(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~

巫夏希

エピローグ またのご来店をお待ちしております

 世界に一つしか無いドラゴンメイド喫茶、ボルケイノ。
 今日も今日とて暇だ。客はいつものヒリュウさんだけ。

「いやあ、ここはいつもゆっくり出来て、ほんとうにいい店だよ。ほんとうならばここが流行ってくれればいいのかもしれないが、いざ流行ってしまえば、私の憩いの場所が無くなってしまうからなあ……。出来ることなら、今の状態をキープしてほしいものだが」
「そんなこと言っても、うちとしては商売あがったりですよ。まあ、固定客が居るからいいかもしれませんけれど。あ、コーヒー飲みます?」
「いただこう」

 ヒリュウさんのコーヒーカップにコーヒーを注いで、俺は一つ伸びをする。

「まったく、ここに一番来ているのはヒリュウさんくらいだよ」

 どうやら暇なのは厨房も変わりないらしく、メリューさんが厨房から出てきた。

「おお、何だか久しぶりに見た気がするぞ。きちんと、食事はとっているのかね?」
「当り前じゃない。とっていないと、死んじゃうわよ。……私も久しぶりに見たけれど、元気そうで何よりですね。ヒリュウさん」
「当り前だ。若い者には負けちゃいられないよ」

 そう言ってヒリュウさんは笑みを浮かべる。その様子を見て狼も嬉しそうだ。
 ……あれから。
 ボルケイノは数日の休暇ののち、営業を再開した。最初はヒリュウさん含む常連客が心配してくれた。あのおてんば王女なんて、「私の許可なく店を閉めるんじゃないわよ!」って言って大量のお金を置いて行った。もちろん受け取るのを断ろうとしたけれど、いつものお礼だといって聞かなかったので受け取ることにした。有難く受け取ったその額は、俺の月の給料の何十倍にも及ぶ額だったという。
 メリューさんとは変わりなく仕事をしている。何をしたのかは、俺は覚えているけれど、メリューさんは忘れてしまった――そう言っている。まあ、メリューさんがそういうのならば仕方ないし、そう言い切っているのならそうなるしかない。
 けれど、メリューさんは覚えている。あの日の出来事を。
 なぜか、って?

「メリューさん、そういえば一つ聞きたいんですけれど」
「ん、どうした?」
「ワスレナグサの花言葉って何ですか?」
「あ、あ……? ええ? い、今それを言う必要があるか?! 今は仕事中だぞ!」

 明らかに顔を真っ赤にしたメリューさんは、そう言って厨房へと戻っていった。
 そう。これが覚えている合図。
 だって、あの日のことを覚えていなければ――顔を赤くすることなんて、無いはずだから。

「メリューさん、逃げないで下さいよ。教えてくださいって」

 俺は厨房に声をかける。

「あー、そういえば今手を離せないことをやっているから。ちょっと話すことができないんだよね! とりあえず、暫し待ちなさい!」

 あ、逃げた。
 しかもさっき暇そうにしていたのに。
 ま、いいか。
 俺は小さく溜息を吐いて、カウンターに向き合った。
 ヒリュウさんはニコニコしながら、俺のほうを見ていた。

「どうしました、ヒリュウさん?」
「ん、何。ここはいつでも平和だと思ったのだよ」

 そうですか、と俺はその言葉を流して、皿洗いを始めることにした。
 カランカラン、とベルが鳴ったのはその時だった。
 そのベルは来客を知らせるベル。

「いらっしゃいませ」

 俺は営業スマイルで、やってきた客人に向けて、そう挨拶するのだった。

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