ!」


 そんな言葉を返してしまうぐらいには、俺の思考はこんがらがっていた。


≪……Q.問おう、■への質問を≫


 この娘……割とノリが良いのかな?



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