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山田 武

偽善者と自己犠牲



夢現空間 居間


 色々ありましたが、何とか生き延びることができました。
 そのために払った犠牲については……思い出したくないけどな。


『――ほぅ、それは大変だったようだな』

「全くだ。俺も九割ぐらい悪いとは思っているが、理性と感情は別だからな。うん、実に疲労感に満ちた時間だったよ」

『我ともいつものアレをやる時間を、約束してくれるのか?』

「約束をする気も無いなら、わざわざ呼び出すことも無かっただろうよ……ま、もう一回呼ぶ予定があるから、その事前報酬だと思ってくれて良いぞ」


 久しぶりに時間に余裕ができたフェニが遊びに来ていたので、一緒におやつを、と誘ってみた。
 自分で頼んだことだが、実に忙しそうに働いている眷属たちだ。
 事前にスケジュールに割り込んでおかないと、こんなタイミングは中々無いからな。


『……久しぶりに、ご主人のアレが味わえるな。硬くて太い一撃が我の体をズドンと貫くあの感覚! ……忘れられる筈が無い』

「止めて! それは多分、前に穿った投擲武器のことだから!」


 どんな単語にでも反応しちゃう若者が、今の言葉を聞いたらどうなってたと思うの!
 今の蕩け顔をした状態のフェニがそんなこと言ったら、絶対に彼らは刺激されちゃうでしょうが!!


「と、とにかく、フェニが暇な時間になったら言ってくれ。今日以降ならいつでも殺ってやるからな。新しいスキルや武具、魔道具を取り揃えてあるし、ステータスもだいぶ上昇している。自分の限界を試すためにも必要なことだしな」

『そ、それは……楽しみだぞ(ジュルリ)』


 ……だから、顔を赤らめながら言わないでください。


 閑話休題刺激が強い不死鳥だ


『……ところで、どうしてご主人は半分透けておるのだ?』

「ちょっとスキルの制御を修業したくてな。今は(霊化)と(精霊化)と(聖霊化)と(魔力化)の同時運用だな。似ている能力ばかりだから体が透けて見えるだけで収まっているが、最悪の場合は体がぶっ壊れるって解析班は忠告してたな」


 ま、これをしたから俺の何かが覚醒するわけでも無いんだがな。
 体を違うものに作り変える際の経験を蓄えるために、暇潰しにやってるんだよ。


『それは面白そうだな。ご主人、やり方をぜひ教えてくれ』

「止めとけ。もしかしたらお前のスキルでも治せないような壊れ方をするかもしれないからな。俺は体に異常が起きたらすぐに再成できるが、体を治す隙に何かあっても困る。心配だから止めてくれ」

『……散々我を殺してくれる者の言葉とは、全く思えないセリフだぞ』

「お前たちは【一蓮托生】だと言ってくれるが、俺としては一分一秒でも長く生きていてほしいと考えているんだよ。家族がみんな自分のためだと言って犠牲になっている姿なんて……普通は見たくないだろう」

『いつも言われているだろう。人に言われて嫌なことは言うなと。……ご主人は我らが同じことを言わないとでも思っているのか?』

「それは……」


 悪いとは思う、思うがそれでも俺はやる。
 少しでも油断したら、眷属たちは命を顧みないで俺の代わりをするだろうから。


『ご主人がそう思うのならば、我らも同じことを思う……当然ではなかろうか。何故なら我たちは、家族なのだからな』

「ふ、深くないな~。俺のセリフがいつもいつも浅いセリフばっかりだからかな? 言ってくれたフェニのセリフも、俺が関わっているだけで少し薄めに感じちゃうぞ♪」

『……そうやって茶化すのも、いつもの逃げ方の一つだな。確かに我らは、ご主人に似てうまく言葉を伝えられない者が多い。だが今のご主人ならば、しっかりと我の言いたいことが理解できているのだろう?』

「……まあ、お前たちに余る程思考系のスキルは貰っているからな。だが最初に言った通り、理性と感情は別だから。頭では理解しているんだぞ、お前たちが俺のことを本当に大切にしてくれていることはな。だけど俺は、お前たちには傷付いてほしくないんだ。
 お前たちには癒しになってほしいんだ。心がすり減った時、心が荒んだ時、心が折れそうなとき――俺はお前たちに救われている。
 お前たちのぶつけてくる感情に、俺のすり減って荒んで折れた心は、また戦えるようになるん『だから、戦うなと言っているだろうに!』――ダブルッ!」


 まさかのコークスクリューブローを喰らってしまったよ。
 魔法も一緒に拳に乗せたのか、とてつもなく体に響いた一撃である。
 フェニは倒れた俺に詰め寄り、ジッと目を合わせる。


『ご主人は自分のハーレムを作れば満足かもしれない。だが、こちらが守られるだけで良いと思っている者たちでは無いことぐらい、体が覚えているだろう。
 何故独りで戦おうとするのだ? それができないからこそ、ご主人は監視役を付けるようにしたのだろう?
 何故そこまでして我等を拒絶するのだ? 本当は、ご主人が最も我らを求めているというのに?』

「…………」

『……すまない、ズルい質問だった。ご主人のこちらでの経験も向こうでの経験も、目は通している。……ご主人は確かにモブのように生きていたが、ご主人が持つ考え方は……普通のモブの者では無かったと思うぞ』

「……いいや、俺はモブだよ。何にもできないし良いところも無い……ただのモブさ。どれだけ向こうで歪んだ考えを持っていても、行動に移さなければ何も無いんだ。
 それに動いたとしても、世界は(※イケメンに限る)ってのが基本だからな。顔面偏差値が低い俺には、やったら社会的な制裁が加えられるだけだよ」

『卑屈だぞご主人。この世界であれだけのことをやった者の言うセリフでは無いぞ。……また話を逸らされてしまったか。ご主人、これだけは解ってほしい――自分に価値を見出してくれ……でなければ、ご主人を慕う者全てを蔑ろにするのだ』


 フェニはそれを言うと、俺から目を離し、再び先程まで座っていた席に戻る(怒っていたからだろう、顔が赤くなっている)。


「……前向きに検討しておこう」

『最終的には、ご主人が我らの思いに気付いて自分の大切さを知る……そんな王道展開になってもらえるとありがたいな。……あと、絶対に実行に移さない政治家の予言のような言葉を言うのは止めてくれ』

「ハハッ、俺にはそんな主人公みたいな展開無いと思うぞ。あと、確証が無いからな」


 ま、いつか当たってしまうんだろうな。
 フェニのその言葉は、俺の心の片隅に刻まれてしまったのだから。



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