AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしの元英雄達の復活 後篇



 念話で話していても盗聴され、魔力も消費する為、私達は普通に話すことにしました。


『それで結局、コイツはどんな奴なんだ……正直あの魔王と戦っている姿しか知らねぇから、ただ凄げぇ奴ってことしか分からねぇんだよ』


 ウルスが親指を彼に向けながら、率直に訊きました。
 彼女はその行動に眉を顰めながらも、訊き返してきます。


『……具体的にどういったことを知りたいのですか? 内容によっては、説明できるものとできないものがありますので』

『そうね……どこの国出身のどの種族かは訊きたいわね。何でソイツがそこまでの魔力を持っているかのヒントになりそうだから』


 シャルがそう言います。
 魔力は、Lvやスキルの成長による強化以外では増大する方法は殆どありません(職業に就く等がその他に含まります)……魔力は生まれたばかりの赤子が吸収できた魔素によって決まるものなのですから。
 どこの国出身の、どの種族かが分かれば、彼の魔力量が先天的なものか、後天的なものなのかが分かる――シャルはそう考えたのでしょう。

 ――しかしそれは、私達がその国の存在を知っていればの話でした。


『メルス様は日本国出身の……元天使です。前に自分でそう言ってましたよ』

『元天使、転生? それに日本? 知らない国ね。魔素量はどれくらいの国なの?』

『ほぼ皆無かと。メルス様も、国にいる最中は一度も魔法を使えなかったと言っていましたので』

「天使が生まれるような国なのにですか?」

『えぇ……というより、日本国は特殊な魔道具を使うことで、自身の魂魄を別の体に移す技術を有していまして。国民はそれを使い、仮初の肉体で様々なことをしているのです』


『『『「…………」』』』


 これには私達全員が驚きました。そんな技術が世に知れれば、戦争が起こることなど当然だからです。
 確かにそれがあれば体の不自由な者や、病気がちな者でも外を自由に動けるようになります……が、それ以上に軍事的運用をされる可能性が高いのです。

 自分の魂を別の器に?
 それができれば、自分は傷付かずに敵に攻撃が可能です。例えその肉体が壊れたとしても、また別の肉体に魂を移し替えれば行動が可能になってしまうのですから。

 そのような技術を持った日本国とは、一体どのような国なのでしょうか……。


『……い、一体、日本国とはどのような国なのですか。そのような技術を持って……戦争でもしようというのですか!』


 ウェヌスが怒気を上げながら、彼女にそう訊きます。
 ウェヌスは癒しの神の信徒。誰かが傷付くような技術が悪用された時のことを考え、感情が高ぶったのでしょう。

 しかし、そんなウェヌスの疑念は直ぐに解決したのでした。


『この技術は日本国の者にしか扱えず、一部の者を除いて、日本国の存在に気付いている者はいません。それに、この技術には神も携わっていますので、日本国以外がこの技術を生み出すことは不可能に近いかと……それに加え、例え悪用しようとする者が日本国の存在に気付いたとしても、その者が日本国に行ける可能性はほぼありません。日本国に行くことが可能であるのは……日本国民だけですから。日本国民の大半は、争いを好まない平和的な思考の持ち主ですので、貴方の言う未来が訪れる可能性は――皆無です』


 彼女は、日本国に行ける者についての部分だけを悲しそうに言うと、再び私達に口を開きます。


『――それに、もし日本国民が何かをしようとした時には、メルス様がそれを食い止めるでしょうから』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『では、皆様はこちらでメルス様が目覚めるのをお待ちください。直ぐに目覚めると思いますので』


 彼女は彼を抱きかかえながらそう言って、私達を客間と呼ばれる部屋に案内した後、また別の所へ向かいました。

 私達が彼と会うまでの間、気を緩ませても良いという意思表示をする為にここに案内したのでしょうか?
 だとしたら、私には逆効果だと思います。


『……なぁ、ここって客間なんだよな? 全然客間って気がしねぇんだけど。部屋のあちこちにある物が、すっげぇ高級品に見えるのは俺の気の所為か?』

『……残念なことに、私も同感よ。ここの家具、使われてる木材の所為か精霊が物凄く集まってるわ。ここの木で杖を作れば、多分だけど国宝になるわよ』

『……ここに置かれている物の殆どから、生産を司る神達の加護が働いた形跡があるようです。これを作った人は、間違いなく加護持ちでしょうね』


 これが仲間達の客間に対する感想なんですが、私も似たような感想を持ちました。

 一見素朴に見えながら、艶や光沢を放ち、釘を全く使っていないような机。
 抜群の座り心地から、体に全く負担を掛けることの無い椅子。
 他にも色々な家具が、ハイント王国では王すら持つことのできないような代物です。


『……本当に何者なんだよメルスって。あの女からは、王だの日本国とかいう知らねぇ国から来ただの聞いたが、全然アイツの本性が分からねぇんだよ。アイツは俺達に何を求めてるんだ? 偽善だからと言われるより、明確な対価を必要とされた方がまだ良いわ』

「それは……直ぐに分かるんでしょうね。ですが、恐らくはウルスの心配する事態にはなりませんよ。私達は、かつて決めたことを実行すれば良いんですよ」


 私は部屋に向かう気配と足音から、そう確信しました。


SIDE OUT



「AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く