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山田 武

偽善者と『勇魔王者』 その05



『……私が貴方のけんぞく? になると、ご飯と住む場所……それに、家族ができると』

「ようやく理解していただけましたか」


 あれから試行錯誤して、どうにか説明を理解してもらえた。
 先程までクエスチョンマークを浮かべていた彼女の顔も、今では何かを考えるようなものへとしている。


『……質問があるんだけど』

「私としても、説明はしてもしたりませんので、どうぞ言ってください」


 真剣な眼差しをした彼女は、そう言って幾つかの質問をしてきた。


『ご飯はさっき食べたのと同じくらいの物が食べられるの? 実はこれ以降の物は全部毒とか、そんなことしない?』

「されたのですか? そんなことを……。食事に毒を盛るなんて本当にお嬢さんの居た所は怖い所ですね。しませんよ、美味しい料理にわざわざそんなことは」

『じゃあ、私の住む所ってどんな所? 毛布の上? それとも毛皮の上?』

「何故にオンリー何かの上なんですか……。ちゃんとしたベットを知りませんか? このような感じの部屋が基本としてあります。それを自分の私物でも何でも置いて、カスタマイズしていきますね」

『……こんな部屋に住んでいた人を、私は見たことが無い。貴方ってお金持ち?』

「お金持ちというより、スキル持ちなんですよ。今見せているこの部屋も、私のスキルの副産物ですからね」


 (光魔法)で部屋のイメージを映像として流して見せる。
 部屋には、ダブルサイズのベットと電化製品が一式、後はユニットバスや机や椅子が置かれている(ちなみにだが、部屋の概念をぶっ壊すような内観を誇るグーの部屋は、入り口から入れる基本の部屋を別の場所に移してあるとのことだ。そこまでして魔女の茶会を再現する必要があるんだろうか)。

 質問はまだまだ続く。


『もし、私がそのけんぞくを辞めたいと言ったら……貴方は私をどうするの?』

「どうもしませんし、どうにかしようとする気もありませんよ。縁を切った時点で、私とお嬢さんの繋がりは終わります。出会いと別れは一期一会だかなんだかそんな言葉があるように、人の相対なんて滅多に無いことですからね。
 結論だけ言いますと、その場合は刻まれた眷属の証を解除して何処か安全な場所に送ります。お嬢さんにとっての安住の地が見つかるかどうかは分かりませんが、一度は眷属になった者のためです、無ければ創れますのでご安心を」

『……えっと、つまり殺したりはしない?』

「えぇ、お嬢さんを殺しても、手に入るのは経験値とスキルと希少な装備と能力値とその他もろもろなだけですから」

『……殺す動機がいっぱいな気がする』


 なんて失礼なことを言うんでしょうか、このお嬢さんは。
 経験値なんてスキルで入手量が莫大なものへと変わってるから必要ないし、スキルも眷属が創ってくれるからどうしても要るいうワケでもない。
 装備は自分で創れるし、能力値も眷属が補正してくれるから必要ない……どれもこれもなんとかなるものばかりじゃないか。


『じゃあどうして……家族なの?』

「どうして、と言われましても……」

『少しだけ言ったけど、私は半魔だからどちらにも属せなかった。
 人族の所へいったら魔物扱いされて、魔族の所へ行ったら汚れた血だのなんだのと言われた。私の家族は、そんな私を助けてくれなかった。一緒にいてくれなかった。気が付いた時には、私は孤児院にいた。その頃はまだ角が生えていなかったから、普通の普人族として生きていたの。
 だけど暫くして、孤児院のみんなと町で買い物をしていたら男達に襲われた。私にはその時力なんて無かったから、怖くて怖くて仕方が無かった。そんな恐怖の感情で頭の中がグルグルしてたら、頭が突然熱く感じた。そして気が付いたら……この角が生えてたの』


 彼女は自分の頭部に生えた角を指差してそう言う。
 襲われたのは……うん、可愛いからだな。


『この角が生えたら、今まで使えなかった魔法が使えるようになった。
 この角が生えたら、今まで振ることもできなかった武器が振れるようになった。
 この角が生えたら……みんなが私と一緒にいてくれなくなった。

 ――当然だよね、一緒に居た子から、突然魔族の角が生えたんだから。

 詳しくは知らないけど、私が居た国は魔族に沢山の人を殺されたらしいの。多分その所為で、国の人はみんな魔族を憎んでいたみたい。そんな考えは子供にも伝わったの。私もこの角が生えるまでは、魔族は悪い種族だと何となく考えていた……だからこそ、私は孤児院から追い出されたわ。魔族の角が生えていたから――魔族と同じように、人を傷つけると思われたから……』


 彼女は……自分で話すその言葉に傷付いたのか、折角食事で光が灯った瞳を再び暗くしながら、言葉を綴り続ける。


『石や物を投げられて、武器も突きつけられた。私の居場所はその国には無かった。だから私は国からも追い出されて、遠くにあると教えられた魔族の居る場所まで旅をした。角の力で食べ物には困らなかったし、盗賊も撃退することができた。
 そうして辿り着いた魔族の土地も、結局は私を否定した。むしろ人族以上に私を嫌悪していた。直接攻撃してきたんだから、私でもそれが分かった。それからは角を隠して色々な所を巡った。だけど行く先行く先で攻撃されて、私は自分がどちらにもなれない化物だと分かった。

 優しくご飯をくれた人は、私を油断させて奴隷にするつもりだった。
 温かい家を貸してくれた人は、そのまま家ごと温かくしよう殺そうとしてきた。

 誰も信じられなかった。
 誰も信じさせてくれなかった。
 誰も彼もが私を狙って何かをしてきた。
 私は必死に逃げたけど、最後には勇者に捕まった。

 そして、気付いたらここにいた。
 誰も居ないこの場所に。食べ物も無いし寝ることもできなかったけど、私を傷付ける人も、誰も居なかった。
 だから私はこのままでいた。

 ――何もしなかったら、私はこのまま誰にも傷付けられないでいたから』



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