AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
02-18 過去の王都 その02
「ここは……ネイロ王国なのか?」
なんてシリアスっぽいことを言ってはいたものの、すぐに意識を切り替えて街の散策を始めていた。
こういう細かいことは主人公が考えるようなことであって、決してモブが逐一確認しなければならないことではないだろう。
いちおうグーが調査をしてはいるが……まあ、現状に問題はない。
「まあ、過去の時代と言えばやっぱりこういう場所だよな~。うんうん、どいつもこいつも目がアレだ」
スラム街、とまでは言わないが貧民街とも呼べる少し荒れ果てた場所を歩いている俺。
少なくとも、現在のネイロ王国では見たことがなかったのだが……現在に至る間に変化があったのか?
それはいずれ調べるにして、今はやるべきことをやる必要があった。
辺りの気配をスキルで探知し、誰か救われるべき者がいないかウロウロと練り歩く。
「ん? この反応は……」
やがて俺の視界には、巧妙に偽装が施された階段が一つポツンと映った。
少し覗いてみるが、かなり下まで続いているように見える。
「かなりの数、衰弱した反応がある。そしていかにも怪しい、地下へ続く階段……俺の知識が正しいなら、これは間違いなくあれだ」
奴隷屋、人身売買を非合法に行う場所。
人ではなく呪いのアイテムがあるのであれば、勘違いもしただろうが……あまりに人の数が多いので、俺の考えが正しいと思う。
「選択肢は限られたな、偽善者としての俺がどう動くべきか」
一、敵対者を倒して奴隷を救う
二、こっそり隠れて奴隷を救う
奴隷を救わない、という選択肢は偽善者として落第なので捨てている。
まあ、本人たちに救うなと言われるのであれば、やり方を追加するつもりではあるが。
「うーん、でも選択次第で運命が変わるって言ってたっけ……なら、二番をセレクトだ」
一番を選んで人を殺めてしまえば、その者の生という運命を狂わせてしまう。
だが二番であれば、敵対行動を取らないのでその可能性は格段に減少する。
「でも、偽善者らしいロールか……バレる前のリョクへの接し方でいいか」
高圧的な態度の方が、俺としても楽だからイイんだけどさ。
選択次第で変更はあるが……そこはまあ、臨機応変にやっていこう。
「さて、それじゃあ行きますか!」
◆ □ ◆ □ ◆
SIDE:とある奴隷の少女
それからは毎日が地獄だった。
気が付いたとき、私たちは全員薄暗い檻の中に居た。
どうしてそうなったのか、知っている者は誰もいなかった。
『いいか、貴様らはとあるお偉い様のために売られる奴隷だ。味見もできないのは残念だが……言うことを聞かなければ、檻ごとに連帯責任で鞭打ちとする。ぐふふふっ、嫌なら大人しくご主人様が現れるのを待っているのだな。ふはははははっ!』
奴隷商を名乗る男の人は、そう言って私たちを檻の中に閉じ込めた。
何かをさせるわけでもなく、生かすために最低限の食事だけを与えて。
大人と子供も檻で分けられ、その存在をたしかめられるのは奴隷商がいないときか鞭で打たれているときだけ。
できるだけ小さな声で、家族を呼ぼうとする声が逆に痛々しかった。
初めの内は抗おうとする人もいたけど、ご飯を食べられないからそんな元気も少しずつ減っていって……今では誰も何もしない。
ただ時間だけが過ぎていく日々、私たちに闘おうとする意志は無かった。
「こほっ、ごほっ……」
「フーリ! 大丈夫なの?」
「……大丈──こほっ!」
だけど、いつかはどうにかしないと不味い環境でもあった。
不衛生な暗い檻の中は、老人や子供が発症した状態異常が蔓延していった。
もともと体の弱かったフーリも、一人目の感染者が現れてからすぐにそうなった。
「……お姉ちゃん、寒い」
「寒い? 熱くはないの?」
