初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

パッシブスキルの怖さと、代用品


「巫女、一度島に行くぞ」
 和装姿に満足したユニが、カナリアを促した。服はユニが先にもっていくらしい。
「……ジャスティスさんは今日……」
「ログイン予定だよ。どうした?」
 不安そうなカナリアの問いに答えたのはユウだった。
「いえ……エリさんのところのギルドメンバーの皆さんも着物着たいだろうなって」
「問題ないわ。先日皆さんに二着ずつクィーン様名義で贈りましたから。まだ臼にも満足いってないですし、お世話になるだろうからと。……ジャスさんが一人大変でしたけど」
 ユーリが同情したように言う。
「……ですよね」
 カナリアも思わず同情した。
 言うのはクィーンだが、仕立てて縫い上げるのはジャスティスの役目だ。しかも満足がいかなかったら何度でもリテイクになるだろう。
「クィーン様、裁縫スキルだけは誰よりも最初から高かったみたいですわ。現実のスキルが反映されたんでしょうね。ジャスさんが大変だったのは、柄の作り方です。和装独特の柄流しが分かりにくかったみたいで」
 それはそれで大変なのは現実で和裁を始めたカナリアも分かる。出来上がって渡したあと、縫っている最中にクィーンの「やり直し!」の怒声が飛んだら、再度糸から作らなくてはならない。
「何もそんな面倒なものを……」
「ジャッジさん、クィーン様を舐めてはいけませんわ。一つは普段着に出来る気楽なものでしたから、ジャスさんもすぐに出来上がりました。もう一つは正月用の『晴れ着』です。それはもう、着たときに晴れやかに見えるように作らせていましたから……」
 さすがにそれはやりすぎだと、カナリアは思う。熟練の絵師やそれに準ずるような方でないと難しいはずだ。最たる例は友禅といわれる着物である。
「それから、先日クィーン様のパッシブスキルが一つ分かったんですけど……『女帝の威圧』だそうです」
「……まんまじゃねぇか」
 ジャッジが呆れたように言う。
「ジャッジさんもそう思いますわよね。しかも有効範囲は半径五百メートル、モンスター、NPCなど問わず全て。威圧を受けたものは、どんな状況であれ屈するそうです。ジャスさんに同情したのは、このパッシブスキルを最初に受けた身内だからです」
 カナリアも自分の顔が引きつるのが分かった。
「ダンジョンでは、己のLVよりも上位モンスターであっても効くときが多いとか。あまりにも離れすぎたモンスターには無効ですけど。……それから日常生活では気を抜くと発動しているようですわ」
「気を抜いて発動って……危ないじゃないか」
 ジャッジはもとより、ユウまでもが顔を引きつらせている。
「えぇ。しかもプレイヤーには、LVに関係なく発動します。本日は嬉々としてアントニー先生と二人で『深窓の宴』本拠地に遊びに、、、行ってますわ」
「それって……」
 遊ぶという言葉に力を入れている時点で、カナリアたちから見ればかなりの恐怖だ。
「勿論。修行中に逃げ出したプレイヤーと遊ぶ、、ためだそうですの。それから、アントニー先生のパッシブスキルは『修行僧の誇り』だそうですわ。『修行僧の誇り』は修行から逃げ出す者を一瞬で捕らえる技だとか。……発動させた発端が『深窓の宴』ですから、同情の余地はありませんけど」
 今日はどれ位厳しい修行になるのだろうか。逃げれば逃げるほど、厳しくなるスキルのようにカナリアは感じた。
 その時点で、自業自得だ。何もカナリアたちが同情するものではない。
「さて、拠点に戻ってから島に行くぞ。カナリア」
「はいっ」
 切り替えて、「月の島」に行くことにした。


「月の島」で、十二単に着替えて儀式を行う。二週間以上放置していたのだ。かなり忙しかった。
 先日小さな兎が産まれたそうだ。カナリアが巫女になってからはじめての子兎らしく、ユニと同様にカナリアと一緒にいることになるらしい。
「あとで名前決めますね」
 そう言うと、子兎は嬉しそうに頬を寄せてきた。

『エマージェンシー。こちらエリですー。カナリアちゃん聞こえてますかー』
 聞こえているも何も、携帯電話で通話していて何を言う。後で知ったが、ここで使えるタブレットなどは全てカナリアのものだけらしい。
「どうしました?」
『よかったですー。ゲーム引退だったらどうしようかと思ってましたー。こちらから資材の依頼ですー。そちらで脱皮した時に出た、巨大一角兎の角と皮革をもらえませんかー。
 NPCさんからの依頼ですが、お金に糸目はつけないそうなのでー、なるべく古いものをだそーです』
 その言葉に思わずジャッジとかぐやを交互に見つめた。
「俺らに聞かずに、理由はエリに聞け」
 苦笑して答えたジャッジの声を拾ったエリが、電話越しで笑っていた。
『えっとですねー。神社をなおすんだそーでーす。私たちも今回初めて知ったんですがー、マリル諸島の神社仏閣など信仰に関わるものは全て、一角兎が素材なんだそーです。しかも、きちんと“月の島”で脱皮したものを使うんだそーです。
 ただ、島にある素材は巫女が許可しないともらえないらしく、今回直さないことにはいつになるか分からないというのが、島の人たちの言い分でしたー』
 それを聞いたかぐやも月詠もすぐに頷いた。
「分かりました。これから捜しますから、必要個数を教えてください。最悪ユニちゃんに運ぶのを手伝ってもらいます」
『おおー。あの一角兎さんが飛ぶ姿がまた見られるんですねー。楽しみですー』
 そして電話が切れるなり、必要個数がメールで届いた。
 それを見たかぐやと月詠がすぐさま用意を始めた。
「古きものを使うは、あの島の慣わしじゃ。妾たちがこの島を受け持った時に渡して以来久方ぶりじゃな、月詠」
「そのようだ。巫女よ、先ほどの品々はここにある。これが一の倉庫」
 十の倉庫まであり、全てが年代別順に脱皮した兎の色んなもので一杯らしい。死んだものは一応、月詠の錬金術によって全てが別に保管されているとのことだ。こちらも倉庫が十個あるというから、一体この小さな島に入りきっているのかを知りたくなる。

 かなり古い角は、既に石のようになっており、思わず年代を感じた。石……という単語がカナリアの中で引っかかりを覚えていた。
「……あ」
「カナリア、どうした?」
「これ、石臼代わりにならないでしょうか?」
「……あとで砂○け婆様に聞くぞ。かぐや、月詠」
「どうした、守人よ」
「俺らも少し角だけもらっていく。臼に出来るかも……」
「何を訳の分からぬことを。我らが使う臼は全て歳若の一角兎が脱皮した時に出た角を使っておるぞ。捧げものの団子を一度挽くと言っておいたであろう?」
 月詠が当たり前のように言う。
「それ、見せてください!!」
 カナリアはすぐに月詠に詰め寄った。
「一つくらい渡しても差し支えはない。とくと見るがいい」
 エリの依頼にこたえつつ、石臼の代わりを見つけることになった。

 この臼はクィーンとアントニーにかなり気に入られることになる。作るにあたって、マリル諸島に伝わる特殊錬金が必要だったため、「神社仏閣を愛する会」に依頼し作ることになった。

 そして、その臼はマリル諸島で爆発的な人気を誇るようになった。

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