AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

04-33 撲滅イベント その11



 どうもどうも、先ほどまで無双していた偽善者です。
 俺のようなモブ野郎にも優しくしてくれた四人組と別れ、気分は上々。

 リア充も捨てたものではない、やはり人なのだからアタリハズレがあるものなんだなぁと学ぶことができました、まる。

「──はてさて、何か言いたいことは?」

「……それは俺たちの台詞なんだが?」

 魔法陣は空間魔法を行った際のフェイク。
 演出として展開し、実際には“時空転移テレポート”で特定の場所に飛ばし……その集団の一つと接している。

 俺の行った試練……的なナニカ。
 その中でももっとも優秀な成績を叩き出した、最強のクラン──『ユニーク』。

 彼らのみを集め、同じ場所に転送しておいた俺は、その場所に赴いた。
 それはイベントエリアの上空、結界で覆った雲の中である。

「僕たち、結構頑張ったんだけど……師匠は何に怒っているの?」

「別にー。俺の作戦にー、わざわざ俺の武器が使われたのは―、何かの皮肉なんじゃないかなってー」

「ウザいわね」

 ドストレートにいろいろと言ってくる女子たちに、含みながら語っていた俺とナックルはなんだかやるせない気持ちになってきた。

「……お前のアレは、いったいなんだ?」

「──『英雄試練・怪力無双』のことか? 俺のアレンジもあるが、神話に沿った化け物たちを魔力で具現化させるんだ。分かりやすいたとえを挙げると……ドラゴンのギリシャ神話版だな」

「……なるほど」

「具現魔法があれば簡単にな。他の魔法と組み合わせると、物質化することができる。ノロジーの化学魔法なんかとセットにすると、こんな風に……ヤバいモノが創れる」

 じゃーんと密閉した容器を取り出し、突然話を振った彼女に見せる。
 今では同じ魔法の所持者なので、その正体が分かる魔法があることを知っているし。

「こ、これは……」

「……聞きたくないが、そんなに不味いモノなのか?」

「そりゃあもちろん。なんてったって──原子番号92だ」

「う、ウランじゃないですか!?」

 原子番号だけで理解できるって……俺はこれを準備するために、念入りな情報確認が必要だったというのに。

 ちなみに化学魔法には原子や分子を創造する魔法もあるのだが、基本的に魔法で生みだされたものは時間が経てば消失する。

 具現魔法はその制限時間を、魔力という対価で無くすことが可能なのだ。
 他の属性魔法と組み合わせると、大半のモノは実際に生みだせるようになる。

「──ノロジーがウランでトリップしたことはさておき」

「……さておくなよ」

「とりあえず、お前らにこの後のイベントをやらせるわけにはいかない。というか、もうお土産はたっぷり使っただろう? 代わりにいい場所を用意するから帰ってくれ──例えば、迷宮ダンジョンとか」

「…………もう少し詳しく」

 妙に食いつきの良いナックルに首を傾げながらも、説明を行う。
 後ろの方では俺たちの会話を、全員で耳を澄ませて盗聴しているが気にしない。

「ナックル以外の奴にも言っておくが、俺の就く職業の一つは【迷宮主ダンジョンマスター】。で、過去に核をゲットしてオリジナルの迷宮を造っている。でも、テストプレイヤーが足りないから困っていた……どうする?」

「──よし、全員撤退!」

 自己紹介からまあ、なんとなく察しては居たが即答だ。
 念のため、そう思い後ろを振り返れば……誰も彼もがやっぱりという表情を。

 代表として、弟子のユウさんに訊いてみようと思います。

「あれ……どういうことだ?」

「あの人、迷宮が大好きなんだよ。馬の前に人参をぶら提げるのと同じくらい」

「そりゃあまあ……ずいぶんと好きだな。通りで尋常ではない興奮っぷりだった」

「そうなんだよ。だから、話すときは迷宮は禁句なんだよ? 一度話すと、いつまでも話し続けるからね……もちろん、科学のことをノロジーに訊くのと同じくらいだよ」

 共にトリップしているノロジーとナックルの姿に苦笑する。
 まあ、片やイケてるとはいえおじさん、片や美少女……見た目に差が存在していた。

 それでも、イケてるオジさん……イケオジなんだよな、ナックルって。
 将来自分もそうなりたいとは思う……その趣味は除いて。

「コホン。とりあえず、お前らは転送するからな。気分的に……“時空開門ゲート”」

「……時空魔法」

「アルカ、急に敵意を剥き出しにしないでもらいたいんだが? これを潜った先が迷宮になって──」

「何をやっているお前ら! 全員、さっさと攻略しに行くぞ!」

 迷宮の発見例は少なく、そのすべてが攻略済みという話だし。
 まだ誰も踏破できていない場所ということで、興奮しているのだろう。

 真っ先に安全も確認せず、リーダーであるナックルが突っ込んでいった。
 しかし慣れたことなのかクランのメンバーたちも、共に門を潜っていく。

「ねぇ、これから師匠は何をするの?」

「まあ、イベントを滅茶滅茶にするんだが、それより前にやることがあるな」

「……何を?」

「そうだなー、説得だな」

 祈念者で(俺を除けば)もっとも強い。
 その域に達してしまっている二人の少女。
 彼女たちにも、この先のイベントには参加しないでもらわないと。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「よ、よぉ……久しぶり」

