初心者がVRMMOをやります(仮)
クィーンとクリス その4
クリスは身内贔屓の運営会社に嫌気がさしていた。
せめて、最初からトールたちに妨害されないようにと、初心者の町やその次に立ち寄る町のギルドカウンターは、クリスが管理していた。
それでも、トールは己の立場を悪く使いだいぶ辞めていった惜しいプレイヤーが多すぎた。
限界だ。ならば、こんな運営潰してしまえ。
短慮ともいえたが、クリスはその下準備にはいった。
ジャッジがいる、それを利用するかと思っていた矢先、ジャッジは別のことにかかりきりになった。
仕方ない、他の方法を取るか。
珍しいものを作る職人を囲いたいと思うトールが動き、初心者の町へ襲撃をかけた。
クリスの逆鱗に触れるには十二分だった。
そのあとは、ひたすら下準備へと入る。
どこと手を結ぶとプレイヤーは楽しく遊べるか。大手では駄目だ。下地にある楽しさが消える可能性がある。
かといって零細企業では同じことが起きてしまうかもしれない。
そんなことを考えていると、セラフィムが考案した限定クエストをクリアした猛者がいるという情報が入った。
そこにジャッジがいたのは僥倖というものだろう。
それ以上に歓喜したのは、「禰宜田の女帝」が関わっていたことだ。禰宜田にいるルシフェルから情報が来ていない。つまりは「個人的に」楽しんでいるのかもしれない。
どうやって接触をする?
あの女帝はクリスと接触しようとしないのだ。
そして、女帝に連なる者、ジャッジのそばにいる者に接触できたのは、幸運といえた。
どうやら彼女のAIはクリスの思惑に気付いたらしい。女帝の言伝を持って己のところまでやって来た。「どうせなら、互いにやりあわないか」と。
見事に惨敗したわけだが。
それ以上に、あの少女にゲーム的知識がほとんどないことに驚きを隠せなかった。
そのあと、このゲームを楽しむためにクリスは女帝と一対一で対談に臨んだ。
勿論、ゲーム内と現実世界双方でだ。
クィーンはのらりくらりと言葉を交わす。言質をとらせないためだと分かっていても、クリスは苛立った。
「ほほほ。お主とあろうものが根をあげたか?」
その言葉が出たのは、対談を始めてどれ位時間が経過しただろうか。
「我がそれに加担するいわれはない。何も、我が保護している者ごとゲームから撤退すればいいだけのこと」
「では、何故今までそれをしなかった?」
「お主に敬意を表して」
「私に?」
「左様。ジャッジと会う機会などいくらでもあったであろう? 今までそれをしなかった。此度カナリアとコンタクトを取ったのは、ジャッジを怒らせるためであろう?」
こちらの手は読まれている。クリスの背中を嫌な汗が流れた。
「……何のことでしょう。私の姓をどんなカタチであっても名乗ってもらえて嬉しい限りですよ」
黙って煙管をふかすクィーンをクリスは黙って見ていた。
「お主たちがこのゲームから手を引けば、それで終わりかと思うがの」
「……私は創生主ではありませんので」
「おぬしの子供の一人か。……なりに愛着はあるのか?」
「もちろ……」
「では何故、このように事が大きくなるまで放っておいた? 放っておかなければ、今頃このゲームはもっとプレイヤーで溢れていたであろうの」
クィーンから放たれる言葉に、クリスは何も言えない。セラフィムが面白がって放っておいた。だからこうなっただけ。だったらこのゲームを捨てればいい。それも事実。
「お主らの意見がまとまったらルシフェルを通して我に連絡を寄越せ」
やはり知っていて泳がせていたか。それがクリスの率直な感想だった。
セラフィムたちとの話し合いによって、トールたちの排除は決定された。
そしてセラフィムはこのゲームから完全に手を引くと。
<私が作ったゲームですが、その方の言葉を借りるなら、このようにした私は運営から去るべきでしょう。別のゲームを作ります>
その時は、トールのような人間は真っ先に排除すると。
