レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~

すずろ

第五章 第三話「責任」

 そのころ、竜族の街ロキアにある城では、ハリルと竜王が対峙していた。

「親父! どうゆうことだよ!」
「気持ちはわかるが、あの少年は生かしておけぬ。それが竜族のためであり、お前のためであるのだ」

 不死鳥の巣で陽太と別れてから、ハリルは親友の救出を懇願していた。
 しかし救出どころか、次に会ったら陽太を殺すという竜王。
 谷底に突き落としたのも竜王の側近であることを知り、親子喧嘩の真っ最中なのである。

「ハリル、お前には強くなれと言ってきたな。いつか人族が現れるその時のためにと」
「……」

 竜王は語り出す。
 それは王のみに伝わる伝承だ。

 約四百年前のこと。
 突如として強大な力を持った魔女が出現し、世界は破滅に追い込まれていたという。
 破滅、それは街や城が物理的に破壊されていたのではない。
 魔女は各国の王を殺してまわっていたのだ。
 王の死、すなわち国の破滅である。
 それは竜族の国も例外ではなかった。
 そもそも血気盛んな当時の竜王は我先にと立ち向かったそうな。
 しかしその強大な力に抗えず魔女に殺された。
 こうして魔女は世界中の王を殺した。
 しかし新たに戴冠した四大陸の王たちが手を組み、ついには魔女の討伐に成功したそうな。
 その王のうちの一人が、ハーツ帝国初代皇帝である。
 他の国も、なんとか生き延びた子孫が再度国を立ち上げ、復興に尽力した。
 今の竜族の国もそうやってきたのだと。

「先ほど、帝都の民が現世へ戻ってきたらしい」
「おお! きっと陽太がうまくやったんだよ! ほらみろ、あいつは魔女とか関係ない良い奴だから!」
「だが、皇帝が戻られてないそうだ」
「なんでだよ?」
「……殺されたらしい」
「なに!?」

 初代皇帝は、次期皇帝や各地の王にのみ伝える言葉を残していた。
 次に魔女が現れし時、帝国は終わりを迎えるだろう。
 そして人族によるレジサイド王殺しが始まる、と。

「レジサイド……それが陽太だってゆーのかよ?」
「ああ、人族であるなら間違いない。王の敵、すなわち余の敵であり、次期国王であるハリル、お前の敵となりえるのだ」
「そんな……でも、ただの言い伝えだろ!? 信じるなよ!」
「じゃあ皇帝はなぜ暗殺されたのだ。魔女はなぜあの少年を攫っていったのだ」
「でもよ! あいつはそんな奴じゃねーんだ!」
「そんな数か月一緒にいたぐらいで何がわかるのだ! 聞き分けのない奴だな」
「親父こそ! そんなの強さじゃない! みんなを守ってこその強さだ! その中には陽太だって含まれんだ!」
「ハリル、余は民を守る責任がある。お前たちを守る責任がある。なによりも大切なんだ。わかってくれ」


 その後、ハリルは自室へと戻った。
 竜王との話がショックだったのだろうか。
 ベッドに寝転び、眉間にしわを寄せている。
 ルームメイトであり、チームメイトであり、気の合う親友である陽太とハリル。
 引き裂かれる運命に納得ができない様子。
 そこへノックの音がする。

 ――コンコンコン。

「……ルナか」

 ハリルの落胆する姿を目撃し、自室を訪ねて来たルナディ。
 彼女も彼女なりに心配しているのだろう。
 陽太が殺されかけたこと、そしてハリルと竜王が険悪になっていることなどを知っているから。

「――って言われたよ」
「陽たんに王殺しなんてできない。どう考えても」
「だよなー、でも親父たちは今のうちに排除しようと動いているようなんだ……」
「……」
「どうすれば守れるんだろう……竜族も、陽太も」
「……ハリルパパ、話せばきっとわかってくれると思うの」
「そうかな……」
「話せるうちにいっぱい話したらいいの。喧嘩できるうちにいっぱい喧嘩したらいいの!」
「……サンキュ」

 面と向かって言い合えるだけうらやましいと、ルナディは言う。
 ハッと瞳孔を開くハリル。
 彼女は家族と離れ離れになっていることに気が付いたのだろう。

「オレ……時間をかけてでも親父を説得してやる。無事でいてくれ陽太――」

「レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く