老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件
235話 鬼王
乾闥婆、毘舎闍、鳩槃荼、薛茘多、那伽、富單那、素戔嗚。
皆、羅刹に勝るとも劣らぬ兵ぞろいだった。
しかし、所詮は一個体。
集団としての白狼隊は徹底してしっかりとした仕事をこなせば、堅実に勝利を重ねることは難しくなかった。
羅刹の言った通り、この8匹の鬼が万が一、パーティでも組んだら恐ろしいことになる。
「このダンジョン、ボスが多すぎませんか師匠……」
緊張感満載な戦闘の連続で、皆の疲労もピークを迎えている。
超えても超えても次の門があり、変わらない風景に強力なボス。
ユキムラでも少ししんどくなるほどだ。
「ボスラッシュって呼ばれる奴だね、実際に自分が戦うとしんどいね……」
VOでも回復材と重量の問題でかなり戦略を練らないとクリアできない高難易度MDが多い。
戦闘に参加せず皆の補給物資を運ぶパーティメンバーを用意することもあった。
得られる報酬も多いが、非常に長時間拘束されるために人気は低い、ただ、パーティ戦闘用のエンドコンテンツ的に利用される場所が多かった。
もちろんユキムラはほぼ全てのボスラッシュMDをソロクリアしている。
物理的に人数制限があるMDは無理だが、PTでのクリアは当然している。
「でも苦労した分みんな強くなってるよね。まぁ九と朧は見違えたけど……」
九は稲荷大明神、朧は火雷天神。
二人とも神様になっている。
「我等の開祖と言われる方々のお姿になると、身が引き締まります」
「里へ帰ったら眩しいとかいじめられないか心配になりまする……」
「まぁ、神様といっても全知全能ってわけじゃなくて、非常に強いってだけだからね。
中身も一緒だし……」
相変わらずレンは九に悩まされているし、朧はソーカに頭が上がらない。
「ははは、まぁ八部鬼衆も倒したし。これで親玉のはずだよ」
「やっと城ね……こっからも長いのかしら……」
「確か城はボスだけのはずだから、最後の休憩をしっかりとって万全の状態で進もう」
久しぶりに自らを追い込み気味の戦闘に、ユキムラは疲労を感じていたが、同時に研ぎ澄まされていくのも感じていた。
ギラギラとVOをプレイした時代を思い出させられるような思いだった。
どうしても長年プレイを続けていくと、作業感のようなものは否めない。
無駄を省き、効率を追い求める。そういう工夫はもちろん重ねていたが、プレイヤースキルを必死になって求めていたのは対人に燃えていたころだった。
あとは操作方法を自分のものにするために没頭していたころだったなぁ……
ユキムラは明日の戦いを思い浮かべながら布団をかぶり、なんとなく過去のことを思い出していた。
「でも、こうやって仲間と激戦を潜り抜けるなんて……想像もできなかったなぁ……」
目頭が熱くなることを感じたユキムラは布団を頭までかぶって、明日の激戦のために無理やり眠りにつく……
「うおっ! みんな早いね!」
普段の起きる時間よりも早く目が覚めてしまったユキムラは軽く体を動かすために外に出た。
するとすでにソーカは素振りをして、すぐにレン、ヴァリィ、九に朧と全員が早朝から活動を始めていた。
「今までのボスの親玉ってことで、緊張してしまって……」
「眠れはしたんですが、妙に頭がさえてしまって……」
みんな似たようなものだった。
今までのボス戦、安定していたし、危なげもないと言っていい戦闘だったが、一瞬でも気を抜けば容易にひっくり返る可能性を秘めていた。
その全てを根底で支えていたのはユキムラだ。
あまりに巨大な大黒柱が存在するせいで、みんな自分自身に不安を持ってしまったのだ。
「勘違いしないでね。俺が全力で戦えるのはみんながいるからだから。
俺がいるから勝てたわけじゃない、むしろみんながいなければあんな戦い方はできないよ。
もっともっと安全域をとってそれこそ日をまたぐような長期戦になっていただろうし、そうなってたらとてもじゃないけどここまではたどり着いていないよ。
みんな自信を持っていいよ。大丈夫、俺たちは一つのパーティになってるよ」
ユキムラにしては結構臭いことを言っている。
過去の熱かったころを思い出した影響だろう。
事実、みんなは少し感動した面持ちでユキムラの言葉を噛みしめているが、言い終わったユキムラは耳まで真っ赤にして照れている。
ユキムラの思案はともかく、皆最高の発破をかけてもらった。
皆の顔つきさえ変わったように見えた。
きちんと朝食も取り、万全の態勢で城門に手をかける。
「それじゃ、行きますか!」
「はい!」「はい!」「はーい!」「ワン!」「応!」「はいな~!」
開かれた扉から城内へと侵入すると、まっすぐな板張りの廊下が正面の襖まで続く。
襖を勢いよく開くと畳の間、さらに襖が続く。
襖には物語が描かれている。
鬼が人にやられる昔話のようだ。
次から次へと襖をあけて奥に進むと、だんだんとおどろおどろしい物語に代わる。
地獄の物語のようだ。
8個の地獄、どんどんと深くなっていく。
「阿鼻叫喚……みんな気を付けて、たぶんこの次だ……」
ユキムラの言葉通り、最後の襖を開くと城の中のはずだったが、丸石が敷き詰められた河原になっていた。
「賽の河原ってことか……」
【よくぞここまで来たな……】
頭に直接届くかのような低い恐ろしい声が響く。
「夜叉姫を返してもらいに来た、姿を見せろ!」
朧の声がこだまする。
【返してほしくば、我を倒すのだな!】
ごうっ、と突風が吹き小型の竜巻を作る。
その竜巻に雷が降り注ぎ、炎をあげる。
炎が燃え上がり、人型を作り上げる。
全身は炎のような深紅、白目まで漆黒の瞳、巨大な牙、金色の髪が風を受けてたなびいている。
体躯は巨大で4mほどはある。
腕は4本、金属のリングのような武器と巨大なこん棒をもち、筋骨隆々の身体が大地に降りるとどーーーんと鈍い振動があたりに響く。
【我が名は鬼の王、鬼王! 全ての鬼の頂点に立つ者だ。
夜叉は我が預かっておる! 我が決めればそれは何人にも覆せぬ。
それを覆すなら、力だ、力を示してみよ!
