転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~
第四話 リルターナのお買い物
リルターナの視線はガラス細工に夢中だった。
帝国にはない赤や青色の模様が入ったグラスが壁一面のガラスケースの中に飾られていた。
「いらっしゃいませ……って皇女殿下!?」
休日で店番をしていたパルマは客が来たことで、対応しようと思ったらリルターナだったことに驚きを露わにする
「えっ……私のことを……知ってるの?」
「はい、同じ学園でAクラスにいるパルマといいます。何度か王女殿下やシルク様、カイン様といられるところを……」
「そうなの……。それにしてもこんな綺麗なグラスは初めてみたわ……王国ではこのグラスが普通なの……?」
ガラスケースの中に飾られているグラスを眺めながらリルターナはパルマに聞いた。
「まだこの商品は一般的には売られておりません……予約制で、順次出来上がり次第販売されております」
「……そうなの……。残念だわ……。出来ればこのまま購入して持って帰りたいくらいに」
パルマの言葉に少し落ち込みながら答えると、予想外の答えが返ってきた。
「――もしかしたら……皇女殿下なら、早くお渡しすることも可能かと――」
その言葉にリルターナはパルマの両肩を掴みかかる。
「本当!? 本当に手に入るの!? このグラスが……」
勢いよく肩を掴まれ驚きながらもパルマは説明していく。
「購入者が皇女殿下でしたら……カイン様がこのグラスをお作りになられているのです。もしかしたらすぐに作っていただけるかもしれません……」
「そうっ! ならお願いしてもらえる……? 私からも……学園でお願いしてみるわ。ニギート、支払いをしておいて」
「――わかりました……、では予約とお支払いを」
ニギートはカウンターへ行き、代金を支払い、予約札を受けとった。
「ねぇ、パルマ、他にも珍しいものってあるの? あるなら教えてちょうだい。リバーシはもう帝国にも流れてきているわ。これも王国の開発した商品なのでしょう」
ガラス細工だけでなく、他の商品も見ながらパルマに質問をする。
「はい! リバーシもカイン様が発明されました。他には……お手洗いですかね……?」
「お手洗い? それは何か違うの……?」
帝国でも王国で用意してもらった屋敷のトイレは、何も違うところはなかった。不思議に思ったリルターナは首を傾げる。
「こればかりは……お試しになってみないと……」
少し緊張した様子で説明するパルマに、リルターナは詳しく聞くことにした。
「なら、ここで試せるの? 案内してくれる?」
「はい、わかりました。では、こちらへ……」
パルマは緊張したまま、トイレに案内する。そして使用方法を説明して納得するとリルターナは入っていった。
「ニギート! これはすぐに持って帰るわよっ!」
顔を真っ赤にしてトイレから勢いよく出てきたリルターナに、ニギートは驚きの表情をしてパルマに視線を送る。
「皆様、お試しになられますとほとんどの方がそう言われます……」
恐縮した様子でニギートに説明するパルマに、リルターナは追い打ちをかけるように口を開く。
「ニギート、屋敷のトイレを全て交換するように手配して。……これはすぐによ」
ニギートは疑問に思いながらも「かしこまりました」と返事をする。
「パルマさん、今日はいい買い物が出来たわ。本当に来てよかった。これから学園で会った時もよろしくね」
「こちらこそお買い上げありがとうございます。学園でもよろしくお願いします」
深々と頭を下げるパルマにリルターナは笑みを浮かべた。
パルマに見送られながら買い物に満足したリルターナは馬車に乗り屋敷へと戻っていく。
屋敷に戻ってソファーで寛ぐリルターナにニギータは質問をした。
「それほどまでにその……お手洗いは良かったのですか……?」
未だ経験をしていないニギータはリルターナのあの勢いがまったく理解出来ていなかった。
