初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

現実世界にて<女帝の非常識さ>

 ログアウトして昌代の部屋に行くと、今日はお茶の授業をするとあっさり言われ、美玖は着付けから勉強する羽目になった。
「ほれ! そうもたもたしていると帯が崩れる!!」
「はいぃぃぃ!!」
 この方は教えるとなるとかなり厳しい。
 以前ゲーム内でパパンとママンに「女帝が合格を出したら天変地異の前触れだよ。『まぁまぁ』というのが最大の褒め言葉と言われてるからね」という言葉がなかったら、折れていたかもしれない。
「着付けに時間がかかっておると、保が解きに来かねん」
 そう言って途中から着付けてくれた。
 ただ、昌代が着せてくれるとかなり身動きがとりやすいし、きつくない。自分で最後までやった時は、着崩れした上に苦しかった。何かコツでもあるのだろうが、いまいち分からない。
「畳のへりを踏むでない! 足の運びがなっておらん!!」
 ひぃぃぃ! 叫びたくなるのを必死で堪え、美玖は茶を点てる。
「……最初の頃よりはましじゃの。この調子じゃ」
「はいっ!」
「ばか者! 終わるまで立ち上がるでない!!」
 嬉しさのあまり膝立ちになったら、即座に怒鳴られた。

 その間もシュンシュンと茶釜が音をたてていた。
「心を落ち着けたい時は、いつでもこの茶室を使え。静かで精神集中にはもってこいじゃ」
「おばばさん」
「我はゲームをせぬから大変さは分からぬ。好きなことをするだけであれば、そこまで苦しまなくとも済むであろうがの。……仕事というものはそういうものじゃ。責任がある。お主はいつも全力で取り組んでおるのではないか。あちらには茶室はないのか?」
「私がいる場所にはありません。西洋のティーセットのようなものなら見かけるんですが」
「鋳物は盛んでないのか?」
「イモノ?」
「金属製法の一つじゃ。茶釜などはそれで作られておるがの」
「鍛冶師ならいますけど、イモノは聞いたことありません」
「そのあたりは保に聞いてみるかの」

 お茶の稽古が終わったあとは、そのまま着物でいるようにと厳命された。


 昌代の歩き方を表現するならば「シュッ」だろう。そしてなおかつ足音を一切立てない。ついでに気配も綺麗に消せる。
 その状態を維持しつつ、保の作業部屋に向かう。
「入るぞ」
 そう声をかけるものの、全く返事がない。美玖もだが、作業に集中すると時間を忘れるという意味で、二人は同類なのだ。
 鍵をかけないようにと言ってあるので、静かに開ける。

 そこで仕事をする保の姿は、正直美玖には見せられないと昌代は思った。
「陰険策士様、扉閉めてもらえませんかね。埃が入ると厄介なんですよ」
 顔もあげずに保が言う。
「我に気付いたのはいつじゃ?」
 静かに扉を閉める。
「俺も結構気配には敏感な方なので。足音もしない、気配もしない、その状態で扉が開いたら、あなた以外はありえないでしょう」
「確かにそうじゃの」
 保は何かを機械にスプレーし、別の作業に入っている。
「……ここまでは問題なし……と。で、砂○け婆様、何の用ですか?」
 手も休めず、マスクも外すことなく言う。
「ふむ。美玖と一緒にやっておるゲームで、鋳物という産業はないのか?」
「……鋳物……ですか。一体何をしたいんですか?」
「美玖と悠里の精神統一に茶室でもと思うてな」
 初めてそこで保は作業を止めた。
「鋳物、というより鍛冶という意味では、セイレン諸島が有名ですがね。マリル諸島のほうが日本文化に近いものがありますが」
「確か名月のクエストとやらをやっておるところじゃな」
「よく覚えておいでで」
「日本のよき文化を伝えるのはいいことじゃ。他国の文化のよいところを学ぶもまたよし」
 その言葉に保がため息をつき、考え込んでいた。
「あったらあったで、確かに悠里先輩も喜びそうだよな。
 ……とすると茶室はギルドに作ったほうがいいな。だと建築は誰に頼んだらいいんだ? ってか、ディスは茶釜作れるか?」
 悠里が喜びそう、というところまでは聞こえたが、そのあとからはずっとぶつぶつ言っている。
「建築関係となるとあいつらだけど、あっち、、、とも取引あるしなぁ。先生の知り合いに聞いたほうがいいか。でも神殿とか西洋建築専門だからな。和風建築に強い奴っていたっけ? ……ディスだってさすがに無理だよなぁ。茶釜なんざ見たこともないだろうし」
 そこでおもむろにスマホを取り出し、なにやら作業をしていた。
「何をしとるか」
「さすがに先生は今授業中でしょう? メールして仲間内の鍛冶師に連絡を取ってもらおうかと思っただけです」
「なるほどの。近くに禰宜田の保養所があるゆえ、そこで皆落ち合えばよかろう」
「ばばあ、勝手に決めんな。皆仕事してるっつうの」
「皆の時間を合わせればよいと言うておるだけじゃ。我の名前で予約をいれるゆえにな」

 そんなわけで、結局再度メールをする羽目になった。

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