AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
02-24 過去の王都 その08
「…………」
沈黙してしまったが、仕方がないだろう。
ギルドマスターに会うことも想定から少し外れていたが、その隣で立っていたご老人がまさか国王だったとは……レアケースだな。
というか、なんでギルドに居るんだろう?
「フフッ、驚いているようですね」
「うむ。少し危険ではあったが、わざわざ出向いて正解だったのぅ」
「ああ、説明をしようか。このお方の名前は『ジーク・ヴルム・サウンド』、現国王にして賢王と呼ばれるお方だよ」
「そうでもないんじゃがのぅ。メルスやら、儂のことはジークで構わんよ」
何か言っているが、フリーズしていた凡人スペックの頭脳ではあまり理解できない。
まあ、国王様のドッキリぐらいのレベルで理解しておこう。
「……私は報告をしにきました。しかし、他にも何か用件があったとのことで。いったいどういったものなのでしょうか?」
「ああ、言ってなかったね。実は──」
「特に必要はなかったのじゃが、ぜひこの目で見たいと思ったのじゃ。これがいわゆる、王の権限というヤツじゃろうか?」
依頼主のお言葉なので、ある意味間違ってはいないんだけどさ。
突然のキャンセルをされているわけでもないし、顔を出すぐらい問題ない。
「もう少し、深い理由があるんだけどね……君が攻略した迷宮は、少なくともランクBぐらいはないと踏破できないはずなんだ」
「B……受注条件はD+のはずでは?」
「うん、パーティーでの攻略ならね。だけど君は、それを単独で成した……つまり、確実にBランクを超えているわけさ。現状、都において最強だよ? 素晴らしいじゃないか」
「は、はあ……そ、ソウデスネ」
どういう計算なんだろう?
単純な数じゃなく、連係プレイなどを加味したものだということは分かるが……それなら聖・魔武具や神器を持っている俺に、単純な人数だけで実力の把握ってできないよな。
「そこでだ──メルス君には、Sランクの冒険者となってほしい」
「いや、意味が分からないんですけど」
「うむ、それが本性か。メルスよ、お主の演技が常に魑魅魍魎と相対するギルドマスターや王族に通ずるはずがなかろう」
「……まあ、いいけど。それで、ほとんど意味が分からない。どうしてランクBの強さの話からSまで飛ぶんだ?」
大根役者、なんだろうなー。
平然とした発言をしたかったが、おそらく浮かべている笑みからして俺の演技なんて最初から分かっていたんだろう。
「細かい条件が面倒だからだよ。君のランクはおそらく、止めているんだろう? C-からは試験が必要だからね」
「…………」
「じゃが、Sランクは別じゃぞ。王族の認証があれば、簡単な審査だけでなることが可能なんじゃ……特別処置というヤツじゃな」
「そして、その条件を君は満たしている。ここには国王が居て、Sランクになることを君が望んでくれれば了承してくれる。さて、どうするのかな?」
二人の視線は期待をしていた。
俺にも得が有りそうな話で、サブカル好きであれば『異世界に行ったらやりたいこと』の一つに加えていそうな展開だ。
俺がSランク、しかも王族推薦で。
こうした話の流れ的に、彼らはそれを全力でバックアップしてくれる。
なら、俺の答えは──
「いや、面倒そうだからやめておくわ」
それで済ませられるほど、簡単な話ではなかったようだ。
話を別の場所でする、と言われて仕方なくついていき──そこへ辿り着く。
「あの……俺にはここが、訓練場のように見えるんだが」
「その通り。新人でも使えるから、君がもし後輩を育成したいなら、いつでも申請をしてくれれば開放するよ」
「そしてなぜか、俺はアーチさんと向かい合う形で対峙している」
「アーチでいいよ。同じSランクさ」
勝手にSランク認定されていることは、とりあえずスルー。
状況の把握をするため、口に出して訊ねることで認識を少しずつ修正していく。
「アーチさん。どうしても、やらなければならないんですか?」
「うん、お願いするよ。結局君だって、最後にはなることを了承してくれたじゃないか。だから私はその審査員として、君と闘うことになった」
「見届け人は儂、審判は──」
「私が行います」
ギルド長室の前でスタンバイしていた、俺の完遂報告を受けた受付嬢である。
受付嬢って、受付に居るだけじゃ成り立たない職業なんだと今回知ったよ。
王様──ジークさんは、観客席に用意されていたVIP席に座りながらの観戦だ。
完全に見物人だな……と思ってしまう。
「俺が勝つ必要は、無いはずだよな?」
「そうだよ。もちろん、君が勝っても問題はないけど……ずいぶんと余裕そうだね」
「いや、気になったからさ」
リーの(実力偽装)で制御した能力値は、予め解放しておく。
だが、武器の方はまだ分からないので直接見せはしない。
……そう、この世界には武器以外にも攻撃手段があるのだから。
「それではこれより、Sランク認定試験を始めます」
受付嬢が淡々と開始予告を行った。
ゴクリと唾を呑み込み、武器を構えるアーチさんの様子を窺う。
握り締めているのは先端が物凄く鋭い──『レイピア』って剣だっけ?
