AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

02-07 武具創造【色欲】



 リーンへの水晶の出荷も無事に終えた。
 いつの間にか建てられていた神殿に驚いたり、他にもさまざまなトラブルがあったものの……とにもかくにも水晶作りは、一先ず終了したわけだ。

「そして数日後、俺は新たな武具の創造を行おうとしていた……的な?」

 まだまだ残っている創造できる武具。
 多少イメージがアレであろうと、創っておくことが吉だと自分に納得させた。

「ただこれ、倫理的にどうなんだろうな……犯罪者として捕まらないよな?」

 いちおうこのAFO、あらゆることが可能となっている世界だ。
 しかしルールは存在するわけで、たとえば人を町中で殺せば衛兵に逮捕される。

 俺が創ろうとしているのは、ある意味でそういった何かの決まりに引っかかってしまいそうな品。
 僅かながらに不安が過ぎるのだが……

「ん? それって、今さらじゃね?」

 これまでに生みだした武具だって、使い方によっては犯罪に用いることができる。
 そう、結局はそれをどう使うかによってそのアイテムに対する考え方は変わるわけだ。

 俺が正しく使うことができれば、これから誕生する武具も生を祝福される……うん、責任がなんだか強まったな。





 そして、生みだしたアイテムを調べた俺の感想は──

「アカン、これはどう取り繕ってもアウトなヤツやん」

 エセな関西弁を使ってしまうほど、同様してしまう新たな魔武具。
 ……<大罪>のスキルを媒介に創造しているのだから、必然と言えば必然なのか。

 まあ、こんな感じになっているわけだ──

---------------------------------------------------------
夜王の指輪 製作者:メルス

魔武具:【色欲】 自己進化型
RANK:X 耐久値:∞

今代の【色欲】所持者が創りだした魔の指輪
魔力を籠めることで、あらゆるモノへ化けることが可能
情事に関する絶大な補正を得られ、弱点を見抜くことも容易となる
また、この指輪は意思を宿しており、攻撃や主以外の者を拒絶する

装備スキル
(自我ノ芽)(変身魔法)(嵩幅調整)(感帯看破)
(愛念多様)(絶倫)(煩悩成長)(?)(?)……
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「……変身願望は、誰にでもあると思うのでござるよ」

 異性になりたい、憧れの人になりたい、そういった想いはあると思う。
 そんな願いを叶えるため、【色欲】の力は変身魔法を創造した。

 俺の用途は変装用でしかないが、使い方はそれ以外にもたくさんある……ぐふふふっ、いずれは他者に使えるようにしたい。

「けどまあ、煩悩ってのがな……108回も成長する気なんだろうか」

 桜桃な俺に、わざわざ(絶倫)が必要となる事態はないと思うんだが……いちおう絶倫という単語には、『並外れた』という意味があるわけで──何が絶倫になるかってことを指定されていないのであれば、かなりの優れたスキルなんだろう。


 閑話休題ナニがすぐれた?


「さて、変身魔法を試したくなったし、少し町に行ってみますか」

 世捨て人になる気もないので、ちゃんと現世と触れているという証明にもなる。
 ……というかギルドに加入していて、何もしないというのも少々問題があるだろう。

「たしか一定期間に依頼をこなさないと、ギルド証を剥奪されるんだったな……やっぱり行こう」

 ランクアップイベントも満足にやっていないのに、こんなところで終わって堪るか!
 ──そんな理由で、修練場から出る決心をするのであった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 未だに町の先は開拓されていないため、プレイヤーたちは冒険者ギルドに集っている。
 ゲームがスタートして一月が経つが、それでもボスを倒すだけの実力がないからだ。

