レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~

すずろ

第三章 第八話「王の間」

 しばらくしてハリルの親父さんが帰還した。
 すなわち竜王がドラゴン退治から戻ったということだ。
 三人は王の間へ呼ばれる。
 中央にまっすぐ敷かれたレッドカーペットを挟み、並んで立っている騎士たち。
 奥には鳳凰ほうおうのような鳥が描かれている旗。
 ハウアー王朝の国旗なのだろう。
 その手前に玉座があり、ごつい椅子に腰かけた竜王が座っている。

「親父! お疲れ!」
「うむ。お前も無事でなによりだ」
「サンキュー! こいつらは学校でつるんでる仲間、陽太とルナディだ」
「ど、ども……」

 萎縮しながらぺこりと礼をする。
 ――膝でもついたほうがいいのだろうか。

「で、その者が人族で間違いないのだな」
「えっ」

 竜王が陽太を指差し、ハリルに問う。

「なんでそれを知ってんだ? オレ、言ってねーぞ!?」
「宮廷医師が紋章を見ておるのだ」
「――しまった」

 診察の時に服を脱いだから見られてしまっていたのだ。
 貧血や色々な出来事が重なったせいで、陽太も気が緩んでいてうっかりしていたから。

「あ、ああ……。 でもでも親父! 陽太は人族である前に、オレのダチだからな!」
「ダチ、か。とにかく、よくやったハリル」
「どうゆうことだよ?」
「その人族を例の部屋へ連れて行け」
「承知しました」

 王の傍に控えていた騎士が、陽太の腕を掴み、ぐいっと引っ張る。

「ちょ、痛いっす……どうなってんの」
「来なさい」
「わかりましたから、そんな引っ張らないでくださいよ。自分で歩けます」

 陽太は事態を把握出来ていないが、抵抗するのは得策じゃないと判断し、素直についていくことにした。
 相変わらずの、大人な適応性だ。

「ちょっと待てよ! オレの客だぞ! 乱暴にするな!」
「すみません殿下」
「おい、親父! 陽太はオレと一緒の部屋で寝るんだぞ!」
「いかん。客人であろう」
「だから、ダチなんだってば! 人族だからか? 人族だと何が問題あんだよ!」
「悪いが、今はまだ教えることはできない」
「親父!? なんでだよ!」
「ハリル、陽太君とはもう付き合うな」
「は? ふざけんな! どんな理由であろうとオレは仲間を裏切らねーから!」
「大人になれ、いずれ王位を継ぐ身であろう」
「それは今、関係ねーだろ! 陽太に何かしてみろ、絶対許さねーぞ!」
「心配するな、体が回復するまで部屋でじっとしていてもらうだけだ。帝都をもとに戻してもらわないといけないしな。手出しはしない」

 そして竜王は、ハリルに聞こえない程の小声で呟く。

「今は……な」


   §


「はあ、まずい晩御飯だったなあ。貧血に効く飯なんだろうけど。コーラとポテチが食べたいなあ。ネット環境とティッシュが欲しいなあ」

 捕らえられた陽太は、離れの一室に監禁され、そこで夜を迎えていた。
 監禁といっても、牢獄のようなところではなく、ふかふかベッドに高級そうな化粧台、食べ物や飲み物にも不自由することのない生活空間である。
 ただし、入り口は厳重に閉ざされ、中から自由に出ることはできない。
 窓は高い位置にあり、鉄格子が施されている。
 差し込む蒼い月光。

「おいっ、陽太」

 そこへ、窓から少年の声がした。
 大人には出入りできる大きさではないが、その少年はするりとすり抜け、陽太のいる部屋の中へと入ってきた。
 ロープを使い、ひょいっと飛び移る身のこなしは、さすが竜族である。

「ハリル? どうしたんだ?」
「それがよ、陽太に会うことさえ許してもらえねーんだ。昼間にも来たんだが、凄い鍵もかけられてんじゃねーか。お前、人族ってのは竜族に対して何かやらかしたのか?」
「いや知らん。俺は竜族に会ったのも、ハリルが初めてだし。あ、天族の街でドラゴンを倒しちゃったからとか?」
「ちげーな。前も言ったけど、別にドラゴンは竜族の仲間とかじゃねーから。さっきも討伐してたの見たろ?」
「そうだよな。けど、歓迎されていないのは間違いないよな……」

 項垂れる陽太の肩に手を回すハリル。

「大丈夫だって。オレが絶対お前を守ってやるから。親父だって話せば分かるはずだ。陽太が大それたことなんて出来やしねーってこと」
「それはそれで男としてどうなんだって感じだけど」
「そうだ! お前に友情の証をあげよう!」
「なにそれ?」
「オレが作ったやつなんだけどさ、秘密基地に置いてあるんだよ」
「秘密基地とか、それはわくわくするじゃん。俺も行きたい」

 ――子供の頃、近所の山ん中で勝手に基地とか作って遊んでたっけ。
 ジュブナイルを感じる陽太。

「いいぜ! じゃあ明日、ルナも誘って一緒に取りにいくか!」
「でも、ここから俺が出たらまずいんじゃないか?」
「晩飯までに帰って来りゃ、たぶんバレねーよ。親父は昼から出かけるって言ってたし」
「じゃあ待ってる」
「おう! ちょうど昼飯食った頃に迎えに来るから! 楽しみにしとけよ!」

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