AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
04-47 撲滅イベント その25
「……って、なんでまた嵌める指が固定されてるんだよ! おかしいだろ、神様!」
あれから無数のアイテムを製作して暇を潰していたが、レミル用と意識して生みだしたモノはすべて装備に制限が課せられていた。
……これが、神の御導きってか。
「うぅん、ここは……」
「っと、もう起きたのか。ずいぶんとぐっすりだったようだが、気分はどうだ?」
「て、テメェ……」
「また話せるようにしてやっただろう? 自分の身の程を弁えて、振る舞うことをこれからは心得るんだな」
少女の姿をした少年。
変身魔法によって肉体のみを変質させられたシャインは、ようやく俺の掛けた魔法から解放された。
……まあ、糸による神経支配の方はそのままなので、動くことはできないけど。
限定的に口だけを解除しているのは、反応の方を本人に言わせるためだ。
もちろん、当の本人は外せ外せと叫んではいるが……ちょいと腕に触れるだけで──
「ヒャンッ! ……な、なんだよ、今の」
「クックック……フハハハハ──ハーッハッハッハ!!」
「さ、三段笑いまですることかよ!」
「言いたかったんだよ。何をしたかって言うとだな……また夢を見せただけだ」
なお、今回の『偽想世界』は前回よりも設定に魔力を使わずに済んだので、少女が違和感を覚えることは不可能。
俺も具体的な内容は把握していなかったのだが……もう、最後の部分を観たら、なぜそうなったのかと洗い直したんだよな。
「前のアレか! ……って、なんで何にも覚えてないんだよ」
「……本当に見たいか? 正直、これは素で言うが止めておいた方がいい。お前の本性というか、業が堕ちるところまで堕ちていると言っても過言ではない」
「……おい、そこまで言われて気にならねぇわけないだろ。見せろ、テメェの感想なんて知ったこっちゃねぇよ! というか、俺のことをなんだと思ってやがる!」
「それも含めて教えてやろう。さぁ、真実を知れ。そして──変わるなよ」
少女の頭に手の乗せる。
それだけでまた敏感に反応するが、不思議と冷静な俺は作業を続けていく。
……この際、なぜか不服そうな反応をし、なぜそんな反応をしたかと葛藤する少女の姿が見えたが、無視して実行する。
「これが真実だ──“万象献譲”」
所有するあらゆる概念を、他者に譲渡することができる【謙譲】の権能。
それによって俺が把握していた、少女が夢見たすべてを脳に書き込んだ。
「あが……あががががっ!」
「精神的にな……まあ、分かっていたことだから仕方ない。けど、これも試練ってことで耐えてくれよ──“意識維持《アウェイクニング》”」
無魔法“意識維持”。
本来は体内の魔力を循環させることで、強制的に自身の意識を保ち続ける魔法だ。
だが、糸を通じてそれを少女に使い、記憶の混濁で失神しようとすることを防ぐ。
あるがままを、しっかりと認識する……現実逃避はできないわけだな。
「お、おれ……わた……わたしは……」
「お前はシャイン、一人称は俺だぞ」
「お、俺……は、ちかった……?」
「そうだな、誓ってたな。世界のモノは自分のモノとか、そういう感じのことだ」
虚ろに呟く少女に耳打ちするのは、少年であるための正しい知識。
夢の中で起きた出来事は、俺にとっても避けたい結論に至っていた。
たしかに苦しんでもらいたいが、夢の果てが現実になるのは少々困る。
なので情報を伝え続け、少年であることを忘れてもらうわけにはいかない。
そうしてしばらく、少女が夢を記憶するまでの時間魔法を掛け続けるのだった。
◆
どうしてこうなったのか……俺はそれを、腰かけたモノを見ながらふと思う。
椅子ではありえない柔らかな感触、そしてプルプルと震える手足が座り心地を落とす。
それでもソレは、ただ地に四肢を這いつくばらせている。
時折BGMとして荒い息が漏れる音が聞こえ、もじもじと座席を揺らす。
「エヘヘヘヘ……」
「……なあ、少年」
「シャインでも少女でも、豚でも好きなように呼んでください!」