魔力が籠もっているようなので、魔具である可能性も高い。
鑑定はしてあるが、まだまだレベルの低いためロクな情報を看破できていない。
基本情報(名前や種族・職業)などは分かるが、スキルなどの今必要とされる情報に関してはさっぱりである。
「準備はいいかな?」
「ああ、いつでも」
逃げていても結局追われるだけだ。
今回ばかりのちっぽけな思いをぶつけ、自分の中にあるエンジンを動かす。
「二人共、準備はよろしいようですね──始めてください!」
そして、ついに試験が始まる。
アーチさんは俺がまず何をするかを知りたいのか、体を動かすことなく俺の挙動を細かく観察していた。
「……すぐに攻撃してこないのはいいことだよ。けど、待ちすぎるのもダメだ」
「いやいや、そういう倒し方もあるだろ? 待つことで自ずと利益を得る、時間こそが俺の味方だよ」
「それは……舐めているのかな?」
「そういうことは、俺に手を出させてから言うことだな」
あえて挑発して取りだしたのは、【怠惰】の象徴『堕落の寝具』。
素晴らしき布団の中に潜りこみ、顔だけ出して会話を行う。
「…………ふぅ、とんでもない魔力を感じるよ。それ、いったい何なんだい?」
「おいおい、冒険者は秘密があってもいいはずだろ? 隠し事の一つや二つ、誰にだってあるんだからさ」
「そういうレベルじゃ、ないんだよ!」
どこからか吹いた風に乗って、勢いよくレイピアを俺に刺そうとする──直前で、甲高い金属音が鳴り響く。
「結界か!」
「ご名答。壊さないと、俺はゆっくりと時間稼ぎができる」
「これならどうだ──“貫通突”!」
武技の光を纏った攻撃だ。
攻撃が来ないという絶対の安心感を持っているため、余裕を持った思考を維持できる。
ふむ、ログにある台詞のメモ機能によれば字は『貫通突』と書くようだ……武技も模倣できるようになったが、そういう細かい部分まで認識してないと使えないらしいんだよ。
「けどまあ、まだ甘い」
「っ……! 貫通特化でも駄目なのか!」
「一つ教えてやるよ。この結界は動かせる、それも物凄い速さで」
「それが攻略の秘密かな? けど、それだけじゃないみたいだね」
まったく情報が無いよりは、一つあった方が相手の誤解を生みやすい。
勝手に思案してくれるので、わざわざ答え合わせをしようとしないからだ。
「物理攻撃には強いみたいだけど、魔法にはどうかな? …………“雷槍”」
スピードタイプなのかな?
風属性の派生にして、速射と威力を両立した雷魔法。
中でも貫通力の高い“雷槍”を用意し、一気に十本を纏めて解き放つ。
「少し明るいんだが……暗くしてくれよ」
「魔法もか……どちらかだけだったら、まだ私の中でも理解の範疇に収まったのだがね」
「時代はいつだって、変革を求めているんだろうよ。よかったじゃないか、敵対者がそんな結界を使う前でさ」
そろそろ頃合いかな?
