AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

04-37 撲滅イベント その15



 圧倒的な力にモノを言わせ、鍛錬をしてこなかった者。
 そういう輩がその力を、十全な形で扱うことができるだろうか?

 力とは日々の鍛錬の中で染みつかせ、己の糧とするもの……俺はそう考えている。
 少なくともその考えは、俺をAFOの中で上の下くらいの強さにしてくれた。

 話を戻す……というか、たとえ話をすることにしよう。
 例えばそう、一人の【勇者】の話だ。

 ソレは突如として、その力を与えられた。
 目につく者を斬り裂き、自分に刃向かう相手を斬り裂き、欲望を邪魔した者たちを斬り裂いていく……ソレの中では正当な行為だ。

 力こそが正義、力こそがすべての法。
 たとえどれだけ現実世界で良識を持っていようと、異なる世界における理を誤って認識したソレは、狂ったように力を振るった。

 正しく力を扱う、果たしてソレに行うことができるだろうか──否である。
 勇ましき者、そこに蛮行を交えた時点でソレは【勇者】足り得ない存在だろう。

 それでも【勇者】足り得ているのは、素行が悪くても補えるだけの力があったからだ。
 十全であらずとも、【勇者】足り得るナニカが備わっていたせいとも言えよう。

 嗚呼、傲慢で強欲な【勇者】は、思うがままに力を振るい無数のモノを手に入れた。
 装備、能力、そして人……他者を傷つけ、そして惑わしい、仮初の光で染め上げる。

 さて、ここからが本題である──【勇者】がとある男に挑むことになった。
 ひょんなことから大量の力を手に入れ、身の丈に合わない最強と化した偽善者。

 才無き身でありながら、力の成長を高める力によって飛躍的に進化し続ける異常者だ。
 狂った【勇者】とイカれた『偽善者』、果たしてどちらが勝つのか。

  □   ◆   □   ◆   □

「その結末は、神のみぞし──」

「いつまでも、避けるんじゃない!」

「……はぁ、この程度の攻撃ならば、わざわざ剣を合わせるまでもないと何故分からぬ」

 うるさい! と叫び、振るわれる剣を回避しながら改めて思う。
 俺だって、最初は【勇者】が相手ということでだいぶ盛り上がっていたんだぞ。

 ──だがコイツ、全然強くなかったのだ。

 基本的な動きが武技による補正頼り。
 そりゃあもっとも最適な動きを勝手にやってくれるのだから、たしかに【勇者】限定の技を使えば初見殺しにはなるだろう。

 ただ、ある程度武技やスキルの自動補正に頼らない動きができる奴には無駄だ。
 逆にそういうテンプレな動きをするからこそ、騙しやすく簡単に躱せる。

 お陰で【勇者】の固有武技──“光迅”シリーズの模倣に成功した。
 それに時間があり過ぎたせいか、職業として【勇者】すらも模倣できてしまったのだ。

「──おい、だから聞いてんのか!」

「つまらぬな。いや、一つだけ賞賛する点があるとすれば、その身の矮小さを弁えていることであろうか。無駄な足掻きをせず、己独りで死を選ぶのだからな」

「くっ、一撃でも当たりさえすれば……」

「そこからか。たとえ攻撃が当たろうと、無為なこと。魔王へ絶大な効果を発揮する能力とやらも、無限や絶対ではない。大幅に向上させるだけなのだから、圧倒的な力の差にその能力は意味を成さない」

 威力補正が少々入るだろうが、全祈念者でもっともレベルを上げているのは俺である。
 大量のスキルや職業能力に物を言わせ、完封することも容易いわけだ。

 さらに言えば、一度だけ攻撃を無効化できるスキルも持っているからな。
 一度喰らえばそれだけで、対処方法もすぐに浮かぶだろう……眷族たちが!

「チーターめ……」

「なんとでも言え。貴様もこれまで、その無軌道な力を振るってきたのだろう? 奪う側から奪われる側へ、落ちただけのことだ」

「奪われる? この俺が……」

「なぜ貴様は足掻く。圧倒的な力を前に、弱者がすることは一つだろう。そのような問いかけを、貴様もしてきたはずだが? ──四肢を地につけ、無様な姿を見せよ。そうすれば、試練を終わらせ貴様に勝利を与えよう」

 要するに、土下座したら終わらせるから早くしてくれない? である。
 誰も傷つかない、とても素晴らしい考えだと思ったのだが……斬撃が飛んできた。

「……なぜだ?」

「そんなこと、できるわけないだろう!」

「やり方も知らぬか。人にさせているのだから、見て学べるはずなのだが……貴様は猿にも劣る学習能力というわけか。まずはそうだなあ、こうしよう(──“隔離結界アイソレーションバリア”)」

 思考詠唱スキルで魔法をこっそり発動し、代わりに指を鳴らして起動を示唆する。
 斬撃を飛ばし続けていたリア充君も、突如阻まれるようになった攻撃でそれに気づく。

 結界は本来、外部から内部を守るために使われるもの……“隔離結界”は珍しく、その守りが内側へ向けられた魔法である。

 そして魔法の発動は、『堕落の寝具』を介したもの……尋常ではない補正が掛かり、ビクともしない頑丈さを持ち合わせていた。

 なお、リア充君のパーティーメンバーは何もしないで見ているだけ。
 普段からワンマンプレイをしていたせいもあるが、途中で加勢しようとしたんだ。

 けど、そのときはまだ解析中で回避重視の適当な時間稼ぎだったため、リア充君にも余裕があった……その際、邪魔をするな的な発言をしていた。

 お陰で今も、そのまま見ているだけ。
 ……ふむ、これなら面白い展開に持ち込めそうな気がする。

「再度忠告しよう、頭を垂れるのであれば終わりにする……【勇者】足り得ぬ者よ、敗者としての苦汁を舐めるがよい」

「ふざ……ふざけるなぁ! 俺は【勇者】、魔王に負けるなんてありえないし、ましてや頭を下げろだと……いい加減にしろ!」

「加減をしてこれなのだがな……まあいい、では試練の内容を定めよう。貴様に問う──たとえどんな女でも、一度愛したならば愛し抜くことができるだろうか?」

「な、何を言っているんだ……」

 リア充君の顔が、バカを見るような目なのが少々癪に障るが……これからのことを考えて、立場は逆転するだろうと納得させた。

 素晴らしい実験だ、人に愛を証明させるというロマン溢れる内容を予定しているし。
 というわけで、結界を部分的に解除して俺が通れるようにしておく。

「まあ、答えずとも分かるさ。これから、直接学びに行くからな」

「! 結界に穴が……なら、ここから──」

「行かせるはずがなかろう。そして、貴様には眠ってもらうぞ──『浸透勁シントウケイ』」

「そんな攻撃、喰らう……速ッ、かはっ!」

 気闘術、魔闘術共通の武技なのだが、祈念者が使っていたものを模倣した。
 効果は防御無視の貫通攻撃……死にかけだろうが、まあきっと生きているさ。

「さぁ、諸君! 君たちの愛した男の、真の姿を知りたいだろう? 心の中で君たちをどう思い、もしものときに君たちを救うのか。結果が分かり切っていても、それを知るのは君たちの義務──試練の幕が上がる!」

 いい夢を見ろよ、リア充君。
 複合能力──『■■■■』。


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