「……じゃあ、シャインで」
従順になった少年──いや、シャインに改めて何故こうなったと思う。
今なお体は女のまま、しかしそれはコイツ自身が望んだことだ。
「なんでしょうか、ご主人様!」
「……それはいいや。だが、あくまでもそれは夢の中の話。つまりお前の妄想で、俺は何も命令していない。一度もお前に、ご主人様と呼べなんて強要していないんだぞ」
「それは……! 俺が、ご主人様と呼びたいだけです。あの感覚、俺のすべてを支配できるのはご主人様だけですから!」
夢の中のシャインにとって、俺は鬼畜外道な調教師だった。
飴と鞭を使い分け、反抗心を挫き痛みを悦びに変え……ついには主従関係を築く。
もちろん、俺にそう言ったことなど一度もしていない……とは言えないんだよな。
俺が弱点を刺激するのと、夢の中で起きる調教の数々がリンクしていたので。
あくまでも、シャインがその痛覚信号をどう受け止めたかという話。
てっきり最後まで抵抗するかと思えば……最近の若者は、すぐに屈服してしまったよ。
「お前、パーティーメンバーが居るだろ。アイツらのことはいいのか?」
「……ご主人様に教えられて、俺は自分がしてきたことの愚かさを知りました」
「何も教えてないがな。で、具体的には?」
「あの程度で女を所有物扱いだなんて……どれだけ低俗な男だったんだ! ご主人様の与えてくれた悦びに比べれば、俺のやってきたことなんて児戯じゃないか! ……これまでの人生より、俺は今の方が満足しています」
キリッとした顔で言っているつもりなんだろうが、四つん這いで女の子が無理して顔を作っている感じなので、どうにも締まらないように思える。
「はあ……そうかそうか。いちおう言うが、お前の[ステータス]上はもう男だぞ。体は女のままだが、すでに魔法は解除してある。体内に残っている魔力が消えれば、お前は晴れて男に戻れる」
「そう、ですか…………ご主人様、なんとかなりませんか?」
「なんとかって……女のままでいる気か?」
「はい! 男の時よりも、俺は女でいる方がいい……いいえ、女で無ければ満足できない体になったんです! 普通じゃTSはできないゲームだし……って、ご主人様はどうしてできたんですか?」
AFOは異性プレイができない。
容姿を近づけることは可能だが、体の下半分は必ず自分の性別通りだ。
実験した所、アイテムやスキルの中には変身魔法のようにそれが可能なモノがある。
本当にそれを求める者は、必ずそれらに辿り着くことだろう。
「そういうスキルがあるんだよ。それより、本当にその覚悟があるのか? 正直、お前がそうなったのは俺の責任だ。あの娘たちには悪いが、それぐらいは叶えてやろうと思っている──“収納空間”」
「それは……指輪、ですか?」
「『纏女の指輪』。装備者は、一時的に女性になる……神器だ」
「神器!? そんな凄いものが」
本当はただの魔道具のはずだったが、なぜか後から降り注いだ神の祝福。
淫魔の神といういかにもな神の祝福があるせいか、それは神器と化していた。
「話を戻そう。発動に必要なエネルギーは自動で補給してくれるし、いかなる状況においても効果が発動するから、外さない限りは女のままになる。だが……確認するぞ、お前の覚悟は本気なのか?」
「──本気です。ご主人様、どうかそれを俺に貸してください!」
なぜだろうか、その訴えかけてくる視線がそれを本気だと物語っている。
ただし、フェニを欲しがった欲の瞳とは違い……完全に盛っている動物なんですけど。
「……まあ、それでいいや。とりあえずこれは、お前に渡してやる。だが、パーティーの奴らはどうするんだ。次に会った時、お前が女になっていたんじゃロクなことにならないだろうに」
「うぐっ……」
「しっかりと考えておけよ。ほら、そろそろ降りるからちゃんと人になれ」
「………………」
いやいや、なんでもう少し、みたいな反応しているんだよ。
この後少し話し合い、妥協点を見つけてから俺たちは帰還するのだった。
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