「あれは革命よ……あれを経験したら帝国に戻るのが憂鬱になるわ……。帝国に帰る時にはアレを大量に買って帰るわよ。それくらい素晴らしい物だわ」
力説するリルターナを疑問に思いながらもニギートは頷いた。
――そして数日後、屋敷の工事が行われ新しい便器が備え付けられた。
本当は予約待ちでもう少し時間がかかる予定だったが、皇女という立場柄、待たせてはいけないとパルマが商会長であるタマニスを説得した。
パルマの熱意と帝国皇女が商会に買い物に来たことに驚きながらタマニスは頷くしかなかった。
「リルターナ殿下! アレはすごいです。屋敷の全てに取り付けていただいたことに感謝します。侍女たちも一同揃って喜んでおります」
少し顔を紅くし興奮気味のニギートがリルターナに深々と頭を下げてお礼を言う。
その様子にリルターナは自慢気に腕を胸で組み頷く。
「そうでしょう。わかってくれると思っていたわ」
「リルターナ殿下の気持ちが本当に良くわかりました。しかもガラス細工のグラスもすぐに手に入れるとは、流石リルターナ殿下です」
「……それは……」
ニギートがテーブルに並べられた装飾が施されたグラスを一つずつ手に取り見惚れている中、リルターナは学園でのやり取りを思い出すのであった。
――時は少し遡り、とある平日の学園
リルターナは普段カインに直接声を掛けることはなかった。それは婚約者の二人が常に一緒におり、直接声を掛けるのに躊躇していたからだった。
(これくらい自分で頼めないと……)
リルターナは授業間の休み時間にカインに声を掛けた。
「カイン様、お願いがあるのですが……」
珍しくリルターナから直接声が掛かったことで、テレスティアやシルクからも注目を浴びた。
「リルターナ殿下、どうしました?」
カインは不思議そうな顔をして返事をする。そして、リルターナは勇気を振り絞って声を上げた。
「実はカイン様にお願いがあるのですが……。あのぉ……あのガラス細工のグラスが欲しいのです。商会に言ったら予約制とのことで、パルマさんから直接カイン様に言ってみればということで……」
カインは急なお願いに何かあったのかと思ったが、ガラス細工の事だと知りほっと息を吐き笑顔をリルターナに向ける。
急に向けられたカインの満面の笑みを受けて、リルターナは頬を染めた。
「それくらいなら構いませんよ。帝国との友好の為に差し上げても構いませんが――」
カインはふと視線を感じ、横を向くとテレスティアとシルクの視線が集中していた。
「さすがにそれは――。すでに商会に予約はしておりますから」
「わかりました。では帰りにでもパルマのところに寄って渡しておきますね」
「そんなに早くっ!? ありがとうございます」
リルターナは思わずカインの手を両手に包み込み上下に振って喜びを露わにした。
カインはそこまで喜びを表現するリルターナを珍しいと感じながら、されるがままとなった。
「――リル、そろそろ……」
テレスティアの言葉にリルターナは我に返ると、自分がカインの手を握っていることに、さらに顔を紅くした。
「あっ……すみません……」
リルターナはカインの手を離し、赤い顔をしながら申し訳なさそうな顔をする。
「なら今日学園が終わってから一度サラカーン商会に行こうか。そこで渡すよ」
カインの提案にリルターナは頷くが、テレスティアとシルクは苦虫を潰したような顔をする。
「ぐぬぬ……こんな日に内政科の授業があるなんて……」
「私も……テレス、今日は我慢しよ。出ない訳にもいかないし……」
テレスティアとシルクは選択授業があり、カインは先に帰る予定だった。リルターナについても貴族科のみを選択しており、今日はこの後、授業があるわけでもない。
諦めきれないテレスティアとシルクの二人はがっくりと肩を落とすのであった。
コメント
rain
なんか皆が中国人観光客みたいにwww
ノベルバユーザー250446
王女がぐぬぬ…(笑)
カインの事になると抑えられない所いつも楽しく読ませていただいてます^_^
ノベルバユーザー101408
何時も楽しみに拝見させていただいてます。