(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~

巫夏希

甘いものには福がある?・後編


 時は流れ、あっという間に夕方。
 ボルケイノのかき入れ時――というわけでもなく、お客さんがちらほら見えてくる時間が大体そんな感じの時間というだけのことだ。
 まあ、それにシュテンとウラが疲れてくるのも、大体それくらいの時間になるわけで。

「……おーい、そろそろ準備してくれないか。未だ誰も来ていないが、夕方にもなれば誰かやってくるだろう」

 夕方、とはいってもこのボルケイノの時間軸はどの世界線にも干渉しない、第666時間軸だったと記憶しているけれど、まあ、そんなことは知らんぷり。無かったことにはしないけれど、大体時間はその世界の時間と上手い具合に合わせてくれるのが、このボルケイノが別の世界線に居ることを怪しまれないコツとも言えるだろう。
 というわけできちんと手を洗ってカウンターの清掃を始めたタイミングで、

「ねえ、今大丈夫?」

 サクラが俺に声をかけてきた。
 というか、サクラとはあまり店内で話をすることは無い。いつもの世界では話をすることもあるのだけれど、なぜだかボルケイノでは、仕事中だということもあって話をしない。だから今回サクラから声をかけられたのが何だか珍しくて、俺は少し反応が遅れてしまった。

「うん? ……どうかしたか」
「これ。今日、バレンタインデーでしょ」

 そう言って、サクラは俺にあるモノを差し出した。それはお皿に載せられたチョコケーキだった。かわいらしいスポンジ生地にチョコの生クリームでデコレーションされている。

「……バレンタイン。あー、そういえば」

 そういえば学校でも男連中が騒いでいたっけ。まあ、俺も男なんだけれど、俺はあまりバレンタインに興味が無かったし、チョコなんてあんまり貰わないから気にしていなかったが――。

「後で感想、教えてよね」

 それだけを言い残して、サクラはキッチンへと消えていった。
 フォークを手に取って、一口チョコケーキを食べる。
 ほろ苦さの中に甘味があって、とても美味しい。
 お返しは少し良いものを考えておかないとな。
 そんなことを考えながら、俺は椅子に腰掛けて残りのチョコケーキを食べ始めるのだった。

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