(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~
竜人≪ドラゴンメイド≫の宿命・転
私は暗闇の中で目を覚ました。
そこが倉の中であるということに気づくまで、私はそう時間がかからなかった。なぜ解ったかといえばあたりに保存用の食材が無造作に置かれていたためだ。まったく、これだから食に無頓着な人間は困る。保存をなおざりにしているから食中毒や病気になりやすい病原菌が食材に住み着くのだろうが。せめてそういう基礎的なデータを理解してから保存等してほしいものだ。
「……どうやら目を覚ましたようだな」
扉が開け放たれ、外から誰かが入ってくる。逆光や中の仄暗さでどういう顔をしているのか解らなかったが、かろうじてそれが男であると声のトーンから認識できた。
「これがドラゴンメイド、か……。おうおう、ずいぶんと可愛らしい顔をしているじゃねえか」
そう言って男は私の髪を引っ張り強引に私のそばに顔を近づけた。
無精ひげを生やし、瞼は半分開いていないような感じ、口も臭いし服からも同じような臭いがする。できることなら鼻を抓んでさっさとここから逃げ出したいくらいだったが、両手がふさがれてしまっていてはそうすることもできない。
「私たちを、どうするつもりかしら?」
「お前たちドラゴンメイドをどうするか、ってきまっているじゃねえか。高く売りつけるんだよ。それを食材に使ってもいいし名前の通りメイドとして使ってもいい。最悪娯楽のために永遠に性欲を満たすための存在になるかもしれねえな! ヒャヒャヒャヒャ!」
最低最悪の考えだった。
まだこんな前時代な考え方を持つ人間がいるのかと思って失望したと同時に、これが希少種たるドラゴンメイドの宿命なのだと改めて認識せざるを得なかった。
「そう。私を売るのね」
「なんだ、お前を売ることは俺の自由だろうが。お前はもう、俺の所有物なんだよ!」
きっと、私がドラゴン狩りに行った時もこんな似たような感情だったのかもしれない。さすがに所有物までは言わなかったかもしれないけれど、これが自分のものであるという認識は強かったかもしれない。
斯くも人間は自分勝手に行動する。自分さえ良ければ相手のことなどどうでもいい。目の前に立っている人間はそれを代表する人間だった。人間の闇の部分をうまい感じに汲み取った人間だった。
「人間というのは、ほんとうに悲しい存在なのね」
私の中を怒りという感情が支配する。
私の中を悲しみという感情が支配する。
だから私は気づけなかった。
私という存在が、私という状態が、少しずつ変化しているということを。
「……な、なんだその姿は……」
私でも、その姿はどういう姿だったのか解らなかった。
だが、最後にその男の――その言葉だけは覚えていた。
「近づくな、ば、バケモノ……! なんだよ、ドラゴンメイドはこんなバケモノに変化するなんて、知らなかったぞ!!」
男の言葉を最後に――私の意識は途絶えた。
そこが倉の中であるということに気づくまで、私はそう時間がかからなかった。なぜ解ったかといえばあたりに保存用の食材が無造作に置かれていたためだ。まったく、これだから食に無頓着な人間は困る。保存をなおざりにしているから食中毒や病気になりやすい病原菌が食材に住み着くのだろうが。せめてそういう基礎的なデータを理解してから保存等してほしいものだ。
「……どうやら目を覚ましたようだな」
扉が開け放たれ、外から誰かが入ってくる。逆光や中の仄暗さでどういう顔をしているのか解らなかったが、かろうじてそれが男であると声のトーンから認識できた。
「これがドラゴンメイド、か……。おうおう、ずいぶんと可愛らしい顔をしているじゃねえか」
そう言って男は私の髪を引っ張り強引に私のそばに顔を近づけた。
無精ひげを生やし、瞼は半分開いていないような感じ、口も臭いし服からも同じような臭いがする。できることなら鼻を抓んでさっさとここから逃げ出したいくらいだったが、両手がふさがれてしまっていてはそうすることもできない。
「私たちを、どうするつもりかしら?」
「お前たちドラゴンメイドをどうするか、ってきまっているじゃねえか。高く売りつけるんだよ。それを食材に使ってもいいし名前の通りメイドとして使ってもいい。最悪娯楽のために永遠に性欲を満たすための存在になるかもしれねえな! ヒャヒャヒャヒャ!」
最低最悪の考えだった。
まだこんな前時代な考え方を持つ人間がいるのかと思って失望したと同時に、これが希少種たるドラゴンメイドの宿命なのだと改めて認識せざるを得なかった。
「そう。私を売るのね」
「なんだ、お前を売ることは俺の自由だろうが。お前はもう、俺の所有物なんだよ!」
きっと、私がドラゴン狩りに行った時もこんな似たような感情だったのかもしれない。さすがに所有物までは言わなかったかもしれないけれど、これが自分のものであるという認識は強かったかもしれない。
斯くも人間は自分勝手に行動する。自分さえ良ければ相手のことなどどうでもいい。目の前に立っている人間はそれを代表する人間だった。人間の闇の部分をうまい感じに汲み取った人間だった。
「人間というのは、ほんとうに悲しい存在なのね」
私の中を怒りという感情が支配する。
私の中を悲しみという感情が支配する。
だから私は気づけなかった。
私という存在が、私という状態が、少しずつ変化しているということを。
「……な、なんだその姿は……」
私でも、その姿はどういう姿だったのか解らなかった。
だが、最後にその男の――その言葉だけは覚えていた。
「近づくな、ば、バケモノ……! なんだよ、ドラゴンメイドはこんなバケモノに変化するなんて、知らなかったぞ!!」
男の言葉を最後に――私の意識は途絶えた。
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