初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

報告会


 それを聞いたディッチは頭を抱えた。これを正直にジャッジに言ってしまえば、怒りが神崎に向かう。間違いなく向かう。
「……元々あのクエストを組んだのは、高坂 嘉一という男だ。前運営会社の責任者にして、あのトールを放置した原因とでも言うべきかな?」
 静かにクリスが言う。
「私も神崎という男に概ね同意だね。ご飯をやってお終いでは、その場限りの解決策でしかない。それで称号を与えるという行為に理解が出来ないね」
 その件に関しては、クリスも苦言を呈していたという。
「で、今後のクエストとしては?」
「とりあえず解体して、皮と肉の納品に切り替わった。内臓系は好きにできるらしい。小人が加工した皮と肉は販売されるから、それでクエスト報酬を稼ごうという手段だってさ」
 イッセンがあっさりと言う。
「肉の買い付けはLittle ladyが行うのかな?」
「美……じゃなくって、カナリアはそのつもりだって。加工した肉は美味いから、この店でも出す予定してるらしいよ。その報酬に野菜と金、皮のほうは完全に買取する予定らしいよ」
 このクエスト報酬により、三人は鞄の容量が増えたという。
「増えたっていうよりも、倉庫と直結してるって感じかな? ほら、鞄って一部だけ倉庫と直結してるじゃん」
 イッセンの説明にディッチが食らいついた。
「確か、容量の五分の一だったかな? 倉庫にはその専用スペースがある」
「そう、それ。それがなくなって、倉庫と完全直結。とどのつまり、鞄と繋ぐ専用スペースがないから、そこに食材とかポーションとか入れておけば大抵事足りるって感じかな?」
「なるほど。とするなら、武器の変更も楽になるな。どうせならカナリア君じゃなく、ジャッジに行って欲しかったよ」
「ジャッジさんそんなに武器替えるの?」
「しょっちゅう替える。剣にしてみたり、銃器にしてみたり」
「へぇぇぇ。クロスボウじゃないんだ」
「クロスボウは初期以外で使うやつがいなくなってるな。ディスもそうだが、何人か銃器を作ってる」
 それを聞いたイッセンは目を丸くした。
「おもしろそー。あっちじゃ銃器は持てないし」

 そこで一度会話は止まった。
「ってかさ、このゲームって飯がヘイト値高いの?」
 イッセンの言葉に、クィーン以外が動きを止めた。

「どういう意味だい?」
 クリスすら驚いている。
「オークゴブリン限定なのかな。いやさ、飯食おうとしたらオークゴブリンが釣れた」
「釣れたって……」
 絶句するしかない、というのはこういう事なのだろう。
「俺ら何回もやってるが、釣れた試しはないかな。ぐうぜ……」
「落としたサンドイッチの時はそう思ったけどさ。逃げの手段に何回も飯使ったし、それ以上にりりが投げたスコーンに食らいついた瞬間、俺自分の目を疑ったよ」
「……あぁ、うん。聞いた俺も想像できない」
 イッセンから語られる事実に、ディッチはそれしか言えない。
「別のクエストでさ、露店安売りの飯買ったけどそん時はそういうことなかった。今回初めてなんだよね」
「ちょいと、イッセン君や」
「ディッチさん、何でしょう」
「今回の飯はセバス製ではないかね」
「ばっちりセバスさん製だけど。クエスト行く前にカナリアが手渡されてたし」
 そこまで規格外の飯になったか! この間まではやたらステータスとHPへの付加が多い飯だったが。
 そのうち討伐用に毒入り飯でも作ってもらうか。そんなことを言っていたのはジャッジだった気がする。それに対してセバスチャンは「食べれない食事を作る気はございません」ときっぱり言っていた。

「……普通の飯はそういうのないぞ。おそらくセバスが作ったやつだけ」
「りょーかいです。ってかAIがあそこまで器用なのも驚きなんですが」
「それもセバスだけ」
「彼は自立思考型だからね。よりヒトに近い」
 さらりとクリスが言う。
「プレイヤーのサポートAIが自立思考型になるのは、天文学的数字になるはずなんだがね」
「それに関して俺らの中で、カナリア君はゲーム的思考回路を持っていないからだって、結論付けてますが」
 その言葉に、イッセンが納得していた。

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