AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

02-35 王との交渉



「あー、戻ってきたな」

 アップデート前イベントが終わり、俺たちは『始まりの町』へ転送された。
 辺りを見渡せば、初めてこの世界で見た景色が今もなお残っている。

 かなり長い間、遠くに行っていたからだろう……プレイヤーの中にはすぐに何かをしようと走る者がいた。
 イベント期間中も戻れたはずなんだが、ポイント稼ぎにのめり込んでいたんだな。

「さて、俺もシステムの確認をするか」

 適当にメニューを操作してステータスを確認してみると、『満腹度:∞/100』という数値が表示されていた。
 バグかよ、とツッコみたい者もいるかもしれないが──これもチートの一つだな。

「食い溜めができる【暴食】が、今までの味見分もカウントしてくれたんだな。まあ、長い数字の羅列じゃなくてよかったよ」

 満腹度に関する問題は無さそうなので、メニューを操作して非表示にしておく。
 ON/OFFの切り替えに隠蔽系スキルが必要となる場合もあるが、今回はプレイヤー全員が自由に隠せるようになっていた。

 おそらく満腹度がプレイヤーにしか表示されない数値だから、そういった設定になっているのだろう。
 気になってこの世界の住民たちのステータスを調べても、満腹度に関する情報が表示されないのだからたぶん合っている。

「……しかしまあ、そこまで大きな変化は無いみたいだな」

 プレイヤーが就けないだけで、もともとさまざまな職種がこの世界には存在する。
 それは他の奴らも存知だと思うし、だからこそ新しく自分がなれるようになった職業に喜びの声を上げているのだろう。

「おっと、こうしちゃいられないな……早く始めないと」

 とある場所に向けて、移動を行う。
 その理由は──ダイジェストでな。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 これは、メルスがイベントの最中──王城での出来事だ。


「私はこの国──ネイロ王国そのものを欲します。ぜひ、検討を」


 迷宮の単独踏破、また邪神教徒レイヴンの討伐の褒美に対する回答であった。
 求める瞳はとても鋭き意志を宿し、だが野望染みた昏さを感じさせない。

 しかし、眼がどう語ろうと貴族たちの耳に届いたのは簒奪の予告である。
 その場に居る者すべてがメルスに向け、失望と警戒、怒りの視線を向け始めた。

「……理由を、聞かせてもらおうか」

 全員の言葉を代表し、国王であるジークが訊ねる。
 彼もまたいつもの朗らかな表情は鳴りを潜め、王としての貫録ある相貌をしていた。

 緊張感が場を包む。
 誰かが唾を嚥下する音がやけに大きく鳴ると、メルスが口を開く。

「説明しましょう、すべてを。私の──」

「その前に、口調を戻していくことじゃ」

「……まあ、いいけど。俺はこの時代の、いやこの世界の者じゃない。はるか未来の時代において、別の世界から招かれた招かれざる客人ってわけだ」

「最後が矛盾しておるぞ」

 メルスがそう説明したのも、プレイヤーのすべてが善人では無いからだ。
 ここ数日に現れた人々をたとえに挙げ、説明することでその点のみに関しては場の者たちの納得を得た。

「俺はその中でも、ある程度力がある者なんだ。だからこそ、邪神教徒にも単独で対処できたってわけ……そして、ここに来ている奴らの中で、唯一未来のこの国を知っている」

『ッ!?』

「反応が分かりやすくて助かる……だが、それは確実に今とは異なる。なぜなら──」

 魔武具『万智の魔本』を取りだし、魔力を注ぐメルス──すると本から光が投影され、映像が流れ始める。
 そっと闇魔法“消明ライトアウト”で場を暗くするが、誰も彼もが再生前に映し出された景色に目を奪われていたためツッコミを入れない。


「俺の居た時代では、この国の王族はほとんど死んでいるんだからさ」


 古び、改修された建物群。
 今もなお刻まれる惨劇の痕は、生半可なことが起きたのではないと証明していた。


  □   ◆   □   ◆   □

 ──すみません、少し訊きたいことがあるのですが……。

「はい、何でしょうか?」

 ──この国には来たばかりでして……何だか、怖い雰囲気がありますね。

「……ああ、国王の命令でな。税金が上がったり、泣き寝入りをさせられたりいろいろとあったんだよ」

 ──国王、ですか。それはいったいどのような方なんでしょうか?

「名前は『ゴーク・サウンド』。十年前にこの国に起きた悲劇を免れた、現王族唯一の生き残りさ」

 ──ゴーク・サウンド様……ですか。

「十年前、この国は大量の魔物に襲われた。そのときに国に居た王族たちは、何者かの手によって暗殺された。たまたま偶然、そのとき外で放蕩していた彼が、必然的に次の王座に就いたのさ……誰も認めたくはないがね」

  □   ◆   □   ◆   □

『…………』

 それからも、映像は続いている。
 だが誰も言葉を発することなく、唖然としたままそれを眺めていた。

 新王について調査をする暇があまりなかったので、特に細かいことは調べていない……というか、十年の月日が彼らにはあるのだから意味も無いと思ってたんだよ。

「返事はしなくても構わないが、いちおう分かっている情報を伝えておく。今もこの国は残っているし、その王様が散財していること以外は特に問題も無い。けど……神の信仰がかなり高まっている」

 これが何を意味するか、この時代との変化が物語ってしまっていた。
 なぜ、この世界が生みだされたのか……普通はモブが絡める問題じゃないよな。


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