<私はそれすらも危ういと思うが。女帝と呼ばれラファエルを御しているだけはある>
<クリストファー様……>
<お前は暫くゲームは作るな。機械を作れ>
<……かしこまりました>
悔しそうにセラフィムが頷いた。
<その必要はない>
あらましを告げるために、二人でクィーンのところに向かった時に、そう宣言された。
<セラフィムは新たなるゲームを作らず今の状況をただ見ておればよい>
<しかし……>
なにかしら、けじめは必要だとクリスは思う。
<逃げは許さぬ。セラフィムよ、お主は大人しく見ておるがよい。お主がしでかしたことによりこのゲームを去った者たちが、どのような絶望を味わったのか。これからこのゲームに来る者たちが何を希望に始めるか。そして、その希望を誰が与えておるのか。己が眼で確かめるがよい>
<しかし、手を引けと……>
<左様。お主は今まで同様「見るだけ」じゃ。運営に圧力をかけることも、新たな運営と話をするのも、アップデートに関わるのも禁ずる。むろん、新たなゲームは作ってはならぬ。このゲームでただひたすらお主は見ておればよい>
それはセラフィムに対して屈辱といえよう。
プログラムを組める才能を持ちながら、一切触れさせない。ある意味クィーンらしい処罰といえた。
<出来うることなら、嫌がらせやいわれなきアカウント停止で辞めていった者たちに戻ってもらいたが、無理であろうの>
そして、噂というものはなくならないものだと。
<カナリアが早々に離脱を考えておったなら、我はこのようなふざけたゲームなどさっさと潰したかったのだがの>
<あの子供に感謝せよと?>
セラフィムが不服そうに言う。
<出来ぬものをせよとは言わぬ。感謝というものは強要されるものではないからの。カナリアはトールの思惑など無視して楽しんでおるわ>
あれだけ巻き込まれても、無視できるとは。
<もの作りのみ没頭しておるわ。どこぞの馬鹿共のように、他者から奪い取るなど考えておらぬ>
<……>
<正直な話、最初の頃は親の目を盗んで数多のものを作れることが嬉しかっただけかも知れぬがの。
ものの楽しみ方は人それぞれじゃ。我が強要できるものはない。じゃが、他者を踏みにじってまでやるのはどうなのであろうの。そして、それを見ぬ振りをしておったおぬしらに責がないとは言えまい>
煙管をふかすのがここまで様になる人物は、そういないだろう。
あらぬ方向に視線を向けたクィーンが、にやりと笑った。
「此度は我らとお主で新たな運営会社を設立。代表取締役はクリス、お主じゃ。サブにこちらから二人、そちらから一人つけよ」
「!!」
「めぼしき者はおるが、さて承諾してくれるかの」
ぼそりとクィーンが呟いていた。
せめて、最初からトールたちに妨害されないようにと、初心者の町やその次に立ち寄る町のギルドカウンターは、クリスが管理していた。
それでも、トールは己の立場を悪く使いだいぶ辞めていった惜しいプレイヤーが多すぎた。
限界だ。ならば、こんな運営潰してしまえ。
短慮ともいえたが、クリスはその下準備にはいった。
ジャッジがいる、それを利用するかと思っていた矢先、ジャッジは別のことにかかりきりになった。
仕方ない、他の方法を取るか。
珍しいものを作る職人を囲いたいと思うトールが動き、初心者の町へ襲撃をかけた。
クリスの逆鱗に触れるには十二分だった。
そのあとは、ひたすら下準備へと入る。
どこと手を結ぶとプレイヤーは楽しく遊べるか。大手では駄目だ。下地にある楽しさが消える可能性がある。
かといって零細企業では同じことが起きてしまうかもしれない。
そんなことを考えていると、セラフィムが考案した限定クエストをクリアした猛者がいるという情報が入った。
そこにジャッジがいたのは僥倖というものだろう。
それ以上に歓喜したのは、「禰宜田の女帝」が関わっていたことだ。禰宜田にいるルシフェルから情報が来ていない。つまりは「個人的に」楽しんでいるのかもしれない。
どうやって接触をする?
