レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~

すずろ

第二章 第一話「おばさん」

「さて、俺たちは学校へ入学と入寮の手続きを済ませに行こうか」

 一度は死ぬかと思ったものの、なんとか地上へ降り立った陽太とアメリア。
 湖では空色の髪をした妖精のような女の子と出逢った。

「あの子、ルナディと言ったっけか。妖精みたいで可愛いかったね」
「……陽太様は、ああゆう子がタイプなんですか……?」
「いや、タイプとかじゃなくてさ。つか、さすがにあんなロリっ子が好きとか言ったら法的に粛清しゅくせいされて社会から消されるわ」
「でもっ……見た目、同じ年ぐらいじゃないですかっ」
「いやまあ、それとこれとは違うだろ」
「違わなくないですっ! ……私なんてだいぶ年上ですもんっ」

「……もしかしてアメリア、妬いてるの?」
「わ、私はっ! 陽太様が誰を好きになろうと知りませんっ!」
「ですよね……俺なんかに嫉妬する人なんていないよな……」
「って、なんで凹んでるんですかっ!」
「だって……調子乗った自分がキモいです、ごめん……」
「もうっ! どんだけニブチンなんですかっ!」
「そんなこと言ったって……」
「知らないですっ! ぷいっ!」

 ほっぺを膨らませ、ずんずんと先を歩くアメリア。
 仕方ないでしょう。
 中身オッサンな陽太にとって、アメリアの好きは中学生にからかわれているぐらいにしか思えないんですもの。


 丘を下ると、帝都への入り口があった。
 辺りは水浸しになっていて、傭兵のような者たちがせかせかと整地を頑張っている。
 さっきの水球のせいだろう。
 それを見て、アメリアは急に立ち止まった。

「私たちのせいじゃ、ないですよねっ……」
「で、あってほしい……」

 てか、なんであんなところでデカい水球が発生したのだろう。
 まるで陽太たちを助けるかのように出現した水球。
 そして、浅瀬へと押し出すように起こった不思議な波。
 都合がよすぎるのではないだろうか。

「と、とにかくアメリア、今は学校の手続きを急ごう。今晩、野宿になっちまう」
「そうですねっ、ごめんなさい傭兵さんっ!」
「いやいや、謝ったらそれこそ俺らのせいだって言ってるみたいじゃないか」
「あ、そうでしたっ! ごめんなさいっ!」

 やはりこの天然少女を野放しにしておくのが一番恐ろしい。
 そう感じる陽太だった。

 門をくぐるとそこは城下町。
 帝都ハーディア。
 日もかたむき空色はあかねだが、まだまだ通り一体に出店されている露店では、店主たちの賑やかな客寄せの声が飛び交う。
 なにせ帝都というだけあって、天族の街と比べると人通りのけたが違う。
 こんな大勢の人を見たことがないアメリアは、さっきから目を輝かせながらキョロキョロしている。
 都会に出た田舎者が、コンクリートジャングルをキョロキョロする、アレだ。
 そして言葉通り、帝王の住む都なのであろう。
 街の中心部にはお城が建っている。

「陽太様っ、陽太様っ、たぶん、あの建物だと思いますっ」

 アメリアが指さす方向に見えるのは、立派な時計台のついた建造物。
 確かに学校っぽい佇まい。
 二人はまっすぐそこを目指す。
 時間も時間だからと、露店にふらふら立ち寄らないところが、アメリアらしいというか、さすが優等生なところである。
 ――また時間のある時に一緒に見て回ってあげよう。
 どこの世界でも、女の子はショッピングが好きなものだろうから。
 そう考える陽太だった。


 時計台のある建物に辿り着いた二人は、やはりそこが学校であると確信する。
 なぜなら、自分たちと同じような年齢の子供が沢山ウロウロしていたからだ。
 この学校は全寮制だとアメリア父から聞いている。
 おそらく学校のすぐ隣にあるレンガの建物が寮なのであろうと察する。

 大きな神殿風の玄関をくぐり、学校の中へ入る二人。
 入り口近くの事務局らしきところで手続きをする。

「これでは……受理できませんね……」

 アメリア父からの推薦状を事務員さんに渡したのだが、どうやら先ほどの水で完全に文字がにじんでしまっているようだ。
 まずいことになったとオロオロしていると、玄関から三十歳ぐらいアラサーの女性が入ってきた。

「あ、おばさんっ!」
「ちょ、アメリア! アラサーの女性におばさんって言ったらまずいよ! 経験上!」

 天然のアメリアだから、一言一句注意してやらないといかんのだ。
 するとその女性はアメリアに向かって大声で叫ぶ。

「おー! アメリアかー! やっと来たなー!」
「お久しぶりですーっ!」

 アメリアも荷物を放り出して、その人に抱きつく。

「……あれ? もしかしておばさんって……」
「はいっ! 私の叔母さんですっ! 母の妹に当たる人ですーっ!」
「あ……そうゆうことね……あは……は」
「で、誰が三十路のババアだって……?」

 叔母さんは陽太をにらみつけながらそう言った。

「や、すみません……」

 作務衣さむいのような服を着たその人は、よく見ると確かにアメリアに似ている。
 というか、アメリア母に似ているのか。
 背中には白い翼、やはり天族だ。
 ただ、紅色の髪にポニーテールといったヘアスタイルで、腰に手を当てている姿は、アメリア母とは全くといっていいほど真逆な性格を感じさせる。
 プロポーションは良く、出るとこ出て締まるとこ締まって、見とれてしまう。
 顔をうずめたい。

「よかったなアメリア。将来は安泰あんたいだぞ」
「何がですか?」
「巨乳の家系みたいだから期待できる」
「もうっ! 陽太様っ! 変態さんっ!」
「で、アメリア。さっきから私のおっぱいばっかりジロジロ見てるこのマセガキは誰?」

 アメリアは事の成り行きを説明する。
 陽太が人族であること、最上級魔法の使い手であり、情報を探しているということなど。
 叔母さんはある程度アメリア母からの手紙で聞いて知っていたようで、今日もめいが来るのを心待ちにしていたそうな。
 その叔母さんの職業だが、いわゆる寮母さんらしい。
 これから陽太たちがお世話になる寮だ。
 ほんとに人種は関係ないんだな。
 天族はもっと貴族的な扱いかと思っていたが、なんか庶民的だな。
 いろいろと価値観をくつがえされることが多い。

「推薦状、濡らしちゃったのか! ま、仕方がないさ。私が代わりに申請しといてやるよ」
「ありがとうございますっ!」
「それと陽太。あんたは天族ってことにしとくわね。それから、魔法も全く使えないってことで申請しておくわよ。いろいろと面倒になるから」
「はあ……」

「……強大な力はときに、人を幸にも不幸にもする。忘れるな」

 その言葉は陽太にとって、とても大切な言葉に思えた――

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