 開放されているのは北の高山だけだが、そこを越えるだけのレベルになっていない……越えるためのレベルがあれば、東のエリアは開放できると思うんだがな。

「まあ、これは偽善としてやることでもないからなー」

 あの頃は偽善を行うための力もなく、あくまで私利私欲で亜竜を貪り食った。
 その結果得た力を振るうことで、俺はこの世界で偽善をやれるようになる。

 しかし今、少なくとも個人戦では最強なんだから、目立ってまでエリアを開放する気はさらさらない……モブらしく、暗躍することこそがベストだろう。

「さて、依頼依頼ーっと。何かそれっぽい依頼は無いかなー」

 今回の目的でもある、期限延長のために依頼表を探す。
 できるなら、魔物退治系の簡単な仕事があればよかったのだが……それよりも面白い依頼を見つけた。

「捜索依頼?」

 要は、指定されたモノを探すだけの仕事。
 だがプレイヤーたちはそれを見つけることができず、今なお依頼表がギルド内に貼られているわけだ。

 しかし俺には、それをすぐに依頼主に届けることができた。
 なぜなら、その依頼とは──

===============================
捜索依頼 依頼主:運営

闘技大会の途中で消えた『模倣者』
特殊なスキルを保持しているのか、我々でも彼を捕捉できない
受理者には、その彼を見つけてほしい
名前・種族すべてが不明(職業はすでに変えた可能性がある)
容姿に関しては、先のデータがある[画像]
発見後は、GMコールを行ってくれればそれで充分
報告された人物が『模倣者』と判明後、達成者に報酬を贈ろう
なお、この依頼は失敗しても違約金を取ることはない

達成条件:『模倣者』の発見・報告
報酬:???
===============================

 なーんて、書いてあるんだからな。
 二つ名で指名しているのも、俺のことが分からなかったからか。

「まあ、どうせ{感情}のどれかが勝手に発動したんだろうな」

 それ以外に、情報を隠せるようなスキルが思いつかない。
 プレイヤーが使える程度の隠蔽で、運営の眼を誤魔化せるとは考えられないからな。
 人智を超えた異常なスキル──大罪や美徳の名を冠するスキルでもない限り。

「しかし、報酬がシークレットな辺りがなんとも心をくすぐるな……悪いことをしたわけでもないし、会いに行きますか」

 カウンターに向かい、すぐに依頼を受けたいという旨を伝える。
 違約金が取られないからか、これを受けようとするプレイヤーはたくさん居たらしく、受付の女性もパパッと登録を済ませて俺を外に送り出してくれた。


 ピコーン
≪『捜索依頼:模倣者』を受注しました≫


  ◆   □   ◆   □   ◆

 王都の草原は静寂な場所だ。
 先ほどまでは少しだけうるさかった気もするが、俺もGMを招くとあって張り切って掃除をしたから今は静かになっている。

「よし、これでOKだな」

 戦闘中はGMコールを行えない。
 理由はいくつかあるらしいが──コールを逃げに使わないため、というのが主な理由とのことだ。

 一度呼べば、GM側で魔物が侵入しない結界を展開してくれるらしい……どれだけ強力な存在がその場に居ようと、防いでくれるのだからチートだろ?

「えっと、GMコールGMコールっと」

 メニューを操作して、GMコールを探す。
 オンゲーをやったことはあるのだが、わざわざ運営に通報するってこともなかったから新鮮な気分だ。

 ボタンを押し、少しの間待機する。
 俺と同様に、『模倣者』の発見報告を行う奴がいるから忙しいのかもしれない。

 即座に現れなかったGMにそんなことを感じたが、それもすべて俺が帰ったことが原因で起きたこと。
 そう思いだしたので、居た堪れない気持ちで待ち続けることに。





 そうして待機をしていると、目の前に眩いエフェクトが発生する。
 ある種の神々しさを感じる、温かく心を現れる金色の光だった。

「──こちら、GM01です。何か問題がありましたか?」

「……女神様だ」

「?」

 おっと、うっかり本音を出してしまった。
 目の前に居る女性は、そうたとえてしまっても仕方がない程美しさを放っている。

 明るい日差しを梳かしたような金の髪、絶妙な黄金比で造り上げられた美貌。
 なだらかな容姿をふんわりと包むトーガのような衣は、彼女の髪色と同様に薄らと光を放出する……まさに女神だろ。

「ここは……E1ではありませんね。いったいどうやって規制されたエリアの外へ?」

「あっ、えっと……依頼を受けて捜索を行っていたのですが、報告は誰もいない場所の方が良いと思いまして……」

 おそらくE1とは、『始まりの草原』のことなんだろうな、などと思いながらも、どうにか偽善者らしい丁寧語で会話を行う。
 規制された、と言われてもな……まあ正直に言えばいいのか。