これまでフーリは、体からとても高い熱を放っていた。
他の人たちも同じように、そんな状態だったからどうにか冷やそうと周りの人たちが頑張っている。
「……さむい、さむいよ、おねぇちゃん」
「フーリ……」
ポロポロと零れ出ている涙に、ただ事じゃないことが分かる。
これまで根を上げることなく、逆に私を慰めようとしていたフーリが、初めて辛さを私に吐露した。
冷え切った体は、まるで命が停まっていくようで……私の心にポッカリと穴が空く。
荒げる呼吸は、まるで死が近づいていくようで……私の呼吸も速くなっていく。
「どうして……私たちが、こんな目に遭わなきゃならないの?」
「……おねぇ、ちゃん……?」
ふつふつとナニカが私の中で煮えてくる。
理不尽な運命、抗いようのない力、何もできない自分に怒りが沸いてきた。
力があれば、村に現れた男の人たちを追い払うことだってできただろう。
それができなかったのは、私たち全員があの人たちより弱かったからだ。
「フーリ、私は弱かったんだね」
「…………」
「強くなりたいよ……こんなことにならないように、みんながいっしょに居られるための力が欲しいよ」
「……おねぇちゃん」
フーリの体は芯まで冷えていく。
私はそれを防ごうと、ただギュッと抱きしめることしかできない。
ごめんね、何もできないお姉ちゃんで。
けど、謝ろうと……憎もうとしていられたのはここまでだった。
「──ここか、願いを唱える者が居るのは」
階段の方から、声が聞こえた。
コツコツと降りる音が、ゆっくりと鳴る。
不思議と私たちは、その音が鳴る先を闇の中で見ようとしていた。
いつも奴隷商が気持ち悪い笑い声をあげる時は、決して見ようとしないその場所を。
「ふむ、やはり奴隷か。その首輪、貴様らが望んで嵌めたものか?」
闇の中から現れたのは、不思議な格好をした男の人……だと思う。
黒い煙みたいな物がその人の体を包んでいて、よく顔を見ることができないから。
そして、そんな男の人が訊ねた質問。
沸々と煮えていた怒りを零すように、私は小さく呟いた。
「──違う」
「そうか……貴様であったな、願いを唱える者は。なるほど、意志はあるようだ」
「どういう、ことですか?」
男の人はくくっと笑うと、大げさに手を横へ広げて言う。
「この状態で、今自分で何もできないことへ憤りを感じているのだろう? 大事に抱きしめるその少女は死にかけ、他の者も衰弱で今にも倒れそうだ。子供であるというのに、貴様はなんと強き思いの持ち主なんだろうか」
「…………」
「貴様に復讐の意志を宿すのもいいが、ただありふれた物語になど興味はない。まずは、貴様らに一つ目の救済を──“広域恢復”」
男の人から放たれた温かな光。
それは檻の中に居る私たち全員を優しく包み──体の調子を治してくれた。
フーリの冷えた体も、少しだけ温かさを取り戻していく。
呼吸もゆっくり、落ち着いていく……周りのみんなもそうなっているんだと分かった。
「すまんが、感動の話し合いはあとにしてくれ。面倒事がそろそろ来そうだ」
「えっ、あの……」
「少なくとも今の魔法で、貴様が抱いたその娘の病気は完治した。次は……囚われの環境から解き放とう──“時空転移”」
今度は私たちの足元が光りだす。
どうやら、ここではないどこかへ連れ出そうとしているみたい。
(でも、この人なら……違うのかな?)
私の声を聞いて、ここに現れてくれたという男の人。
妹を抱き締める私に向けて、自分が何をしようとしているのかを逐一教えてくれる。
そんなことしなくても、自分がやりたいようにやればいいのに……。
だけど、きっと優しい人なんだろう。
ただの村娘である私なんかを気遣って、助けてくれようとしている。
(けど、お礼ができるのかな?)
この人が悪魔だったら、私の命だけでみんなを救ってくれるのだろうか?
