老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

277話 いつものやりすぎ

 リッポンの街で一晩を久しぶりにゆっくりと過ごすことが出来た白狼隊。
 ゆったりと早朝のトレーニングをこなしシャワーを浴びて、宿の美味しい朝食を頂く。

「あー、もうずっとこうやって過ごしたい……」

「師匠……気持ちはわかりますが一応世界を救う的な旅なんですよね?」

「そうなんだよね……まずはやらなきゃいけないことをやらないと……」

「でも、こういう旅らしい旅は素敵ですよねー。食事も美味しいし」

「取り敢えず馬の手配をして馬車でも作るかなぁ今日は……」

「師匠と僕で作ればお昼前には出来ますね!」

「ワン!!」

「え? 馬じゃなくてタロが引く? 楽しかった?
 確かにそうすると一番信頼できるけど……いいの?」

「アウン!」

 尻尾をブンブンと振りながらくるりとその場を一周する。

「よし、じゃぁタロ用馬車を張り切って作るか!」

「そしたらデザインはー……」

 ワイワイと馬車案が挙げられていく。
 楽しかった。
 そう、楽しかった、こういうのんびりした時間、皆で意見を出し合いながら物づくりをすることが……

「……やりすぎたね……」

「はい、師匠。やりすぎました」

 目の前に出来上がった現在のユキムラ達の素材をふんだんに使って最先端の技術を詰め込んだ戦略兵器、タロが引くから犬車が出来上がった。
 外部装甲は神代鉱石の合金。女神の盾を利用した防御能力はまさに動く城郭。
 攻撃手段も豊富に揃えており、来るべき魔王軍、魔神軍、そして魔人との戦いでも強力な兵器となるだろう。
 操作はGUでも可能だ。
 GUと組ませれば戦時における拠点防衛などの任務にも耐えるだろう。
 白狼隊であってもGUとタロ号(名付けはソーカ)の防御を突破するのは骨が折れる事は間違いない。
 内部空間は収納式の寝室が天井に通常時は収納されており、天井部分が上の方向に伸びて空間が出来る。
 同じように前後左右に拠点モードでは広がり、普通の大型馬車ぐらいの車状態から3LDKくらいの居住空間へと拡張することが可能だ。
 もちろん必要な設備は最新鋭の魔道具で揃えてある。

「が、外観だけは偽装して普通の馬車ぽくしておこう……」

「そうね……」

 外装もヴァリィがこだわり抜いて作っていたが、王都でも見ないような見事な装飾の馬車が走っていたら目立って仕方がない。
 フォルムチェンジ機能で地味な馬車へと外観だけは交換しておく。

「アンアン!!」

 タロが嬉しそうにタロ号を引いている。
 タロへの負担は殆ど無い。各車輪に自走機能がついている。
 タロはマスコット的な何かの役割を担っている。
 タロは本気を出すとマッハの世界に入っていくが、本気で走ってもちゃんとついていく。
 乗っている人間はとんでもない疾さで景色は飛んでいくが、まるでスイートルームにいるかのような最高の時間が過ごせるだろう。
 急ブレーキしても慣性さえ魔道具でコントロールしているので問題がない。

「そしたら、お昼ごはんいただいたらウーノの街へ向かおう!」

「おーー」

 絶品のオムライスとふかふかのパンに大満足した一行は、おニューのタロ号でウーノへの道を進む。

「必ずウーノの街で報奨金は届けます!」

 オリザス達一行に熱烈に送迎されリッポンの村から出発する。

 聖地巡礼の道程ではあるが、正直あまり整備されてるとは言えない道だ。
 ケラリスと言う国はヒトデの足のような先に街があり、中央が聖都ケラリス。
 各足の先へと向かう場所はまるで試練のように、深い森であったり、山岳地帯であったり、大きな道を整備して引くことが難しい地形になっている。
 それらが修行としての一面もあるので、ユキムラたちも無粋なことは考えていない。
 悪路であろうが魔物が出ようが白狼隊には関係ないのである。
 貴族向けの巡礼に海路を取る豪華客船もあったりする。そういった商売を邪魔するわけにも行かない。

 リッポンから出てしばらく疾走ると森林地帯になる。
 小さな山尾が連続しており、上下のある過酷な道が続く。
 森というのは野生の動物や場合によっては魔物、魔獣などもいるので結構危険が多い。
 起伏の激しい道を、しかも森の中。
 これは普通の巡礼者には厳しい旅路となる。

「巡礼の集団は結構多いんだね……」

「荷物運びの馬と護衛、それに巡礼者ってのが基本的な巡礼スタイルだそうですよ。
 もう少しお金が出せれば乗合馬車ですね」

「オリザスさん達みたいな方法ですね」

「徒歩による方法が一番信仰を示せると考える人たちも根強いらしいわよー」

「一応近いところに敵性勢力はなさそうだけど、森は結構深いよね」

 採取系ポイントもいくつかあって何箇所か試食してみたが、目立ったものは手に入らなかった。
 本来はタロに飛ばしてもらっても良かったが、巡礼者団体が思ったよりも多く、目立つことは避けて常識的な馬車の速度で進行している。
 そのせいで森林地帯内で野宿をする必要性が出てくる。
 そういった宿は街道のところどころに整備された休憩所のようなエリアで取るのが通例になっている。
 水場が近い一帯の木を切り出して柵を打って囲んでいる。
 簡易的ではあるが、人が来て周囲に火をかざせば森林の闇よりは安心感が得られる。

「うーん、今日は拡張しないで寝ないとだねぇ……」

「ま、旅はこんなもんですよ!」

「そしたら外に普通のテント張りましょうよユキムラさん!」

「キャンプ気分なんだから~、じゃぁ火を起こしておくわね~」

「なんだよ、ヴァリィもノリノリじゃないか!」

 日が傾くと近くの休憩所で野営の準備をする。
 先客の巡礼者やあとからも巡礼者は来るのであの可変型馬車を展開するわけには行かない。
 屋外キャンプの準備だ。
 彼らにとってはこういう当たり前のことが逆に楽しい。

 もちろんこっそりと周囲に魔除けの魔道具は設置して安全の確保は忘れない。

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