初心者がVRMMOをやります(仮)
現実世界にて<女帝のいたずら>
美玖もいる前で、その話をした。
「ほほほ。やっと決意を固めたか」
嬉しそうに昌代が言う。
「良平の場合は、元教え子ということもあり己から言えぬであろうとは思うておったがの」
美玖の為には住まいも変える必要があるため、他県への引っ越しがベストだ。そして、隣県には、事の発端ともいえる古瀬家がある。そちらに居住を構えないとなると、ディスカスの住まう県だ。そちらでもいいのだが、美玖のことを考えればもっと離れていたほうがいい。とするならば、良平は仕事を一度辞める必要があるのだ。
良平にとっての最優先は悠里だ。悠里にどれくらい負担をかけるか分からないのに、簡単に引き取るなんて言えなかったというのが本音だ。
「お主ならそう言うと思うておったがの。だからこそ任せられるというのもあるが」
ふむ、と昌代が考えるそぶりを見せた。
「我も一緒に引っ越しをするかの。家は我が用意する故」
「え゛!?」
それはご免こうむりたいです。そう言いそうになった良平は、悠里と美玖の顔を見て諦めた。
……二人揃って嬉しそうなのだ。
「おばばさんと離れずに済むんですね! しかも悠里さんたちも傍に!」
「素敵ですわ。美玖ちゃん、正式に養子になった際は是非『おかあさん』と呼んでくださいね。ママも捨てがたいですけど」
ひくり。良平の口が引きつるのが分かった。悠里に勝とうと思ったことはないが、これは敵に回してはいけない。本能でそれを悟った。
「……悠里さんが『おかあさん』だと、溝内先生が『おとうさん』?」
「何かご不満かな? 美玖君」
今まで苗字で呼んでいたのをあえて名前で呼んでみれば、びくりと肩があがるあたり、どんな風に自分を見ていたのだと問いただしたくなる。
「多分、トラウマかと。俺の時もありましたし」
「あまり聞きたくないが、どうやったのかな」
保が話に入ってきたのを機に、あえて聞いてみた。
「ぎゅうぎゅうに抱きしめながら名前を呼んで愛を囁きましたが」
「流石に俺は無理だな」
悠里になら喜んでやるが。夫婦や恋人でもないのにやる方が変態だ。
「お前がやるとものすごく重く感じるってのがよく分かったよ」
「ひでぇ!」
ぎゃんぎゃんと騒ぐ保を無視して、良平は美玖と悠里の前に座った。
「少しずつ慣れるといい」
「……はい」
己たちに子供はいない。どちらが原因か分からないままだ。不妊治療の度に苦しむ悠里を見て、「気が向いたら養子を取ろう」と言ったのは良平だ。
養護施設に何度も訪問したし、ボランティアとして参加したこともある。保護者代わりに保証人になったこともあったが、誰一人我が子に出来なかった。
二人揃って引き取りたいと思った子供は今までだっていた。それでも最後の一手が出ないままだった。
「というわけで、初親子行事として飯食い行くか」
そう言った瞬間、後ろから殺気を感じた。
「ちっ」
「扇子持って舌打ちするの止めていただけませんか?」
犯人は昌代だった。
「いつも以上に隙があったからの。後ろが取れるかと思うておったのじゃが」
「……そういうのは地稽古だけで十分です」
どうして稽古の時以上の緊張感を持たなくてはならないのか。少しばかり問いただしたくなる。
「美玖は外に出てもすぐ委縮してしまうからの。今日は婆のまずい飯で我慢いたせ」
「ご謙遜を」
何度か食べたことがあるが、アレでまずいと言ったら、大抵の料理店の飯が食べられなくなる。
「我は西洋料理が苦手での」
あ、そっちは食べたことないや。そう思っていると、そちらも絶品だと美玖が力説していた。
……そういうことか。昌代の行動理由に合点がいった良平は、心の中で謝意を表した。
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