うん、たぶん助けてくれるよね。
理由なんて無いけど、嫌いになった場所から消える中で……そう思った。
◆ □ ◆ □ ◆
眩しい太陽が私たちの目を傷める。
暗い檻の中に居た影響で、明るいものを見れなくなっていたのかもしれない。
なんだか花の匂いがふんわりと漂う場所だけど、今の私では確認できなかった。
「すまない──“広域回復”」
再び温かい光が私たちを包むと、少しずつ目がその明るさに慣れていった。
そして、広がる光景を視界に収める。
「……綺麗」
隣に居たフーリが、小さく息を漏らす。
ふらふらしているけど自分の足で立って、その目を開いて。
「フーリ!」
あちこちで泣き声混じりの歓声が上がる。
暗い檻から解き放たれ、自由を手にしたと強く実感ができたから。
私もフーリをまた抱きしめて、抱きしめ返されることで実感を感じていた。
「代表者、は貴様ではないか。村長、であっているのな? そいつは出てこい」
もう一度私の方を確認してから、男の人は前に進み出た村長と共に少し離れた場所へ向かっていった。
そこには太陽に届くような、巨大なお城が聳え立っている。
王様、なのかな?
こんなに立派なお城を持っているなら。
「──フーラ、フーリ!」
「二人共、大丈夫!?」
「……「お父さん、お母さん!」」
あの人がいなくなったことで、自分の居た場所から動いて家族の元にみんな向かう。
お父さんとお母さんも、私たちの元に駆けつけてくれた。
私たちも久しぶりの笑顔を浮かべて、二人に抱き着く。
(でも……)
「どうしたんだ? フーラ」
「えっ? う、ううん、なんでもない!」
とっさだったからお父さんにはそう言ったけど、すぐに視線はあの人の方へ向かう。
そんな私にフーリは気づき、二人が観ているからとお父さんとお母さんも気づいた。
「……まさか! フーラはああいう男が好みだったのか……」
「あらあら、運命の恋ね」
「そんな悠長なことを言っている場合か! このままでは、うちの娘が……」
何か二人が話しているみたいだけど、私の耳には届いてこない。
お城の中の様子が気になって、私の心はここにあらずといった感じだった。
「……お姉ちゃん、大丈夫?」
「うん、平気よ。でも、フーリこそ本当に大丈夫なの?」
「……体も軽い。回復魔法みたい」
あの人はフーリの症状を、状態異常じゃなくて病気と言っていた。
毒や痺れとは違う、ずっと続いていく症状のことを病気と言うんだっけ?
回復魔法じゃ治せなくて、優れた神官様たちが使える恢復魔法じゃないと治せないはずなんだけど……神官様でもあるのかな?
少し意識を切り替えて周りを見てみれば、村の全員がちゃんとこの場所に居る。
檻の中に居る時から、誰が居て誰がいないかは確認していたみたいだけど、こうやってちゃんと見ることでそれを認識できた。
「……お姉ちゃん、戻ってきた」
「!」
バッとお城の方を向くと、あの人と村長がゆっくりと歩いてくる姿が見える。
村長の顔に暗いものはなく、逆になんだか明るいようにも思えた。
あの人は私たちから離れた場所で、村長が何をするかを窺っている。
それを見て、頷く素振りをしてから村長は私たちに言う──
「聞いてくれ。私たちはあのお方に救われ、この場所に居る。ここはあのお方がお創りになられた新天地──『リーン』という場所とのことだ」
「リーン……聞いたことない場所だ」
大人の一人がそう言う。
私もそんな国や地名をお父さんやお母さんから聞いたことはないし、他のみんなも首を傾げている。
けど、その反応が当然だと分かっていたみたいで、村長は一人頷いている。
「言っただろう、あのお方が創りだした新天地だと。この場所は、すべてがあのお方の魔法によって創りだされているのだ。この空も太陽も──下に広がる大地も」
ついてきてくれ、と村長が言うので私たちはあの人を置いてどこかへ移動する。
そして向かったのは──崖だった。
「ここを覗けば、みんな理解するだろう。私の選択が……間違いではないと」
崖から落ちないように、と注意だけして村長は崖の前から離れる。
まずは大人たちから、村長の言う景色を眺めていく。
『!?』
みんな、驚いたような顔をする。
けど、誰も嘘だとは思っていないみたい。
嘘を吐くような人なら、私たちにこんな遠回りな証明はしないと思う。
そんなことを考えていると、子供たちの番になっていた。
「フーリ、行こう」
「……うん」
周りに居た他の子といっしょに、一歩ずつ崖に近づいていく。
恐怖心は無いとは言えない、けどそれ以上に好奇心が胸の中で高まっていた。
抑えられない衝動が私の体を突き動かし、その光景を捉える。
「…………えっ? これは……雲、なの?」
モクモクとした白い雲、いつもは上を向くと見えるはずの雲が私たちの足元にあった。
そういえば上を見た時、太陽しか無かったことを思いだす……晴れているからじゃなくて、ここが雲の上にある場所だったからだったんだ!
