初心者がVRMMOをやります(仮)
二度とやりたくないクエスト
今回のクエスト、まともにクリア出来たのはジャッジの周囲にいたカップルのみだった。
攻撃すらも「カップルに見てもらえて嬉しい」だの「言葉攻めでは足りない」だの、聞いたディッチたちは、クィーンに恋するレンが可愛いと思えてくるくらいだった。
「イッセン君、リリアーヌ君、お疲れさま」
セバスチャンの淹れたコーヒーを持って、ディッチはイッセンとリリアーヌに声をかけた。
「俺らもみんなのおかげで被弾少なかったから助かったけど、……クリスさんが『お勧め』するクエストは二度とやんない」
イッセンにいつもの覇気がなかった。
「そういや、クリア報酬は?」
「一部しか使えない。参加賞は男性アバターが『チョコレート装備』、女性アバターが『ハートのフリルエプロン』。どっちも能力値一ね」
「そんなもんだろ、ネタ装備は」
「ただし、クリア出来たカップルは、二人ともその装備をしていると、男性アバターが攻撃力十倍」
そこでイッセンはため息をついた。
「代わりに女性アバターの攻撃力マイナス百。俺たちや美玖たちみたいだと問題ないと思えるけど、この装備で出歩ける?」
そういってイッセンが見せたスクショに写っていた装備は、着れるものではなかった。
男性アバターは一応見事な鎧一式……に見える布製。板チョコをモチーフにした鎧である。女性のほうは、角度によっては「裸エプロン」に見えなくない装備である。
「……俺も参加したかったな」
ホームでユーリに裸エプロンを着せるくらいなら問題はなかろう。
「問題はね、カップルのどちらかがこの装備にしたら、もう片方も強制で対になる装備になる」
「うーん。問題な……」
「それから、ホームでは着用できないから。この装備はどいうわけか『レイド専用装備』なの。他んとこでは装備すらできない」
「ごめん、訂正。要らないわ」
誰が好き好んで他の奴らにそんなユーリの姿を見せるというのか。
「他は?」
「チョコレートポーション。HPを回復させる代わりにMPかLPが極限まで減る」
「……」
「あとココアポーション。こっちはMP回復する代わりに睡眠・混乱・バーサク等の状態異常のどれか二つに罹患」
チョコもココアも同じものだと思ったディッチに、リリアーヌが味の違いを教えた。チョコレートポーションはかなり甘く、カカオポーションは「飲むのが辛い」ほどに苦いのだという。
「ここまでが参加賞。クリア報酬は『もてない男の僻みに打ち勝つ者』という称号と……」
「もういいわ。ゲーム歴、君らより長いとはいえ、初の見分だ」
「同じこと祖母ちゃんも言ってた。ついでに『さすがクリスさん。目の付け所が違うわ』って呆れてた」
あのマープルをもドン引きさせたというクエストは、様々なところで伝説になった。
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