(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~
神なる龍の呪い・5
ティアという少女の話は続いた。
「あなたがどう考えるか私には解らない。逃げ出すかもしれない。母さんはそれを赦さないかもしれないけれど……、私は別に逃げたって構わない。そう思っている」
「親子で考えが食い違っているのだな?」
「まぁ、ドラゴンは自主性が問われるからね。それくらい当たり前だよ、ドラゴンの世界じゃ常識」
「ドラゴンの世界、ねえ……」
私はただの人間な訳だけれど。
全く、人間にドラゴンの常識を持ち込まれても困るよ。私は人間なのだから。予め繰り返しておくけれど。
「……何か、『何を言っているのか解らない』的な感じにも見えるけれど、きちんと物事を把握或いは理解してから進めたほうがいいと思うけれど? 実際問題、物語がどう転ぶだなんて誰にも解らない。解りきった話でも無い。……あぁ、そういえばあなたたちの世界ではこのことをこう言うのだっけ?」
「何て?」
「五里霧中」
「……世界を間違えていないかしら?」
「うん? 世界を間違えていないか、とはいかに詩的な表現だろうか。面白い、いやはや面白いね。母さんがあなたにこの喫茶店を任せた理由が、ほんの少しだけ解った気がするよ。ほんとうに、ほんの少しだけね」
「そこ、強調する必要あるか……?」
ティアは笑っていた。その一所作一所作が、とても優雅に見えた。
きっと親に仕込まれたのかもしれない。この時をずっと待っていたのだろう。
……私は小さく溜息を吐いて、伸びをした。
こうなってしまえば、仕方がない。
郷に入っては郷に従え、という古い言葉もある。
だったら思いっきりしたがってしまえばいい話だ。
「……いまさらここで私が言わずとも問題ないと思いますが……、この喫茶店で働いてくれますね? メリュー」
「私がいまさらこの状況で否定するとでも? ……解っているよ、このお店を自分のものにしてもいいのだろう? 素晴らしいではないか! 最高だ。完璧だ!」
「……まあ、意味合い的には間違っていませんが。一応言っておきますが、ここのお店のマスターはあくまでも私ですよ? まあ、普段はあなたで構いませんが」
「了解。客にも私がマスターという意味合いでいいのか?」
こくり、とティアは頷いた。
ティアはそれ以降何も言わず、カウンターにある椅子にちょこんと座り、分厚い本を読み進めていった。
ま、何とかするしかないか。
私はガリガリと頭を掻いて、そう言った。
◇◇◇
メリューさんから聞いた話は、とても長い話だった。というか、こんな長い話だったのにしっかり物語の中に落とし込むって、メリューさん話をするのがうまいな。ほんとうに。
「……どうだった、ケイタ。私の話は。長い話だったかもしれないが、これでも随分と搔い摘んだんだぞ? ほかにもいろいろとあったんだがな、それはさすがに割愛させてもらうことにしたよ」
「うん、それでいいと思う。実際問題、今の話だけでも理解するのに時間がかかりそうだから……」
別に頭が痛い、というわけではない。その話が長くて整理するのに時間がかかりそうだ、というだけだ。
それにしてもティアさんはこの長い話を聞いても何も反応を示すことはなかった。まあ、当然といえば当然かもしれないけれど。ずっと本を読んでいる、とでも言えばいいかな。ハードカバーの分厚い本。いつもあの本を読んでいる気がするけれど、この際何の本を読んでいるかは気にしないほうがいいのだろうな。
そしてメリューさんは椅子から立ち上がり、厨房へと戻っていった。
「昼休憩は終わりだ。仕事に戻るよ。いいかい?」
それを聞いて、俺ははい、と頷いた。
まだまだメリューさんに聞きたいことはあるが、それをすべて聞き終えるまでには、まだだいぶ時間がかかりそうだった。
「あなたがどう考えるか私には解らない。逃げ出すかもしれない。母さんはそれを赦さないかもしれないけれど……、私は別に逃げたって構わない。そう思っている」
「親子で考えが食い違っているのだな?」
「まぁ、ドラゴンは自主性が問われるからね。それくらい当たり前だよ、ドラゴンの世界じゃ常識」
「ドラゴンの世界、ねえ……」
私はただの人間な訳だけれど。
全く、人間にドラゴンの常識を持ち込まれても困るよ。私は人間なのだから。予め繰り返しておくけれど。
「……何か、『何を言っているのか解らない』的な感じにも見えるけれど、きちんと物事を把握或いは理解してから進めたほうがいいと思うけれど? 実際問題、物語がどう転ぶだなんて誰にも解らない。解りきった話でも無い。……あぁ、そういえばあなたたちの世界ではこのことをこう言うのだっけ?」
「何て?」
「五里霧中」
「……世界を間違えていないかしら?」
「うん? 世界を間違えていないか、とはいかに詩的な表現だろうか。面白い、いやはや面白いね。母さんがあなたにこの喫茶店を任せた理由が、ほんの少しだけ解った気がするよ。ほんとうに、ほんの少しだけね」
「そこ、強調する必要あるか……?」
ティアは笑っていた。その一所作一所作が、とても優雅に見えた。
きっと親に仕込まれたのかもしれない。この時をずっと待っていたのだろう。
……私は小さく溜息を吐いて、伸びをした。
こうなってしまえば、仕方がない。
郷に入っては郷に従え、という古い言葉もある。
だったら思いっきりしたがってしまえばいい話だ。
「……いまさらここで私が言わずとも問題ないと思いますが……、この喫茶店で働いてくれますね? メリュー」
「私がいまさらこの状況で否定するとでも? ……解っているよ、このお店を自分のものにしてもいいのだろう? 素晴らしいではないか! 最高だ。完璧だ!」
「……まあ、意味合い的には間違っていませんが。一応言っておきますが、ここのお店のマスターはあくまでも私ですよ? まあ、普段はあなたで構いませんが」
「了解。客にも私がマスターという意味合いでいいのか?」
こくり、とティアは頷いた。
ティアはそれ以降何も言わず、カウンターにある椅子にちょこんと座り、分厚い本を読み進めていった。
ま、何とかするしかないか。
私はガリガリと頭を掻いて、そう言った。
◇◇◇
メリューさんから聞いた話は、とても長い話だった。というか、こんな長い話だったのにしっかり物語の中に落とし込むって、メリューさん話をするのがうまいな。ほんとうに。
「……どうだった、ケイタ。私の話は。長い話だったかもしれないが、これでも随分と搔い摘んだんだぞ? ほかにもいろいろとあったんだがな、それはさすがに割愛させてもらうことにしたよ」
「うん、それでいいと思う。実際問題、今の話だけでも理解するのに時間がかかりそうだから……」
別に頭が痛い、というわけではない。その話が長くて整理するのに時間がかかりそうだ、というだけだ。
それにしてもティアさんはこの長い話を聞いても何も反応を示すことはなかった。まあ、当然といえば当然かもしれないけれど。ずっと本を読んでいる、とでも言えばいいかな。ハードカバーの分厚い本。いつもあの本を読んでいる気がするけれど、この際何の本を読んでいるかは気にしないほうがいいのだろうな。
そしてメリューさんは椅子から立ち上がり、厨房へと戻っていった。
「昼休憩は終わりだ。仕事に戻るよ。いいかい?」
それを聞いて、俺ははい、と頷いた。
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