初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

久しぶりのドライブ


 その日は、美玖が作ったものから全員が好きなものか選んで、クリスマスプレゼントとしていた。

 そして、そのままゲームに繋ぐ。
 りりかと一弥は「World On Line」に、美玖たちは「TabTapS!」だ。

 ログインするなり、カナリアは以前よりやっていた正月飾りなどを作っていく。ディッチたちに言わせれば、「ギルド本拠地に飾ることで宣伝効果もでる」とのこと。さすがにエンチャントは全く要らないという観点から、一つ作れればタブレットで製作できるのが強みである。
 そして、クィーンには床の間に飾る生け花代わりの飾りを所望されているのだ。正月までに他の依頼とあわせて作るのは至難の業である。
「ふしゅぅ」
 少しばかり休憩を取ろうと思った頃には、あっという間にゲーム時間で四時間経過していた。
「少し落ち着いたか?」
「はいっ」
 ジャッジが声をかけてきたので、カナリアは元気よく返事をした。
「気分転換兼ねて、少し出かけるぞ」
 その言葉にカナリアが驚いた。
「たまにはいいだろ。この間、ジャスたちと出かけたって聞いて、少し羨ましくなっただけだ」
「私も、ジャッジさんと久しぶりにクエスト行きたいです」
 昔のように、ただ楽しむだけのクエストに二人で行きたいと思った。
「じゃ、出かけるか? 乗り物は?」
「バイクがいいですっ」
「ん。じゃあ、リースとセバスで一つのバイクに乗ってくれ」
「かしこまりました」
 セバスチャンとリースが答えると、そのまま近くの草原へ出かける。
「ここですっ」
「ん?」
「ここで、ジャッジさんに助けてもらったんです。助けてもらわなかったら、ゲームなんて難しいものという認識で、辞めていたかもしれません」
「それを言うなら俺もだな。ここでお前に会わなかったら、このゲーム辞めてただろうな。飽きてきてたし」
 どんなものが要因となり、どんな結果をもたらすのか。そんなものは、カナリアにも分からない。だが、カナリアはここでジャッジと出会えたことを、何よりも感謝している。
「ここでジャッジさんに会って、たくさんの人を紹介してもらって、ギルドカウンターの人たちともたくさん話すようになって……。たくさんの人に助けてもらって私がいるんだなって思います」
「そんなもんだろ。俺もディッチさんが担任だった頃は何てこったいと思ったが、卒業近くには感謝してたからな。マープルのばあさんやポアロのじいさんと会った、別のゲームは既にサービス停止してるが、あの頃の面子と未だに付き合いあるしな。前回会ったクルツもその一人だし、ディスもそうだ」
 ポアロが己の祖父と聞いて少しばかり驚いたが、それも出会いの一つだとカナリアは思った。
 そんな話をしていたら、初心者らしきプレイヤーがウォールベアとエアラビットに囲まれていた。
「ジャッジさん!」
「ったく。……分かったよ」
 ジャッジが銃を取り出し、カナリアは二人に回復魔法をかける。
「大丈夫か?」
「たたた、助かりました」
 ジャッジが声をかけると、一人が礼を述べてきた。
 助けた二人組は、別のゲームで生産職をやっていたらしい。「TabTapS!」の方が生産の幅が広いということで移ってきたばかりだという。
「AIさんから色々聞きながらすると楽しいですよ」
 カナリアが助言できるのはそれくらいだ。
「それはお前だけ。タブレットでチュートリアルと格闘しながらやってみろ。最初から生産職を目指すな」
 ジャッジが二人に忠告として出す。ディッチやスカーレットたちも最初から生産職ではなかったらしい。低LVから職人としてやっているカナリアが例外だったらしい。
「何かあったら、私たちは『初心者の町』に拠点を構えているのでいらして下さい。そして、焦らず楽しんでください」
 そして、解体した肉や皮などを二人に渡す。
「い……いいんですか?」
「構いません。本当はあなたたちの得物だったはずですから」
「ありがとうございます! 一度『死に戻り』をしていて、お金とかが底をつきかけていたんです」
 もう一人がお礼をしてきた。
「それ換金して、ギルドカウンターで預金通帳を作ったほうがいいぞ」
「ありがとうございます!」
 ジャッジのアドバイスに二人揃って頭を下げていた。
「行くぞ」
「はいっ!」
 また二人で駆けていく。

 久しぶりに楽しむ二人だけのドライブだった。

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