 再転移し、先ほどと同じような場所へ。
 ただしここには二人しか居らず、片方はジトーっとこちらを見つめていた。

「ええ、久しぶり。まったく連絡をしてこなかった──メ・ル・ス・様!」

「悪かったって。いろんな武具を創ったり、新しい眷族を作ったり……本当、忙しい日々だったんだよ」

「……眷族になってくれるような奇特な人、本当にいるの?」

 うぅ、ティンスの視線が冷たい。
 その点、オブリはとてもニコニコしているというのに。

「ねぇねぇお兄ちゃん、どんな人なの?」

「そうだな……死ぬことに生き甲斐を覚えている変人、かな?」

「やっぱり奇特じゃない」

「……まあ、そこは否定しない」

 眷属と眷族で違いはあるが、眷軍強化スキルの恩恵を受けたという点では同じだ。
 その眷族──フェニの家族としての良さを省くと……それぐらいしか無いんだよな。

「そういえばティンス、オブリ。あれから何か報告するようなこと、あったか? 例えばほら、新しいメンバーとかクランに関する話とか……」

「「特にない(わ)よ」」

「そ、そうか……なんだ、何もないのか。他に報告することなんてないし。じゃあ、本題に移──」

「あるわよ、そっちは。最近、能力値の補正が上がっている気がするんだけど……どういうことかしら?」

 眷属と眷族の恩恵の一つ、俺の能力値に比例した常時実行される強化バフだ。
 能力の共有と違い、すべての能力値が常時補正されるチートに近いものだ。

 ……まあ、俺への恩恵が皆無なのだが、これは俺の有り余る力を使ってもらいたいという、願望的なナニカが発露したからだろう。

「急にステータスが上昇して、このイベント中も敵なしの無双よ。いったいどうなっているのかしら?」

「聞きたいか?」

「ええ」「うん」

「なら、教えてやろう。あれから、いったい何があったのかを──」

 このイベント中、何があったかを伝える。
 ついでにフェニとレミル、そして【英雄】姉妹の情報も開示した。

 とはいえ、完全に全部教えると揉めそうなので最低限。
 どんな女の子なのか、今度はフェニも含めて真面目に話す。

「──とまあ、そんなわけだ」

「いろいろとツッコミたいけど……私たちより、大変な状況だったのね?」

「俺としては、お前らも充分偽善をしたいと思える理由があったと思うけど……そう思うなら、そうなんじゃないか?」

 深く聞いたわけではないが、本当に凡人として生きてきた俺が経験や見学したことのないような出来事であった。

「フェニもフェニで、俺に呼ばれるまでの記憶が無いし、レミルはさっき話した通り元は陰謀のために使われていた……こっちの世界は、決して甘くは無いんだよな」

「「…………」」

「けど、厳しいわけでもない。俺みたいな奴でも、人の役に立てる……ただ自分のやりたいことをやっているだけなのにな。過去がどうあれ、今の二人はこっち側だ。自分のやりたいことを、押し通せる力がある」

 文句があるならぶっ倒す。
 それが許されてしまうのがこの世界……使いようによっては暴力でしかないのだが、彼女たちならば、正しく扱えるだろう。

「それじゃあ、二人を転送するぞ。さすがに『ユニーク』と同じ場所は危険だろうし……二階層でいいか」

「そうしてほしいわ。まだ、手の内は隠しておきたいし……[フレンド]登録、私たちともするわよ。ここで言っておかないと、また忘れられそうだし」

「急だな……まあ、話の流れからそうなるよな。──よし、オブリもやるぞ」

「うん、ありがとうお兄ちゃん!」

 なんてことをやってから、二人を迷宮へ飛ばして、この場に俺だけが残る。
 ……送った者たちは全員リタイア扱いだろうが、もうこれ以上ポイントは稼げない。

「だからのんびり遊んでいてくれ……俺がすべてを、終わらせるまで」

 そんないかにもな台詞を呟いた後、俺もまた転移してここを去るのだった。


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