「!? 見つけたのですか、『模倣者』を!」

「はい、『模倣者』はこのエリアに居ます」

「ご協力感謝します! えっと……あれ、名前が分からない?」

「ああ、申し遅れました──私はメルス、貴方がたが探す『模倣者』ですよ」

 そう言って、使用実験を行っていたシーの変身魔法を一部・・解除する。
 ──うん、安易だが【色欲シキヨク】だからシーにしたぞ。

 俺を包んでいた魔力の膜が剥がれ、容姿が露わとなる。
 ただし、翼などは隠している状態を維持しており、傍から見ればただの普人族だろう。

「貴方が!? ……いえ、ここはN2のようですし、納得しました。各ギルドに載せた依頼に気づかれたのですね?」

「ええ、その通りです。まさか私も、周りにその姿を探されるほど有名になっているとは思いもしませんでしたが」

「申し訳ございません。こちらの捜索方法では見つけられず、人海戦術に頼ろうとしていたのです」

 心の底から申し訳なく思っている、と見えるような表情をする女神様GM01
 現実世界リアルにおいて、そんな表情をしてくれる女性を見たことがない俺は、正直内心でドギマギしております。

「──いえ、お構いなく。こちらにも何か、不手際があったようですので」

祈念者プレイヤーの皆様には、自由を約束しております。そのはずなのに、このようにして拘束をさせてしまっている……本来であれば、これは許されがたい行為なのです」

 そして今度は、頭を下げる女神様。
 これまた、現実世界において(ry。

「第一回闘技大会優勝者であらせられるメルスさん、その賞品として与えられるはずだったものを今ご確認しましょう」

「……メールにて、アイテムなどは受け取りましたが?」

「それとは別に、直接訊ねようとしていたのです。何か一つ欲しいのであれば、優勝者が望むアイテムを授けようと。これには運営神の皆様も賛同してくださり、どんな物であろうと提供できると思いますよ」

 つまり何でもOK、というわけか。
 俺がそうした要求で強くなったとなれば、次の挑戦者もやる気になるからだろう。

 だが、直接的な力になるアイテムなど別に必要ないからな……そうなると、また柔軟な発想で要求をする必要がある。

「それでは──■■■■■■■■■を頂ければ幸いです。可能ですか?」

「…………はい、それは可能です。しかし、本当にそのような物でよいのですか? 固有スキルを習得する結晶や、聖剣などの武具も用意できますが……」

「構いませんよ。正直に言えば、これ以上強くなって、孤立するのはごめんなんです。ですから別の、自由を謳歌するために必要なアイテムを求めました……駄目、でしたか?」

 自分でもなんだか、チーター呼ばわりが仕方ないと思える能力値だし、わざわざ武力を高める必要はない。
 偽善を行うために必要なのは──我を貫くための力の他に、束縛されないための保証が存在すると考えている。

 どちらも似たようなものだと思うだろう。
 力があれば束縛されないし、束縛されないということはなんらかの力があるわけだし。

 ……まあ、その逆もまたあるわけなので、あえて二つを分けた。
 力がとりあえず手に入った今、求めるのは束縛されないためのアイテムというわけだ。

「とんでもありません。どのような物であろうと、用意してみせましょう。もちろん、メルスさんの望む品であろうと」

「ありがとうございます」

「しかし、少し時間のかかる品ですので……後日、メールでの発送となります」

「そう……ですか? いえ、無理難題を押しつけたのはこちらですしね。そのときを、楽しみにお待ちしましょう」

 運営が造形にでもこだわるのか?
 てっきりとっくに実装されていて、その複製品でも送ってくれると思っていたんだが。
 まあ、最終的に手に入れば構わない物で、すぐに持つ必要はないから大丈夫だ。

「ところで……GM01さん、一つだけ気になることがあるんですが……」

「はい、なんでしょうか?」

「報酬、なんですが……その、この場合はどうなるので?」

 本来であれば、俺を見つけたプレイヤーに向けての報酬『???』があったのだろう。
 しかし俺を見つける者はなく、その報酬が支払われることは無い。

 俺は俺で今、報酬っぽいものを受け取ってしまったわけで……このままでは、なんだかマッチポンプをしたみたいになってしまう。

 ──だがそれでも、報酬は欲しい!
 そんな【強欲】さが、つい女神様へ欲求を零してしまった。

「そうですね……本来であれば、いくらかの金銭とポーションなどを渡そうと思っていました。まさか、ここまで見つからないとは想定していませんでしたので」

「申し訳ありません」

「いえいえ! 何度も申しますが、こちらの不手際ですので」

 嗚呼、本当に女神様だな。
 しかしお金とポーション? どっちも腐るほどあるし、リーンに引き籠もれば絶対に困らないような品々だ。

「……ご不満、でしたか?」

「いえ……ただ、プレイスタイル的にお金も回復アイテムも使わないもので」

「そうでしたか」

 女神様の表情に陰りが出てしまう。
 だがしかし、この状況に対処する方法を俺はまだ知らない……現実世界での経験量が格段に少ないからだ。
 というか皆無、それじゃあ俺にできることは何もない。