「……お姉ちゃん、あそこ!」
「あれは……お城?」
雲の隙間から映ったのは、小人たちが住むような小さなお城だった。
けど、それは上から見ている分小さく見えているだけで……本当は、ここと同じくらい大きなお城なんだろう。
何より、少しずつ色んな景色を見ることができた──私たちは、いっさい目を動かしていないのに。
まるでこの場所が動いているかのようにして、光景が変化していった。
「──なんでも、あのお方の国は誰にもその存在を知られたくはないそうだ。故に、私たちのように困っていた者たちに直接住むかどうかを尋ねているらしい」
村長が後ろで、説明をしてくれる。
たしかに子供の私でも分かる、凄い光景を見れば考え方も変わっちゃうよね。
自分たちを助けてくれた恩人が、国に住む人について困っている。
そんな状況で私たちが選ぶ選択肢は、聞かれなくても一つだけなのに。
「この首輪に関しても、あのお方であれば解除ができるらしい。そのままでも忠誠を誓えると言ったのだが……笑われてしまった」
なんでも、『本気でそう言うのであれば、首輪を外してから同じことを言え』と言われてしまったらしい。
思わず笑っちゃったけど、みんなも同じように笑っていたから大丈夫だよね?
「……私たちの村は開拓村。故に騎士様も救いの手を差し伸べてはくれなかった」
助けが来る、そう大人の人たちは檻の中で最初は言っていた。
だけど、誰も来てはくれなかった。
──ううん、来てくれたんだ。
「だが、あのお方は私たちをお救いになられた。『これは偽善だ』と仰られていたが、王とその地に住まう者しか救えぬ騎士に比べれば……いや、比べるのも烏滸がましい」
ギゼン、ってなんだろう?
あの人のことだから、きっと良いことなんだろうけど……よく分からない。
だけど言いたいことは分かった。
王様でも神様でもなく、ただの村娘の声であの人は私たちを助けてくれた。
何もしてくれなかったそんな人たちより、あの人の方がもっと凄い!
「すでに村は燃えてなくなった。あの場所へ戻ろうと、私たちに待っているのは苦渋に満ちた日々だ。だが、あのお方の手を取れば、きっと変われる……そう思わないか?」
そして、村長はあの人の元へ向かった。
これから、もっと驚くようなことをしてもらうみたい。
少し話しをすると、あの人を連れてこの場へ戻ってきた。
あの人は私たち全員の顔をしっかりと見てから、ゆっくりと話してくれる。
「村長の話は一先ず置いておけ。だが、先に解決しておく問題がある……貴様らの首に嵌められた、『隷属の首輪』だ」
『!』
「俺は貴様らに隷属を望むわけでも、命令をしたいわけでもない。国民になることを選ぼずとも、その首輪ぐらい外してやろう」
あっさりと、簡単なことをするみたいにそう言って……指を鳴らす。
「──隷属の首輪よ、すべて外れよ」
ガチャリ……そんな音が私たちの首元から鳴り響く。
聴きたくて聴きたくて、そんな夢を見たほどに望んだ音が、今いっせいに鳴った。
ゴトリゴトリと何かが落ち、体がさっきとは別の理由で軽くなるけど……そんなことを気にしている余裕なんてない。
「お、おい……貴様ら、どうしたのだ!?」
いっせいに、みんなの目から涙が零れる。
大人も子供も男も女も、村の人全員で涙を流しちゃった。
嬉しい気持ちでいっぱいだけど、辛い思い出がいっしょに消えるような感覚がとても温かくて……抑えていた感情が漏れたのだ。
あの人には悪いけど、この涙が収まるのはずっとあとのことだろう。
……泣き止んだら、みんなでありがとうって言わないと。
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