初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

現実世界にて<茶室での報告会>

 その話を昌代は茶室で報告として遠山から受けることになった。

 PTSD――心的外傷後ストレス障害――と呼ばれるものは、根深い。美玖の場合は虐待と事件、それから季節が関係していると推測され、保の場合は美玖に引きずられるようにして発症している。
 そして、その状態で保と美玖を引き離そうとすると、保の不安定さが増すのだ。
「……厄介じゃ」
「はい。それゆえ、VRを医療のみに限定してしばらく使おうと思っています」
 遠山が今後の治療計画を昌代に話していく。

 二人を医療用VR機器に接続し、現実世界の二十倍の速さで治療をする。一度この治療を使い、日常生活に支障のない程度まで回復していたが、冬までに断続的に会っていたシュウこと周一郎、それから冬以降に起きた出来事が悪化させたのだ。

 そこまで聞き、昌代は茶室にいるもう一人の客人に向き直った。
「義孝」
「……古瀬家との繋がりは、あそこが筆頭株主になっている地銀系と地元企業ですかね。さすがにそこを切っちゃうとあそこでの活動全てを切ることになるので」
 すべてを言う前に禰宜田医療で社長に就いている義孝があっさりと答えた。
「孝道は『切ってしまえ!』と言っていますが、さすがに何百人とリストラしないといけないわけで。しかも、業績はいいわけですから」
「美玖とあの家が繋がりを持たなければよい。……美玖と我や禰宜田家との繋がりに気づいて、手のひらを反すような場合は。……よいな?」
「……ないことを祈りたいんですがねぇ」
「義孝様、それを人は『フラグ立て』と言うらしいですよ」
 義孝の言葉に、遠山が返していた。
「まずは美玖の親権を禰宜田家で有することが先決じゃな」
 そうすれば、美玖を完全に守ることができる。そして、今以上の治療を施すことができるのだ。
「最悪、我が交渉人になるぞ。その場合、美玖は我が引き取るゆえ」
「ちょっ!! せっかく可愛い養女むすめが出来るんです! 我が家で引き取ります!!」
「ほとんどおたこともないくせに、口だけは達者じゃの。美玖が選ぶとすれば、我か孝道のところじゃろ」
「最っ悪ですね。会わせないくせに!」
「ゲーム内でも限られた人物としか会わぬからの。仕方あるまいて」
「分かりました! 我々夫婦も参戦します!!」

 ……義孝の頭の中から、美玖がしばらく「TabTapS!」にログインしないということが綺麗に抜けてしまっていた。


 それに気づくのは、ログイン後一週間経ったあとだった。

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