初心者がVRMMOをやります(仮)
それぞれの感想
この対戦を最初から控え室で見ていた三人は全く別の感想を抱いていた。
「『リアライズ』に勝ってほしいわね」
「スカーレットさんもですか? 私もです。今まで『マゼンタ』や『深窓の宴』から嫌がらせを受けた方々もそう思っていらっしゃるようですけど」
「あ、あたしは別の意味。ネタ勝負をやりたいなって思っただけ」
あっけらかんとしてスカーレットが言う。
「どうせなら、ネタの打ち合わせをして戦いたい」
これはディスカスである。
「無理だな。敗退したギルド同士ならともかく、不正をさせないため会えない」
ディッチが呆れ顔で言う。実際先ほどジャスティスとジャッジがカナリアを守るために観客席に行ったが、それすらもきちんと申告し、承認されて監視がついた上で行くのだ。
出店に行く場合はもっと厳重である。変なやり取りをしていないかをしっかりと確認させられる。
対戦相手も二つ前にやっとわかるような、そんなシステムである。
不正をさせまいと必死になのだろう。
今までが不正のオンパレードだっただけに、いかに少ない不正で運営していくかが、ゲームと会社の存続に関わるのだ。
しかも「十二宮」と「七つの森」は運営会社が管轄するギルドとして大々的に発表され、イベントは仕切るものの、管理者としてしか関わらないと公言した。
その上で、すべてのプレイヤーと協力体制を築くと発表、それを実行に移している。
そのおかげで、ジャッジやユウにタカといった面々に文句を言う昔のやつらがこちらに来ない。クィーンにいわせると「クリスなりの気遣い」ということになるが、三人からしてみればどうでもいいことらしい。
そして、ユウやタカは己が関わったプログラムだと分かるとすぐに手を引いているのが分かるため、周囲からも評価は高い。
「お! 樽爆弾だ! やっぱいいわ! このギルド!!」
「パフォーマンスで賞があるなら、ぶっちぎりだろうな」
わいわいと話していると、ジャッジとジャスティスが戻ってきた。
「まだ勝負ついてないんだ」
「ついてない。ってかわざと『リアライズ』がやらかしてる感があるな」
ディッチが画面を見ながら言う。
おそらく、爆弾を一気に叩き込めば間違いなくそこまで時間がかからずに終わっただろう。あえて長引かせているのは、「マゼンタ」への嫌がらせだ。
別にあの猫装備はこの場面で使わなくてもよかったはずだし、あえて笑いを取るなら初戦で使ったほうがいい。
これはディッチの仮説だが、「リアライズ」はこの装備を「マゼンタ」か「深窓の宴」に使うつもりだったのだろう。
マゼンタはギルマスであるトールがレッドカードを食らい、復帰は不可能となった。その時点で、かなりの人数が抜け、その半数が「深窓の宴」に戻っている。
他はまたギルドを作ったり、ソロでやったりしているようだが、どうしても悪い噂が先行している。
そう考えてみると、「リアライズ」が狙いを決めたのは四チームとなる。四チームのどこかとは当たるだろう、そんな考えだったのかもしれない。
もしかすると、あの面子の誰かがかなりトールたちから妨害を受けていたのかも知れないと、ディッチは思った。
「兄貴、考えても意味なし。それくらいならあたしたちの試合にどんなネタを盛り込むか考えない?」
「止めとけ。あれだけのことをされてしまったら、何をやっても二番煎じだ。それくらいなら、次の試合を勝ち抜けて『リアライズ』と対戦できるようにしといたほうがいい。
その上でネタのぶつけ合い勝負をした方が楽しいぞ」
「……それもそうね。
それにしても、あの服可愛いわ。そのうちカナリアちゃん用に作ってもらお」
「却下。変な虫が寄ってくる」
「ジャッジ、心狭すぎ」
「じゃあ、あそこのバカップル何とかして。今すぐカナリアを連れてきたくなる」
「無理。ずっとあのままだもん。ユーリさんが恥ずかしがってないし、嫌がってないし」
ちなみに。
ユーリは現在ディッチの膝の上に座っている。勿論、後ろから抱きしめる形だ。
「そ……そんなに注目しないでください……」
消え入りそうな声でユーリが抗議しているが、ディッチは放すつもりはない。
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