意思の力でどうにか布団を脱出して、試作品の短杖を構える。
「ほら、結界は解除した。そろそろ攻撃して合格を貰うことにするよ」
「もう少しだけ足掻かせてもらわないと、ギルドマスターとしての示しがつかなさそうだね──“風爆撃”!」
「そうはいかない。強ければ強いほど、俺に命令できなくなる(──“万能吸収”)」
「っ……! いったいどうやって」
お馴染みの思考詠唱と無詠唱スキルを同時に行使し、グーの装備スキルを起動させる。
あらゆるものを取り込み、解析にかけることで叡智として吸収するこのスキル……森人の魔力が欲しかったので、闘技大会で使った方ではなくこちらを使用した。
「これも秘密にしておいてくれよ……っと、そろそろ終わりの方がいいか。アーチさん、必死に防御していてくれ」
「……そうだね、そうしておくよ」
俺の言葉に危険を感じ取ったのか、これまた風系の魔法で防御魔法を構築していく。
見ても学習できる便利な『万智の魔本』。
俺の視界を介して行う解析でも、情報が自動筆記される仕様だ。
「それじゃあ、俺も準備をするぞ」
あえて口頭で告げてから、攻撃魔法を用意し始める。
創作物でもよくある、基本属性を束ねただけの強力な一撃……今回はそれをやってみようと思う。
主人公たちほど簡単にはできないが、魔法の練習をやっていたのでそれなりに構築に手間取ることなく用意ができた。
基本属性とその派生属性であれば自在に束ねられるようになった【森羅魔法】を使い、火・水・風・土・光・闇属性の力を無属性で基盤を整えて束ねていく。
「名づけて──混沌槍かな?」
「…………」
虹色ではない、禍々しいナニカとなってしまったのは俺の実力不足だろう。
主人公であればきっと、美しい虹色の輝き的なものを生みだせるんだろうが……これがモブの限界だ。
「それじゃあ、行きますよー!」
緻密な魔力操作をしているようなので、返事は聞かずに数秒経ったら解放する。
複雑に絡み合った属性の力が反発し合い、今にも暴発しそうになっていた。
無属性の魔力で無理に押し込んで抑制しているが、それも何かに触れた途端消える。
槍を飛ばすと風の障壁に阻まれた。
すると無属性魔力によるセーブが解除されて、反発による魔力の暴走がアーチさんのすぐ近くで起きる。
「おっと、結界を展開しないと」
アーチさんは自前のものが有るからやらないが、受付嬢と国王様の安全を守っておかないと不味い気がしたのだ。
そのため二人をそれぞれ結界で包み込み、安全を確保する。
そして次の瞬間、これまでの結界であれば壊れてしまいそうなほど荒々しい魔力の波動が一気に暴れ回る。
アーチさんは……うん、大丈夫そうだ。
残りの二人も俺の結界で防いでいたので、驚愕の表情を浮かべるだけで済んでいる。
「いやいや、凄いねメルス君。こんなことができるなら、もっと謙遜してくれてもよかったんだよ」
「自慢してどうする? ぜひその力を、ギルドのために役立ててほしいとでも言って、無理に懲役する気だろ? たとえギルドを辞めろと言われても、答えはNOで固定だぞ」
多少煙が出てしまったのだが、中から現れたアーチさんは汚れている所もないので無傷で凌ぎ切ったようだ。
「うん、それもそうだね……ああ、試験については合格さ。君は今日から、ランクSの冒険者になれるんだ」
「はいはい、ありがとうございます。ああ、先に言うが俺は数十年単位で仕事をしないからな。強制依頼で何を押しつけられようと、その期間は絶対に何もしない」
「……何かあるみたいだね。本申請をズラしておくよ、どれくらいの期間を用意しておけばいいのかな?」
「…………十年」
いったん元の部屋まで戻り、それぞれの定位置にスタンバイ。
受付嬢──セリーさんというらしい──にギルドカードを渡して、交換をしてもらっている間の暇潰しである。
「これで私の要件は終わりだ。ここからは、こっちのジークが話すことになる」
「うむ。ずいぶんと黙っていたせいで、だいぶ暇であったわ」
そういえば、会話はしてないな。
少しだけ捕捉説明ぐらいならあったが、ここにいる目的とかは聞いてなかったし。
ふむ、理由とやらが聞けるといいが……。
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