初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

新年に向けての用意

 最近、ログインすると何故かジャッジと離れることが多くなった。
 タカがバイク好きなこともあるのか、二人でツーリングを兼ねたレベルアップに向かうのだ。カナリアはその間も「娘香の巫女」としての仕事や、指名依頼のアクセサリーを作ることで精一杯で、あまり気にしていなかったのだが。

「カナリアちゃん。そろそろ桜の花作ってー」
 少し手が空いた頃合を見計らうかのようにエリから依頼が来た。
 名月イベントのときに作った桜の花もどきで、新年に花を添えるつもりらしい。
「あとついでに松竹梅もお願いしたいとー、うちのギルマスがー」
「作れたら作ります」
「よろしくー。メインは桜の花でー」
 そんなやり取りをマリル諸島でしたあと、ガレ連邦共和国にあるギルド拠点へと向かった。
 どうやら、まだジャッジは戻っていないらしい。タカとユウが一度このゲームを止めたころ、上限LVが七十だったとかで、タカとユウはLVあげに勤しんでいる。
「カナリア、どうした?」
 現在は本拠地に共有倉庫がある。以前であれば、「カナリアが欲しがってたやつ」とか、「これはジャスティスとスカーレットで分ける」という線引きがあったが、現在は線引きが曖昧になってしまったため、止めたのだという。
 そんな共有倉庫に用事があったジャスティスが丁度通りかかったのだ。
「ジャッジさん、こちらにもいらっしゃらないなって」
「……ジャッジなら親父と出かけたよ。ツーリングとライフルあたりは二人とも共通してるから。どの辺りまで被って、どのあたりが被らないかも分かっておかないと、レイド戦で大変だから」
「……そう、ですか」
 ならば仕方ないと思うが、どうしたらいいものか。
「共有倉庫の中にないものか?」
「いえ……あることはあるんですが、足りないんです」
「? 鉱物?」
「メンモドキです」
 そして、エリからの依頼をジャスティスとユウに伝える。
「なるほどなぁ。まぁ、あの人たちなら分からなくもないからな。松竹梅までとなると、確かに足りない、それ以前にメンモドキだけじゃ様にならんぞ」
「スパイダーシルクはそれなりにあったんですが……」
「アサミタイも使ったほうがいいかも知れんぞ。後はディスとレットに頼んで針金の用意だな」
 ジャスティスが必要なものを挙げていく。針金など、木の部分になりそうなものはカナリアも既に頼んである。問題は花や葉などの細かい部分なのだ。
「ジャスティスさんにも、松の葉や桜の花とかの布地依頼をしたいんですけど」
「色、素材は?」
「色は桜色と、深緑、それから茶です。あとは竹の色をどうしようか迷ってます」
「……染料も足りないな。俺も行く。ユウもどうだ?」
「だな。俺もそろそろリハビリがてらのクエストよりも面倒なクエストを受けたい」
「……いえっ。アサミタイとメンモドキはジャッジさんが戻ってから……」
 さすがに足を引っ張ると分かっていて染料集めは行きたくない。
「大丈夫だ。AI込みのパーティにするから。……他にいけそうな面子は……」
 ディスカスがいたが、断られてしまった。
「三人でいいだろ。ジャッジがツーリングに行っちまったんだ。ユニも連れて行ければ……」
 ユウも行く算段をつけ始めたが、ユニはアルテミスへ「巫女に仕える心得」を教えている真っ最中らしい。それを二人に伝えると、少しばかりため息をついていた。
「じゃあ、三人で行くか。ユウのAIは?」
「俺? 俺のAIはヒョーゴ。魔法攻撃型AIだ」
 そう言ってがっちりとした体格の男を紹介してきた。
「ヒョーゴです。魔法攻撃型ですので、よろしくお願いします」
「カナリアです。こちらは、私のパートナーのセバスチャンです」
「セバスチャンです。大半が私のことをセバスと呼びますので、そう呼んで頂ければ」
「で、俺のAIのミラージ。こいつは回復と補助をがメイン」
「ミラージです。どちらかと言えば補助がメインですね」
 それぞれの自己紹介が終わり、とりあえず幅広く集めるため、クエストを受注するのではなく適当に行くことになった。

 行き先はメンモドキとアサミタイの生える草原と、鉱脈がある場所。二つを兼ね備えた場所はこの大陸にもしっかりとあり、そこに向かう。メジャーな場所のため、プレイヤーが多いのが難点だが。

 休息場に着くなり、ジャッジとクエストを行うときのようにセバスチャンがお茶を用意し始めた。
「……LP減ってないんだけど」
 ユウが突っ込んできたが、セバスチャンが全員にお茶を渡していた。
「セバス」
「ジャスティス様、いかがなさいました?」
「毎度紅茶だが、たまにコーヒーで出せない?」
「……見かけたことがございませんので。見かけましたらジャスティス様にもご賞味願います」
「おうよ」
「おい、ジャス」
「気にするな。いつものことだ。大体こういうところで今日の動きを決めてから動くんだと」
「ピクニックかよ」
「気にするな。カナリアが持ち込んだ俺らのギルド限定行事だ」
「……あっそ」
 呆れたように言うが、既にユウもサンドイッチをつまんでいる。

 そうしている間にも、顔見知りたちが立ち寄ったりしながらどう動くかを確認していた。

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