初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

娘香(じょうが)の巫女は誰ですか


 その頃のカナリアはというと……。

 途中までは大人しく捕まっていた。だが、何をするにも状況確認が必要と思い出すと、周囲を見渡した。

 自分でもだいぶ図太くなったなぁとは思っている。

「で、どうして私を連れてきたんですか?」
 言葉が通じないということはすっかり忘れていた。杵状の杖はそのままもっていても大丈夫なようだ。
――巫女様だ――
――巫女様じゃ――
――娘香の巫女様が戻ってこられた――
「ふぇぇぇ!? どうして兎さんの言葉が分かるんでしょう!?」
 それに気付いてしまえば、少しばかり怖い。
――それはあなたが娘香の巫女様だからです――
 ここに連れて来た一番大きな一角兎が言う。
「人違いですぅぅぅ!!」
――そうは仰られても、我らと同じものを着ておられる――
「こ、これはですねぇ!!」
 まさか、巨大一角兎の攻撃避けに着ているとは言えない。
「それは、我ら一角兎の毛皮で作られた服であろ?」
 平安時代の衣装を着た男女がそこにいた。

「私はカナリアといいます。……えっと、お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
わらわはかぐや」
 十二単を着た女性が妖艶に笑いながら言う。
「我は月詠つくよみ
 束帯を着た男が少しばかり豪快に笑う。
「かぐやさんに月詠さんですか。お二人は一角兎の関係者ですか?」
「……そなたは妾たちが『ぷれいやー』か『えーあい』だと思わぬのか?」
 その言葉にカナリアは首を傾げた。
「だってさっき『我ら一角兎の毛皮で作った服』って仰いましたよね? ということは一角兎の関係者ですよね?」
「ほほほ。月詠よ、この者はしかと我らの話を聞いておったようじゃの」
「聞いておっても他の者はかようなことを聞かなかったな。しかし、ぷれいやーがここを訪れるのは久方ぶりだ。歓迎する」
「あの……えっとですね」
 その前にここは一体どこなのだ。
「ここは『月の島』一角兎の住まうところにて、天に一番近きところ。そして、不死の妙薬を手に入れられる場所」
 さらりとかぐやが答えた。
「……不死の、妙薬、ですか」
「さよう」
 そういえば、竹取物語の中にそんな話があったかも、とカナリアは思い出した。
 だが、ゲームで不死の妙薬といえば何になるのだろうか。それすらもカナリアは想像がつかない、というよりもゲームこそが不死の妙薬のような気がしてしまうのだ。
 例え、死んだとしても「死に戻り」で復活が出来る。どんなものでも魔法を使えば出来るような気がしてしまう。
「のう、カナリアよ。このげーむは他と違うところはないかえ?」
 違うところと言われても……とカナリアは思う。何せ、VRMMOはこれしかやったことがないのだ。
「その心の持ち主であったからこそ、一角兎が選んだのかも知れぬな」
 月詠も笑いながら言った。
「というか、ゲーム自体そこまでやってたわけじゃありません。この服だって兎さんたちに攻撃を受けないようにって、仲間が作ってくれたものです」
「では、他のものがつけていなかったという、その首飾りは?」
「これ、ですか? これはですね……」
 チョーカーの由来まで話す羽目になった。
 そのあとも、何故かカナリアが出したお茶と団子でひたすら話をしていた。

「というか、そろそろお暇したいのですが」
「それは出来ぬな」
 きっぱりとかぐやが言う。
「何故でしょう?」
「ここは他と違う空間にあるゆえ」
「ふぇぇぇ!?」
「一角兎が認めたのだ。ここの主は娘香、そなたとなる」
「ですから、月詠さん! 私は娘香じゃありません!」
「いや、一角兎が認めたものが娘香となり、この地を守る運命さだめ
「そなたが好きな『くらふと』とやらも好きなだけできるぞ? そなたの言う『ろぐあうと』とやらもいつでも出来る。……ただし、他の地域には行けぬが」
「それが困るんです!!」
「困らぬ。我らが必要なものは取り揃えるゆえ」
 かぐやと月詠に全く話が通じない。
「それにっ! 私にはこの世界にも大切な人たちがいるんです! その人達と色んなところを見て回りたいんです!」
「不死の妙薬よりもそちらを取ると抜かすか?」
「はいっ! それに私にとってこの世界こそが『不死の妙薬』ですから。それにっ! このお団子もお茶も二度とお渡ししませんよ!?」
 かなり支離滅裂なことを言ってしまった気がしたが、勢いというものは止まらない。
「この世界が、不死の妙薬……か。ははははは。面白いことを言われたぞ。のう、かぐや」
「かなりの。それに帰さぬとこの美味な茶と菓子を渡さぬと」
「だって、これを作ったのはセバスチャンですからっ! そしてこのお茶葉と、シラタマルを得られたのだってみんなのおかげですからっ」
「では、何故数あるげーむからこれを選んだ?」
「それは……」
 かぐやの問いに、カナリアは言葉を失った。
 最初の頃はメジャーなVRMMOがやりたくなかった。クラスの人と会いたくなかった。それは紛れもない事実である。
 だが、セバスチャンというパートナーを得て、ジャッジという大切な人に会えて、そして、たくさんのものを「TabTapS!」の中で見つけた。
「のう、何を悩む? 元は誰とも会いとうなかったのであろう? えーあいならそなたが命じれば、ここに来るぞ? さすれば美味な茶も菓子もいつでも食べ放題じゃ」
「それに、我らがくらふととやらに必要な材料を用意しよう。特に珍しいとされる一角兎の毛皮も角もここにはたくさんある」
「え?」
「一角兎は、脱皮を繰り返して大きくなる。最初は白兎、そして何度か脱皮を繰り返して黒兎となり、大きくなるとまた白き一角兎となる。選ばれた者のみが翼を持つ一角兎となるのだ」
 すりすりとたくさんの兎がカナリアの傍に寄ってきた。
「娘香がおれば、脱皮も楽に出来るようになる。今は脱皮が出来ずに苦しむものも多いのじゃ」
 かぐやの言葉を現すかのように、角をもっていない小さな兎たちはカナリアの傍に来ると、一羽ずつ脱皮を始めた。
 そして角を持つ兎、白兎へと変貌していく。
「あの島へ一角兎たちがススキッスと団子を取りに行くは、薬のため」
 月詠が静かに説明を始めた。
「薬のため、ですか?」
「さよう。団子を再度乾かし粉にする。そしてそれを挽いて、餅にする。湯を沸かすため、そしてその灰を利用するためにススキッスを持って来る」
「じゃあ、私たちはそれを邪魔いていたんですか?」
 思わずカナリアはしょんぼりとうなだれた。
「否、娘香を見つけるためには、あれは必要なこと。あの場にいて、一角兎を狩らぬこと。そして我らと同じものを身につけること。一角兎の攻撃を受けぬこと。七日間一角兎と会うこと。そして、一角兎が認め、長がここへ連れてくること。つまり汝は全てを満たしておる」
 言いがかりだ。カナリアから見れば言いがかりも甚だしい。
 カナリアが白兎を初めとした、角をもつ兎を狩らなかったのは、ただ単に解体係に回っていただけのことだ。ジャッジやスカーレットたちが凄い勢いで兎を狩るので、カナリアは補助と解体に徹しただけの話だ。それに、カナリアは一角兎の攻撃を受けそうになっている。
「しかし、一切攻撃を受けていないのも事実。それは覆せぬ」
 どうやっても娘香にしたいらしい。

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