 しかし、そんな残念な思考が見つけた非常識なアイデア。
 ふと過ぎったそれが、今の俺には福音のように感じられた。

「──無理なことを言っているのは承知しています。ですが、私から提案があります」

「なんでしょうか?」

「報酬ですが、アイテムは必要ありません。その代わりに、一つささいな願い事を叶えていただきたいのです」

「ささいな願い、ですか」

 首を少しだけ横に傾げ、訊き返す女神様。
 それを首肯し、説明を続ける。

「私の──友になってほしいのです。特別な情報やアイテムなんて要りません。ただ、対等……とは言わずとも、語り合うことができる間柄になりたいのです」

「友……」

「GM01さんさえよろしければ、そうあってほしい。物を貰うことを考えるよりも、貴女と話している時間の方がとても楽しかったですし──」

「わ、私もです!」

 突然声を張り上げる女神様。
 何やら興奮してくれているようだが……目のやり場に困るので、あまり激しい動きはしないでもらいたい。

「きゃぁっ! ……お、お見苦しいものを晒してしまいました」

「いえ、こちらこそ顔を背けることができず申し訳ございません。ですが、とても綺麗でしたよ」

「そそ、そういっていただければ幸いです」

 なんだか、気まずい雰囲気が俺たちの間で醸し出されている気がする。
 自分の頬が赤くなっている気がするし、若干女神様も赤くなっている。

 ……まあ、あっちは怒りなのかもしれないので、あまり調子に乗ってはいけないが。

「と、ところでGM01さんって、言いづらいのですが……略称とか、どう呼んでほしいかってものはありませんか?」

「え、ええっ!? えっと……それはつまり、名前を頂けるのですか?」

「えっ? まあ、そうですね」

 あだ名も名前の一つであることに、違いは無いだろうし。
 せっかくの友達に、いつまでもコードみたいな呼び方と言うのもアレだろう。

「ですがです、メルスさん。私たちに名前を与えるには条件があって──」

「そうだ、『レイ』という名前はどうでしょうか? いろいろと理由はありますが……って、あの、気に入りませんでしたか?」

 ふと思った名前を提示してみるのだが、女神様はビクンと体を震わせてしまった……まさか、キショいと思われたのか?

「嘘、認証されてる? でも、祈念者が現段階でそこに至るのは早すぎるはず……」

 ブツブツと唱えだす女神様。
 けどそんなことを想像してしまったので、怖くて耳を澄ますことはできない。

 少し待てば女神様も回復した。
 ニコリと笑みを浮かべ、イケメンのイの字もないモブに声をかけてくれる。

「こほんっ、失礼しました。メルスさん、本当にありがとうございます。『レイ』という名は、大切に使わせていただきます」

「……何か、問題でもありましたか? 実は名前を呼ぶと、特殊な魔物が出現するといった仕掛けなどは──」

「私は闇の帝王ではございませんよ?」

「も、申し訳ございません」

 女神様──改めレイさんの笑顔がなんだか背筋をゾクゾクっとさせる。
 背後の光エフェクトも、なんだか少しだけ黒いというか陰った気がした。

「メルスさん、次に会う時・・・・・は──ちゃんと素の口調で話してくださいね? AFOをお楽しみいただき、誠にありがとうございます。これからも、どうぞお楽しみください」

「は、はい……って、次? それに、バレてたの!?」

 言葉では明言せず、怖くなっていた笑顔を慈愛に満ちたものに変えて答えてくれた。
 ……うん、バレてたみたいだ。

 ピコーン
===============================
CLEAR!!
捜索依頼:模倣者
報酬:GM01レイの加護

説明:メルスさんには必要なかったかもしれませんが、本来であれば依頼達成者に渡していたものですのでお気になさらず
===============================
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加護:GM01レイの加護

説明:GMである01の加護が授けられている証
光属性に対する適性が向上する
また、GMコールをした際01を指名可能
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「──GMコール、またしよっかな?」

 連続して使うことはできないので、今日はできないんだけどな。
 ただ、先ほど見たレイさんの笑顔を思い返すと……うん、会いたくなる。

 結局は我慢し、ログアウトを選ぶことになるんだが──GMコールって、酒場みたいなシステムだったっけ?


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