初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

ゲーム内新年会


 正月は和室となった一室に全員が集められた。
「そろそろ『深窓の宴』から手をひきたのじゃが、数名が我とアントニー殿を留めてな」
 心底嫌そうに、クィーンが言う。
「留めるのは、レイ……こやつくらいなら我もそ知らぬふりをするが、あとはサイレンとレンというプレイヤーじゃ」
 本日の料理はクィーン監修の元、セバスチャンが作った「お節」もどきである。

 全員がよくぞ作ったと褒め称えたくなるような逸品だった。もち米がなかったため、雑煮餅などは省いてある。餅は現実世界で食べることが決定しているため、「カエルム」メンバーはあまり気にしていなかったが、「神社仏閣を愛する会」のカーティスにはかなり残念がられた。
「こんなお節料理ー、現実世界でも味わえないですー。元旦からログインして正解でしたー」
 そうしみじみと呟いたのはエリで、全員が納得している。
「お主らも我の居住に呼べればいいのじゃがな」
 クリスマスに来たイッセンたちには場所を知らせていないという周到ぶりにジャッジも驚いたが、あえて黙っていた。
「マリル諸島では初詣はしないんですか?」
「してますよー。やってから来ましたー。日本のプレイヤーでごった返してますからねー。逃げてきましたー」
 カナリアの質問に、あっさりとエリが答えた。
「へぇ。わざわざ初詣だけ?」
「そうなんですよー。一部の神社が改築中なのに文句つけたやつがるらしいんですよー。ふざけてますよねー」
「ほんっと、ふざけてるわね。だったら賽銭をたんまり落として来年いい神社見れるようにしなさいっての」
「レット、口が悪くなってるぞ」
「兄貴、事実よ」
「あははは。確かにいくら金に糸目をつけないと言われましても、PCとNPCでは持っている金額が違いますからね。……そうそう、マリル王国の国王から『娘香の巫女』へ感謝を伝えて欲しいといわれましたね」
 カーティスも笑いながら同意する。
「ふぇ?」
「だって、そうでしょう? いくら金に糸目をつけないといっても、あそこまで素晴らしい角や皮が手に入ると思っていなかったようです。しかも、提示された金額は我々の予想より下でしたし。他のプレイヤーであれば、十倍近い値段を吹っかけていたと思いますよ」
 カナリアは信心深いわけではない。ただ他者の祈りというものまで、否定はしないだけで。
 だからこそ、マリル諸島に住む住民の心のよりどころとなる神社仏閣なのだから、多少そのあたりに融通を利かせてもいいと思っただけなのだ。その分、ジャッジに言われプレイヤーからはそれなりに取ることにしている。
 頼んでくるのは、大半が「深窓の宴」のメンバーか、トールのいるギルド(カナリアはまだ名前を覚えていない)からのため、ジャッジ権限でぼったくりとでもいえる値段を吹っかけている。現在カーティスたちからの依頼は、神社仏閣と宮殿に関するものだけのため、そちらは最初に格安で譲ってある。
「安心しろ。あいつらには十倍以上の値段を吹っかけている。一部で『差別だ』なんてほざいていたが、知ったことか」
 ジャッジが楽しそうに言う。このあたりは、カナリアが交渉を行うと足元を見られる。
「しっかし、残念よねー。ウサミミカナリアちゃんがたった半年くらいで見納めになるなんて」
 スカーレットが空気を替えるかのように呟いた。
「確かにな。あれは秀逸だったのに。次の耳は何にすべきだと思う?」
 ディスカスもその話に乗ってきた。
「やっぱり次は三毛猫的子猫だろう」
 さらりとディッチまでもが話に乗ってきた。
「動物シリーズはもういいです」
 それが原因でまた何に巻き込まれるか分かったものではない。
「よし! ならば黒猫の耳でどうだ!? なんなら白猫! そんでもって額に三日月……」
「先生もそのネタから離れましょうよ!? ってか何!? このギルド」
「お前が言うな。AIと名前ネタの時点で、言う権利はないと思うぞ」
 ユウの突っ込みに、すぐさまジャッジが返していた。
「……黒猫で思い出したけど、このゲームには二足歩行のネコがいるらしいんだよね。クロネコと茶猫だ。クロネコは手癖が悪くてプレイヤーからモノを盗むそうだが」
 さらりとタカが言う。
「それってやっぱりメラ……」
 ジャスティスの口をユウが塞いでそのあとは聞けずじまいだった。
「そのネコさんはどこにいるんですか?」
 カナリアとしては二足歩行のネコのほうが気になる。
「もう一つの大陸、ガナル大陸の奥地に住んでいるということだから、誰一人見たことがないと思うよ?」
 ガナル大陸という言葉を聞いて、ジャスティスたちがジャッジをじっと見た。
「……俺は見たことないぞ。それに俺の倉庫は奥地ではなく山頂にあるんだ」
「似たようなもんだろ」
 ここで初めてカナリアはジャッジの倉庫がガナル大陸にあることを知った。
「……いつか見てみたいです」
「……カナリア君、変なフラグは立てないでくれ」
 ディッチが苦笑しながら呟いた。

 また翌日から、ジャッジとカナリアは別々に動くことになる。

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