レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~

すずろ

第六章 第七話「イメージ」

「ついに地下百階まで降りてきたな……」
「そんなになりますか……」
「よく数えてたみゃ」
「おなか、へったの」

 そう言いながら階段から出ると、そこは今までと比じゃないほどの空間が広がっていた。
 広大な大地、草木……花が咲き、蝶が飛ぶ。
 そして見上げるとなぜか太陽まで浮かんでいる。

「おいおい、俺らは降りてたんじゃなかったのか?」

 目を点にしてつぶやく陽太。
 するとその空間に女性の声が響き渡る。

「よくぞいらっしゃいました……ここは地底の国アウルゲルミル」
「だれ?」
「私はヨルズと申します。家事全般できます」
「きゃっ! ヨルズ様ですってっ!」
「アメリア知ってるのか?」
「教科書に出てきた、大地の女神と言われてる方ですねっ!」
「ええ、ではまずは前菜のサラダから」

 ヨルズがそう言うと、いきなり陽太たちの目の前にテーブルが出現し、サラダの盛られた皿が並べられた。

「そうそう、これが食べたかったん――って、ちょっと!!」
「はい? マヨネーズがないと食べられない系ですか? ちなみに私もマヨラーです」
「いやそうじゃなくて!」

「ぱくぱく」
「ルナさんも後にしよ! ね! ね!」

「そんな……私の手料理が食べられないと……?」
「どこの嫁だよ!!」

「ひっく……」
「わーったよ! わかりました! 頂きます!!」

 むしゃむしゃと頬張り、ぺろりと平らげる陽太。

「あ、普通に美味え……!」
「かかりましたね、それは毒入りサラダです」
「うそ!?」
「うそでーす」

 ――何やってんだこの女神は。
 よっぽど暇なのか。

「だってめったに人が来ないから寂しいんだもの」
「心読んだ!?」

「次はスープです」
「食べますんで、お話ししながらでもいいっすか? 聞いてもらえます?」
「……チッ」
「舌打ちしましたよね!? 今!!」

 最上級魔法の紋章を手に入れたくてここまでやってきた陽太。
 隣で美味しそうに食べてる女性陣は置いといて、話を続ける。

「ヨルズ様……俺、地属性の最上級魔法を使いたいんすけど、もしかして貴女と契約する感じっすか?」
「さようでございます。あ、パンも食べる? 出そうか?」
「ここへきていきなりフレンドリー!?」

 この女神、会話のキャッチボールがうまくできそうにない。
 ただでさえこっちはコミュニケーション苦手だってのに。
 それにしても地属性最上級というのはどんな魔法なんだろう。

「このように、何もないところからテーブルを作ったりお皿を作ったり、木やお花、大地のあらゆるものを司る力ですわ」
「って、また心読むんだな……!」

 なるほど、これは不死鳥の巣で魔女が使ってくれた魔法じゃないか。
 キノコ岩が出て来たやつ。
 あんな風に大地をコントロールできたら最高だ。

 その後もなんやかんやくだらないやり取りのあと、ヨルズと契約を済ませる陽太。
 詠唱の詩歌を教えてもらう。

「早速唱えてみていいっすか?」
「よろしいですわ」

 何を出そうか。
 そうだな、とりあえず……

「家……とかでも作れちゃったりします?」
「もちろんです。具体的にイメージできるものなら大抵どんなものでも」
「マジか、興奮してきた」

 陽太は心の中で記憶の中の家をイメージする。
 そして詠唱を始めた。

「……偉大なる大地の女神よ、我は汝と契約を結ぶものなり。その息吹をもって樹嶽じゅたけ統馭とうぎょし給え――」

 すると広がる草原に魔法陣が出現。
 それはどんどん大きくなり、橙色に発光し出す。
 その中からむくむくと木の柱や壁、そして瓦なんかも出てくる。
 ガシャンガシャンと組み立てられ、一分もしないうちに完成。
 瓦屋根に木造の平屋、日本風の家が出来上がった。

「わー! 変わったお家ですねーっ!」
「陽たん、すごいの!」

 草原の中にぽつんと建った一軒家に目を丸くする女性陣。
 天から女神の声も聞こえてくる。

「よく出来ましたね」
「ありがとうございます」
「でもなんか汚いお家ですわね」
「俺の実家ですけどね!」

 ――汚くて悪かったな!
 しかしこれは正直かなり使える魔法だと思う。
 戦闘のときにも障壁を出したり、魔女みたいにキノコ岩で高い足場を作ったり。
 そして戦闘だけでなく……これを使えば一儲けできそうじゃない?
 なんでも手に入る、まさに夢の魔法。

「あ、そうそう、代償のことですけれど」
「しまった、聞くの忘れてた!」

 そう、どんな魔法も、使用するにはその代償を支払わなければならないのがこの世の理。
 最上級魔法の代償もまた最上級である。
 なんだろう。
 どきどきしながら女神の声を待つ陽太。

「代償として、使った分だけお金をいただきますので」
「は?」
「ええと、家一軒で二百万ガルドになります」
「さっきのも!? つか持ってねーし!」
「どこまでも取り立てに行きますので」

 まじかよ、こんなの詐欺だ!
 てか、女神がお金をもらったところで使い道ないんじゃないの?
 なんの嫌がらせだよ。

「仰る通りですが」
「あ、聞こえてました?」
「けれどこの魔法、ほいほいと使われても困りますので、そのような代償にさせて頂きました。簡単に使われると、この星の大地がめちゃくちゃにされ兼ねませんので」

 なるほど。
 確かにお金が代償ならいざという時しか使わないだろうな。
 家一軒もおそらく妥当な金額なのかもしれない。
 世の中がむちゃくちゃにならないようにも考えてあるのだろう。
 お店で買えるものなら買うだろうし。
 さすが女神、賢いな。
 天才だ。

「どういたしまして。けれど褒めても安くはしませんからね。きっちり二百万、耳揃えて持ってきな!」

 褒め作戦、バレたか……

「な、なんとかします……」

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