初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

現実世界にて<今回の代償>

 保が再度目を覚ましたのは、二日後のことだった。

 白い天井がぼんやりと視界に入り、手を上にかざすと点滴のチューブが見えた。
 あれは成功したのだろうか。美玖に会えたが、目覚めているのだろうか。
 霞のかかったような頭でそんなことを考えた。

 保は、一度起きたときの記憶が飛んでいる状態だった。

 それに気付いたのは正芳だ。だが、あえて黙っていた。


 保が視線を横に動かすと、まだ眠りについた美玖が隣にいた。

 美玖を見る、良平の母親の顔が優しかった。
「保君、自分を大切にしないと美玖ちゃんはお嫁にやれませんからね。禰宜田ねぎたのお母さんもそう言ってましたよ」
「……善処します」
 美玖のことになったら、これ以上の事をしてしまうかもしれない。そう思うと、確約できなかった。
「まずはそれでいいでしょう。それから先程少しだけ美玖ちゃんが目を覚ましたの。すぐに寝ちゃったけど」
 それを聞いた保はほっとした。……何とか成功したのだと。
「それから医師の話だと、最低一ヶ月はVRのゲームは勿論、全てのゲームは禁止だそうよ」
「マジですか!?」
「それくらい大ごとな事をやったの。美玖ちゃんの場合はトラウマも加味すると、この先できるかも分からないって話」
「……殴りてぇ」
 思いっきり美玖の両親を殴ってやりたい。美玖が一番に笑顔になる場所を潰したかも知れないのだ。
「駄目。暴行で捕まります。捕まえるのは晴香がいい? お父さんがいい?」
「どっちも嫌です」
「だったら大人しくしてること。それから出来うることなら一週間入院の上パソコンに触れない……」
「入院延びてもいいんで、仕事させてください」
 三日くらい仕事をしていないのだ。フリーとしては致命的になってしまう。
「雇われるのは、難しいの?」
「難しいですね。自分の時間配分を崩されますし」
 きっぱりと保が言う。実際、一度はSEとして就職したことはある。だが、社風に馴染めなかったこともあり、数年で退職。その時にある程度の顧客がいたため、保はフリーで仕事が出来るのだ。
「じゃあ、晴香に頼むけど……」
「正芳に頼みます」
 勝手知ったる正芳の方が何を持って来ていいか分かっているはずだ。
「おそらくアパートにパソコンないけど?」
 は? 何を言いやがった?
「一応、今回のプログラムの残骸集めに警察で全部持ってったはず……」
「ちょっ!! あれ全部滅茶苦茶にされら今までの仕事がパァになります!!」
「あらら、どうしましょ?」
 ほのぼの言ってんじゃねぇ!! そう怒鳴りたくなるのを我慢した。
「保、自業自得だ。あのプログラム、ウルトラブックに残ってないからな」
「残すわけないだろうが。自爆プログラムも組んでる」
 他人の感情の中枢に勝手に行くようなものだ。悪意があって使われたら、たまったのもではない。
「大人しく警察に押収とか考えなかったのか?」
「どこであのプログラムが漏れるかわかんないからな。あと、二度と組むことも出来ないように複雑化した」
「お前って変なところで天才だよな」
「一応浅川教授に理論だけ話した。……それで十分だろ。聞きたきゃ浅川教授に聞け」
「プログラムは見せていないと」
「見せちゃいかんだろ、あれ」
 その言葉を受けて、今まで押収されていたパソコン一式が病院に届いた。警察側でもどうしていいかわからない量だったらしい。仕事とゲームと副業と。全部をパソコンでやっている保のパソコンの数は、かなりの量にのぼる。3LDKの一番広い八畳の洋間を全て占拠していたのだ。
 二人部屋の、ベッドのないところにモニターも含めて配線していく。
 どれをどのタコ足に繋ぐかも、保は決めているのだ。
「中身を拝見しても?」
「機密の仕事がいくつかありますが。官公庁からのものもあります。……一応、これが依頼リストです。依頼者が承諾した場合に限り、公表します」
 セキュリティに関するものは、他者でも見せられるわけがない。
「……分かりました。ちなみにあのプログラムは?」
「あのウルトラブックとそれにつけていた外付けのHD以外では作成していません。顧客に迷惑がかかりますので」
 ちなみに。保は大まかなプログラムを自宅パソコンで組むことはあるが、そのあと顧客用のパソコンにダウンロードし、必ず記録を消している。特に、セキュリティプログラムの依頼を受けたときは尚更だ。もし仮に、保以上の知識を持つSEが悪意をもって侵入し、盗まれたら大変なことになるからだ。なので最終的に仕事用パソコンに残るのは依頼書と納期、そして納入の証明のみ。だから、相手側でプログラム消去をされた時などは、本気で泣けてくるのだ。
 というわけで、保だけが分かる変なホログラムと暗号の羅列で残骸だけは記録してある。もしそれを弄られたら、自爆プログラムが発動しOSごと消去するシステムだ。
「おまっ……警察で弄られたら……」
 似たような仕事をしている正芳はそこまで言えば大体想像がついたのだろう。言葉を失っていた。
「今まで受けた全ての会社に謝罪に出向いて、プログラムを見せてもらうしかない」
 それは伝えているが、本気にしている会社はどれくらいあるのだろうか。
「とりあえず、遅れるって連絡をいれた上で、誰にも見られないように組むしかないんだけどな」
 正直言えば美玖にも見られたくない。
「そういうことなら、特別室を用意させていただくわ」
 しれっと悠里の母親が入ってきた。

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