初心者がVRMMOをやります(仮)
別ゲームにて<羞恥プレイ>
カナリアのチュートリアルが終わるまで、少しばかり時間がかかる。
その間に、イッセンに連絡を取ったら「今日は皆揃うか分かりません」と返ってきた。イッセンたちを驚かせたいために、カナリアが来ることを伝えていない。
チュートリアルが終わってから、出てくる場所は一箇所だ。その近くでジャッジはそわそわしながら待っていた。
「服装はともかく、外見は『TabTapS!』とほとんど変えるつもりありません。名前もそのままです」と元気よく笑ったカナリアは、かなり眩しかった。
とりあえず、チュートリアルを早めに終わらせるため、職業は「これを選ぶといい」というものをセレクトしておいた。
今までと同じように魔法が使えて、アクセサリーが後々作れそうなものを。
その場で待つこと一時間あまり。初期装備のタンクトップとホットパンツのままで、カナリアが出てきた。
「カナリア」
声をかけると、びくっと驚いていた。
「ジャ……ジャッジ……さん?」
「あぁ。こっちじゃ獣人を選んでいるからな」
種族、獣人。どこかしら獣の特徴をもった種族で、素早さが高いキャラクターだ。
「とりあえず服持ってきたから、着替えた方がいい」
「……そうします」
近くの宿屋に行き、部屋の前で待つ。中ではカナリアが着替えているはずだ。
「お待たせしました」
低LVプレイヤーでも装備できる装備だ。一応はMIND UPをメインとしたものを揃えた。
「そいういえば、職業は?」
「えっと、メインは魔法使いで、サブが薬師です」
「あれ? 裁縫師選ばなかったんだ」
「はい。どうせなら、アクセサリーを作れるようになりたかったんですけど……」
「うん。だとしたら尚更裁縫師だったな。裁縫師のLVを上げてくと『細工』というスキルが手に入る。それで作るんだ」
その言葉に、ショックを受けたような顔になっていた。
「ま、その域に行くまで、かなり時間はかかるけどな。その頃にはLVも二百越えしてるだろうし」
「え!? サブだけってあげれないんですか?」
「あげようと思えばあがるだろうけど、かなり難しい。LVによって手に入れられる素材や、加工方法がかなり限られる」
「お祖母ちゃんが『TabTapS!』を勧めてくれて助かりました」
「……俺も思った」
さすがにここまでショックを受けていると、そう思ってしまう。
「さて、ばあさんがやってる店に行くぞ」
「はいっ」
最初に会った頃には見れなかった、とびきりの笑顔で元気よくカナリアが返事をしてきた。
「ここが……」
喫茶店「安楽椅子」。
その看板を見たカナリアは、それしか言えなかった。祖父母がこのゲームを始めて間もなく作り、今ではジャッジをはじめベテラン勢から、カナリアのような初心者まで集う憩いの場。
「入るぞ。それから、ばあさんはおろか、イッセンたちにも言ってないからな」
言っていないのではなく、言えないが正解のような気もしてしまう。
一応、関わっている人たちに、ここに来ることを伝えている。
……が、なにゆえジャッジに抱きかかえられているのだろう。
確かに「TabTapS!」よりはプレイヤーが多い。それに気後れしたのは事実だ。
それに気付いたジャッジが手を繋いでくれた。そこまでは嬉しかった。
気がついたら、手を繋いでいたはずなのに、腰に手を回され、そしてまた気付いた時には抱きかかえられていた。
「……ジャッジ、お前いくらなんでも過保護すぎだろ」
呆れたようにジャッジの前から声がかかった。
「ジャス、悪い。扉開けてくれ」
「降ろせよ」
「降ろしたくない」
少しばかりそんな押し問答をしたあとに、ジャスティスが呆れて店の扉を開けた。
「ジャスティスさん、いらっしゃい!」
聞き覚えのある女性の声。思わず恥ずかしくなり、カナリアはジャッジの胸元に顔を埋めた。
「リリアーヌ久しぶりだな」
ジャスティスが苦笑したように言う。
「ジャッジさん、いっくんに変な連絡寄越したみたいですけど……」
「あぁ。ばあさんは?」
「さっき一旦ログアウトするって。今はあたしだけです」
その言葉に、祖母がいないことを知る。
「ほれ、カナリア」
挨拶するようにジャッジが促してくるが、本当に恥ずかしくて顔があげれない。
「……察してやれ、リリアーヌ」
「まさか……」
「そのまさかだ」
ジャスティスの楽しそうな声が聞こえた。
「こうしちゃいられない!! ごめん! 一回ログアウト!! いっくんとお祖母ちゃんに教えてくる! ジャッジさん、ジャスティスさん!! 帰さないでね!」
それだけ言うと慌てて出て行った。
「ふぇ」
客の視線が痛い。
ジャッジは気にすることなく、近くの椅子に座った。
コメント