初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

名月クエスト 1


「名月クエスト」で出てくる兎は素材としても一級品らしい。そう聞いたカナリアは、「名月クエスト」に行きたくて仕方なかった。

 ジャッジやディッチたちのアドバイスもあり、以前よりも依頼量をセーブするように心がけたこともあり、他のクエストに行ける余裕が出来たというのもある。
 余裕が出来たことだし、簡単なアクセサリーでも作って屋台イベントのために卸そうかとも思ったが、メンバー全員に止められた。それでは依頼量をセーブした意味がないと。

 本当は、そんなところに出してしまえば、今まで以上に嫌味を言われるだけなのだ。
「銀の腕輪」だけは以前から「初心者の町」に卸しているし、ログインしていなかった頃もセバスチャンが手を回していたため、現在流通していてもそこまで言われることはない。
 何より、「失敗した時の屑石を有効利用した腕輪」というのがかなり伝わっていることもある。

 余談ではあるが、カナリアへの依頼を受けたギルドカウンターの職員は「仕事量のセーブは当然じゃね?」ということで落ち着いた。それゆえ、指名クエストの固定金を値上げしている。
 作ってもらったPCたちの賞賛も多いことから、大半には好意的に受け入れられているのだ。
 有名になればなるほど、質が落ちるというPCも多い。大量生産に切り替えるからだ。
 中には質をあまり落とさず魔法で仕上げる時間を短縮する者もいるが。
 そんな方法を思いつかないあたりが、カナリアらしいといえた。


 カナリアが「名月イベント」に参加するためには、早急に「渡航」クエストをクリアせざるを得ない。「渡航」クエストまではアントニーも一緒に参加することになり、ジャッジの運転する車で必要最低限を回っている。
 海へつくなり「海原へ」というクエストを受注、行き先はマリル諸島だ。マリル諸島の主要都市へつくなり、そこの神殿へ行き「国の渡り」を発動させる。これで、カナリアはマリル諸島には簡単に行けるようになった。
 そのままアントニーは戻ったが、カナリアとジャッジはそのまま「名月クエスト」へと突入していた。

「なんか、わくわくします。最初の頃みたいです」
 楽しそうにカナリアが言う。
「何にも分からない時にジャッジさんに助けてもらって、それから暫く四人だけで動いていましたよね」
「……あぁ」
「今はたくさんの人たちが私を助けてくれます。とっても嬉しいですが、久しぶりにゲームをやり始めたばかり頃を思い出しました」
 右も左も分からず、ゲーム内の常識すら知らない。
 時々、手の開いたギルドカウンターの職員たちが、己のオリジナルキャラクターで助けてくれる時はあったが、基本は一人だった。
 あの時、ジャッジが助けてくれなかったら、カナリアは「TabTapS!このゲーム」を止めていたかもしれない。
 ワクワク、ドキドキ。そんな感情が蘇ってくる。

 久しぶりに防御力の高いナース服と、性能のいい注射器型杖を取り出して、イベントに向かった。

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