老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

257話 家が建った

 ユキムラは充実した気持ちで腰を落ち着けた。
 庭園に作った東屋に今はいる。
 目の前に広がる計算され尽くした日本風庭園。
 池と各種木々や花々が完全に調和し、その向こうに佇む建物と一つの絵画のような風景を作り上げた。
 池を渡る橋から振り返れば、外部からの視線はきちんと緑によって遮られ、それでいて圧迫感は感じない。
 建物部分は純和風な外観だ。
 もちろん、ただの漆喰と木造ではない、すべての素材はこんなものを建材にしていいのだろうか? と誰しもが考えるものを何の遠慮もなく投入している。
 各設備も、現状でユキムラの考えつく最高の物を用いている。
 四方を壁で塞がれたこの空間だけは、この世界の建造物とは別次元のとんでもない代物になっている。

「し、師匠……これ1日で作ったんですか?」

 途中差し入れを持ってきたレンも驚愕していた。
 手に入れた土地には以前の建造物も残っていたし、流石にもう少し時間がかかるだろうと予想していた。
 実際にはほぼ1日で『地上部分』の敷設が完了している。

「上は『普通』の居住区だからねぇ、『下』はまだまだこれからだよぉ」

 差し入れのおにぎりを美味しそうに頬張るユキムラ。
 普通呼ばわりされたが、普通な訳がない。

「食堂も広いですねー。会議室もあるし、拠点としてこれでも十分ですね」

「露天風呂もあるよー、庭の情景を眺めながらお酒飲んだりも出来るようにいろんな工夫しているから」

「さすが師匠、お風呂と食に妥協はありませんね」

 レンの言葉にユキムラ満面の笑みである。

「ここの土蔵から地下部分へ行けるようにしたんだよ。
 もちろん俺達と認証を受けた人以外は奥の門は開かないから地下へは行けない様になってるよ」

 土蔵の中は普通に物を収容する働きも備えている。
 据えた土の匂いがどこか落ち着いた気持ちにさせてくれる。
 その奥に普段は壁と同化している扉がある。転移門だ。

「ここに触れるんですか? あっ! この仕組組み込んだんですね! かっこいい!」

 レンが壁の中央に手を当てると光が四方に走り門の形を浮き彫りにさせる。
 そして封印が解けるかのように門が開いていく。
 そこには地下へとつながるエレベーターになっているという寸法だ。

「地下は15階層取り敢えず作ってあるけど……」

「は……? 今、師匠なんて……?」

「あ、やっぱ少ないかな? でも拡張もすぐだから……」

「逆ですよ! 15階層ってなんですか!?」

「いやいや、作業場作ったり作戦室作ったり、秘密基地作ろうとしたらまだまだ足りないよ!」

 レンは喉まで子供かっ!? と出かかったのを飲み込むことが出来た。
 レンは優しい弟子なのだ。
 ニコニコと楽しそうなユキムラと一緒に工房エリアの設営を手伝ってあげるのでありました。

 工房をいくつか作って宝物庫的な場所に生活空間もちろん地下空間のごく一部でしかないが、十分に拠点の機能を発揮できるように作り上げる。
 レクリエーション設備も用意して地下体育館兼遊戯室みたいな部屋もある。
 トレーニングルームや工房は白狼隊の隊員も利用できるような形にする。
 ユキムラ達だけが利用できる空間と隊員たちなら使える場所、そして誰でもOkな空間を作り、出入りの管理にドックタグのような物を作ろうと考えている。
 いずれはサナダ街なども同じようなシステムを導入したいと考えているので、ここはテストケースにするつもりだ。

「龍の巣への道がそろそろ完成するから、数ヶ月人材育成して、それから攻略って流れになりそうだね」

「そう言えばさっきソーカねーちゃんから監視に来ていた龍に力を見せておいたって連絡が来ましたね」

「フィールドにいる龍なんてたかが知れているからね、相手は生きた心地はしなかったろうね。
 素材も大したものでないから無益な殺生しないでくれて良かったよ」

「ダンジョン内のアイテムは期待できるんですか?」

「そうだね、このレベルの龍素材なら今の装備に利用すればかなり強力なものになるよ。
 やっぱりドラゴンや龍って特別なんだよね」

「基本龍の素材混ぜると数段階上の性能になりますよね」

「上位武器への変換も大抵龍素材求められるし、大事にされてるんだよ神様から」

「かっこいいですもんね!」

「それね、そう言えば陰陽術の札とか制作間に合っている?」

「ええ、時間を見つけては作っています。
 使う時は派手に使うので使い所は難しいかもしれないですねー。師匠は手を出さないのですか?」

「いやー、たのしそうなんだけど、組み込むのが難しくてね。
 俺は今のスタイルに慣れすぎてるから……
 札作るの手が空いていれば手伝うから気軽に言ってね」

「ありがとうございます。式神の呪符と各種属性札はいくつあってもいいので、もしよければ暇な時にお願いします」

「拠点づくりも一段落したし、今日夜ご飯の後に工房で待ち合わせしようか?」

「お願いします!」

 久しぶりのユキムラとレンの二人のゆったりとした時間。
 高速で産出されていく札の山の横で、楽しそうに語り合う二人。
 ユキムラもレンの陰陽術の使う状況の話しなどを聞いて、それも踏まえた立ち回りを考えていく必要がある。
 もちろんそういう真面目な話じゃない何でもない話もする。
 レンにとって大好きな師匠と久しぶりにゆっくりと話せた、そんな幸せな夜だった。

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