あの女帝はクリスと接触しようとしないのだ。
そして、女帝に連なる者、ジャッジのそばにいる者に接触できたのは、幸運といえた。
どうやら彼女のAIはクリスの思惑に気付いたらしい。女帝の言伝を持って己のところまでやって来た。「どうせなら、互いにやりあわないか」と。
見事に惨敗したわけだが。
それ以上に、あの少女にゲーム的知識がほとんどないことに驚きを隠せなかった。
そのあと、このゲームを楽しむためにクリスは女帝と一対一で対談に臨んだ。
勿論、ゲーム内と現実世界双方でだ。
クィーンはのらりくらりと言葉を交わす。言質をとらせないためだと分かっていても、クリスは苛立った。
「ほほほ。お主とあろうものが根をあげたか?」
その言葉が出たのは、対談を始めてどれ位時間が経過しただろうか。
「我がそれに加担するいわれはない。何も、我が保護している者ごとゲームから撤退すればいいだけのこと」
「では、何故今までそれをしなかった?」
「お主に敬意を表して」
「私に?」
「左様。ジャッジと会う機会などいくらでもあったであろう? 今までそれをしなかった。此度カナリアとコンタクトを取ったのは、ジャッジを怒らせるためであろう?」
こちらの手は読まれている。クリスの背中を嫌な汗が流れた。
「……何のことでしょう。私の姓をどんなカタチであっても名乗ってもらえて嬉しい限りですよ」
黙って煙管をふかすクィーンをクリスは黙って見ていた。
「お主たちがこのゲームから手を引けば、それで終わりかと思うがの」
「……私は創生主ではありませんので」
「おぬしの子供の一人か。……なりに愛着はあるのか?」
「もちろ……」
「では何故、このように事が大きくなるまで放っておいた? 放っておかなければ、今頃このゲームはもっとプレイヤーで溢れていたであろうの」
クィーンから放たれる言葉に、クリスは何も言えない。セラフィムが面白がって放っておいた。だからこうなっただけ。だったらこのゲームを捨てればいい。それも事実。
「お主らの意見がまとまったらルシフェルを通して我に連絡を寄越せ」
やはり知っていて泳がせていたか。それがクリスの率直な感想だった。
セラフィムたちとの話し合いによって、トールたちの排除は決定された。
そしてセラフィムはこのゲームから完全に手を引くと。
<私が作ったゲームですが、その方の言葉を借りるなら、このようにした私は運営から去るべきでしょう。別のゲームを作ります>
その時は、トールのような人間は真っ先に排除すると。
<私はそれすらも危ういと思うが。女帝と呼ばれラファエルを御しているだけはある>
<クリストファー様……>
<お前は暫くゲームは作るな。機械を作れ>
<……かしこまりました>
悔しそうにセラフィムが頷いた。
<その必要はない>
あらましを告げるために、二人でクィーンのところに向かった時に、そう宣言された。
<セラフィムは新たなるゲームを作らず今の状況をただ見ておればよい>
<しかし……>
なにかしら、けじめは必要だとクリスは思う。
<逃げは許さぬ。セラフィムよ、お主は大人しく見ておるがよい。お主がしでかしたことによりこのゲームを去った者たちが、どのような絶望を味わったのか。これからこのゲームに来る者たちが何を希望に始めるか。そして、その希望を誰が与えておるのか。己が眼で確かめるがよい>
<しかし、手を引けと……>
<左様。お主は今まで同様「見るだけ」じゃ。運営に圧力をかけることも、新たな運営と話をするのも、アップデートに関わるのも禁ずる。むろん、新たなゲームは作ってはならぬ。このゲームでただひたすらお主は見ておればよい>
それはセラフィムに対して屈辱といえよう。
プログラムを組める才能を持ちながら、一切触れさせない。ある意味クィーンらしい処罰といえた。
<出来うることなら、嫌がらせやいわれなきアカウント停止で辞めていった者たちに戻ってもらいたが、無理であろうの>
そして、噂というものはなくならないものだと。
<カナリアが早々に離脱を考えておったなら、我はこのようなふざけたゲームなどさっさと潰したかったのだがの>
<あの子供に感謝せよと?>
セラフィムが不服そうに言う。
<出来ぬものをせよとは言わぬ。感謝というものは強要されるものではないからの。カナリアはトールの思惑など無視して楽しんでおるわ>
あれだけ巻き込まれても、無視できるとは。
<もの作りのみ没頭しておるわ。どこぞの馬鹿共のように、他者から奪い取るなど考えておらぬ>
<……>
<正直な話、最初の頃は親の目を盗んで数多のものを作れることが嬉しかっただけかも知れぬがの。
ものの楽しみ方は人それぞれじゃ。我が強要できるものはない。じゃが、他者を踏みにじってまでやるのはどうなのであろうの。そして、それを見ぬ振りをしておったおぬしらに責がないとは言えまい>
煙管をふかすのがここまで様になる人物は、そういないだろう。
あらぬ方向に視線を向けたクィーンが、にやりと笑った。
「此度は我らとお主で新たな運営会社を設立。代表取締役はクリス、お主じゃ。サブにこちらから二人、そちらから一人つけよ」
「!!」
「めぼしき者はおるが、さて承諾してくれるかの」
ぼそりとクィーンが呟いていた。
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