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山田 武

04-50 撲滅イベント その28



 召喚士である竜人の少女──イアの指示を受けて、従魔たちが攻撃を仕掛けてくる。
 主と従魔は思念での連携が可能なので、その内容を聞き取ることはできない。

 最初に突撃してきたのは、一番最初から俺の相手をしていた狼のルー。
 爪や牙に纏わせるだけに留めていた闇属性の力を、魔法という形で行使し始める。

「やるな……だが、無駄だ」
《──『反射眼』》

 取り込んだ情報を基に、最適な攻撃への対処を自動で行ってくれる神眼……の再現。
 神気を注いで神眼を起動し、高速かつ並列化させた思考で擬似的にやっている。

 ある意味、演算的な未来視をして攻撃を把握しているわけだな。
 俺自身の体を動かして物理攻撃を剣で捌きつつ、魔法を展開、闇魔法の防御も行う。

 使われているだけで攻撃への対応が済むので、とても便利だ。
 闇には光、そして魔法の形状を真似た形で魔法を相殺していく。

 もっとも効率的に、最小限の威力で狼の魔法は自動的に防がれる。
 その様子に、単体では分が悪いと感じたようで……。

『バウバウ』
『ピー!』
『コンッ』
『(コクリ)』

 互いに鳴き声や仕草で、何をするのか決めたようだ。
 距離を取った狼の下に従魔たちが集まり、すぐさま連携攻撃を始める。

 空から降り注ぐ鷹による火の雨。
 舞い踊る青き焔は狐へ意識を向けさせる。
 天精は祈り、仲間たちを補助を施す。

 そして、幼き竜は──

『Zzz……』

「おい、先ほどからあの竜はいったい何がしたいんだ? 出てきてすぐに眠りこけ、アレから目を開けていないじゃないか」

 完全に眠っていた。
 そりゃあもうがっつりと、鼻で提灯を作るぐらいには。

 だが、当のご主人様はそれを許容しているから不思議で仕方ない。
 眠れる竜を起こす手段を、主ならば知っているだろうに……。

「……あの子はあれでいい。むしろ、あのままこそが、お前のためだ」

「へぇ、言ってくれるな。まあ、それならそれで、倒させてもらおうか」

 そう軽口を叩いて返すが、彼女は訝し気な表情を浮かべている。

「……どうして、そんなに余裕なんだ? 三回進化して、みんな強くなっている。なのにお前は、平然と会話をしている──いいさ、敵と認めてやる。こっちも出て、さっさと終わりにしてやろう」

 そんな疑念も勝手に一人で解決し、どこからともなく剣を引き抜く。
 そしてそれは、刃渡り110cmほどのいわゆる片手半剣ハンド&ハーフソード──バスターソード。

 同時に重厚な大盾を片手で持ち上げている辺り、竜人のスペックの高さを思い知る。
 武器の特徴として、大剣術も普通の剣術も使えるからな……。

 ついに武器を手にしたということは、彼女自身が打って出るということ。
 実際身体強化スキルを施し、淡く輝きを放つ体で従魔たちに告げた。

「全員行くぞ──連携してくれ!」

『!』

 声には力が籠める。
 そういうスキルを持っているからか、今の言葉には指揮を執ると同時に志気を上げる効果があったようだ……洒落じゃないぞ?

 それぞれの個体が長けた能力値がさらに強化され、俺を翻弄する。
 このままだと、俺もさすがに不味いな……低スペックのまま・・・・・・・・舐めプは難しそうだ。

「“実力偽装”──解除」

『ッ!』

「準備もできたようだな? ならば、こちらもそろそろ本気を出してもよさそうだ」

 抑えていた魔力が解き放たれ、それが魔法ではないただの圧として彼らを襲う。
 普通はちょっと気になる程度だが、我ながら量が多いからな……。

 同様に、解放された能力値が俺に人並み外れた身体能力をもたらす。
 軽く正面に拳を突き出す……それだけで、風が吹き荒れる。

「まずは……お座り」
《“圧魔迫威プレシャー”、“力場支配”》

『っ……!?』

「何、どうしたの!?」

「素が出てるぞ。貴様にだけ、奴らの苦しみが分からないのだ。わざわざ避けてやったのだ、感謝するがいい」

 口調と声から女性らしさを感じる問いかけに、威圧を掛け続けながら答える。
 力場支配スキルはもともと魔力操作を行うためのモノだが、進化でさらなる力を得た。

 ありとあらゆるエネルギーに干渉し、一定空間内を支配可能なのだ。
 俺はそれを用い、無属性魔法で全方位に放たれる威圧を収束させ、従魔たちに向けた。

 その結果、イアだけが気づくことのできない殺意に従魔たちは怯える。
 ステータス上も『状態異常:恐慌』に陥っているし……いや、一体だけ違ったか。

『ピッ!』

「起きたか。殺気を籠めれば、さすがに竜の逆鱗に触れるということか?」

「あーあ、やっちゃったか」

「……どういうことだ?」

 従魔たちにスキルか何かを施し、状態異常の解消に励みながら彼女は嘆息する。
 その理由が分からなかったが……幼竜の変化で納得がいった。

 最初に見た時よりも、少々攻撃的な見た目になっているのだ。
 爪や尾はより鋭く、鱗は堅固に、魔力は高まり──目は怒りに染まっている。

「ルビーは自分のタイミング以外で起こされるのが、とても嫌いでな。もしもそうなったときは、たとえおれ相手でも牙を剥く」

「ふむ、それだけ怒りの純度は高いということみたいだな。だが、強くなければアレも意味が無いのだが……その辺りはどうだ?」

「うちのパーティーの中で、最強の従魔だろう……お陰で苦労したわよ」

 最後の方はぼそりと言っていたが、幼竜を警戒して五感を研ぎ澄ませていた俺の耳にはばっちりと入っていた。

 どういった出会いがあったのかは知らないが、本当に苦労したのだろう。
 それでも相応の戦闘力があったから、そんな呼ばれ方をされているようだし。

『ピュイーッ!』

 怒ってはいたが、まだ微睡んでいた状態から少しずつ意識を鮮明にしていったようで。
 俺のことを起こした張本人だと認識したことで、さらに怒りを高め咆哮を上げる。

 体に魔力を張り巡らせ、さらに魔法を使用したようでエフェクトが発生した。
 異様な身体の活性化、強化系でも竜に特化した魔法──竜魔法“竜乃血潮ドラゴンブラッド”だろう。

 他にも爪や牙が魔法で強化され、準備は万端……って、あれ?
 なぜか部分的な強化の中に、胃袋まで含まれているのだが……。

「こいつ、プレイヤーを喰った経験は?」

「そりゃあある……けど、それがどうかしたのか?」

「Oh……見た目に寄らず、いや、思いっきり見た目通りにヤバいヤツだな」

 俺も演技を止めて、つい本音を漏らすぐらいには怖いな。
 魔物は魔力を食べるので、究極的に言えば何も物質的に食べずとも生きていられる。

 しかし、食事ができないわけではないし、大気中の魔力が薄い場所では普通に食う。
 それ以外にも食べる魔物は──それが必要な種族か、肉の味を覚えた個体だけだ。

 祈念者は死んだら死に戻りで肉体が消失するが、それまでに僅かな時間差タイムラグがある。
 まあ要するにだ、味を覚えて胃に納めるぐらいはできるということ。

 幼竜の大きさは大型のクレーンゲームで取れるぬいぐるみサイズ。
 それでも、人を食べられるほどの胃袋を奴は持っている……いや、シンプルに怖い。

「行け、ルビー。奴を……淫獣を喰らってしまえ!」

『ピュイーーーッ!』

 指示された幼竜がこちらへ突撃してくる。
 しかも涎がダラダラと……俺は魔力が多いため、この世界の生き物から見れば恰好の餌なのだ。

 だが、俺もただ黙って食べられるほどできた人間じゃないからな。
 迫ってくる幼竜を差し置き、別の場所に向けてまず魔法を発動する。

「他の支援は邪魔だからな。しばらくその場で待機してくれ──『滅魔結界』」

 結界魔法、封印魔法、そして称号スキルである(魔物の天敵)の効果を組み合わせ、内部の魔物が出られない空間に隔離しておいた。

 全然使いどころが無かった称号の効果も、こういうときならば役に立つ。
 実際、結界は壊れていないし、外から壊そうとしているイアもまだ失敗している。

「──さぁ、待たせたな幼竜。さっそく始めるとしよう」

 同じく、称号スキルである(竜殺しドラゴンキラー)。
 その効果を実践で試せる……そのことにわくわくしながら、幼竜と向き合うのだった。


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