今までのものと同じと思うなよ?
体を動かすのは久しぶりだが、準備運動ぐらいにはして見せよ】
「なんというか、わかりやすいラスボスだね」
ユキムラは鬼王の異形を見ても怯む事無く平常心だ。
今の言葉だけでも白狼隊のメンバーは心強く冷静でいられる。
「行くぞ!!」
皆、羅刹に勝るとも劣らぬ兵ぞろいだった。
しかし、所詮は一個体。
集団としての白狼隊は徹底してしっかりとした仕事をこなせば、堅実に勝利を重ねることは難しくなかった。
羅刹の言った通り、この8匹の鬼が万が一、パーティでも組んだら恐ろしいことになる。
「このダンジョン、ボスが多すぎませんか師匠……」
緊張感満載な戦闘の連続で、皆の疲労もピークを迎えている。
超えても超えても次の門があり、変わらない風景に強力なボス。
ユキムラでも少ししんどくなるほどだ。
「ボスラッシュって呼ばれる奴だね、実際に自分が戦うとしんどいね……」
VOでも回復材と重量の問題でかなり戦略を練らないとクリアできない高難易度MDが多い。
戦闘に参加せず皆の補給物資を運ぶパーティメンバーを用意することもあった。
得られる報酬も多いが、非常に長時間拘束されるために人気は低い、ただ、パーティ戦闘用のエンドコンテンツ的に利用される場所が多かった。
もちろんユキムラはほぼ全てのボスラッシュMDをソロクリアしている。
物理的に人数制限があるMDは無理だが、PTでのクリアは当然している。
「でも苦労した分みんな強くなってるよね。まぁ九と朧は見違えたけど……」
九は稲荷大明神、朧は火雷天神。
二人とも神様になっている。
「我等の開祖と言われる方々のお姿になると、身が引き締まります」
「里へ帰ったら眩しいとかいじめられないか心配になりまする……」
「まぁ、神様といっても全知全能ってわけじゃなくて、非常に強いってだけだからね。
中身も一緒だし……」
相変わらずレンは九に悩まされているし、朧はソーカに頭が上がらない。
「ははは、まぁ八部鬼衆も倒したし。これで親玉のはずだよ」
「やっと城ね……こっからも長いのかしら……」
「確か城はボスだけのはずだから、最後の休憩をしっかりとって万全の状態で進もう」
久しぶりに自らを追い込み気味の戦闘に、ユキムラは疲労を感じていたが、同時に研ぎ澄まされていくのも感じていた。
ギラギラとVOをプレイした時代を思い出させられるような思いだった。
どうしても長年プレイを続けていくと、作業感のようなものは否めない。
無駄を省き、効率を追い求める。そういう工夫はもちろん重ねていたが、プレイヤースキルを必死になって求めていたのは対人に燃えていたころだった。
あとは操作方法を自分のものにするために没頭していたころだったなぁ……
ユキムラは明日の戦いを思い浮かべながら布団をかぶり、なんとなく過去のことを思い出していた。
「でも、こうやって仲間と激戦を潜り抜けるなんて……想像もできなかったなぁ……」
目頭が熱くなることを感じたユキムラは布団を頭までかぶって、明日の激戦のために無理やり眠りにつく……
「うおっ! みんな早いね!」
普段の起きる時間よりも早く目が覚めてしまったユキムラは軽く体を動かすために外に出た。
するとすでにソーカは素振りをして、すぐにレン、ヴァリィ、九に朧と全員が早朝から活動を始めていた。
「今までのボスの親玉ってことで、緊張してしまって……」
「眠れはしたんですが、妙に頭がさえてしまって……」
みんな似たようなものだった。
今までのボス戦、安定していたし、危なげもないと言っていい戦闘だったが、一瞬でも気を抜けば容易にひっくり返る可能性を秘めていた。
その全てを根底で支えていたのはユキムラだ。
あまりに巨大な大黒柱が存在するせいで、みんな自分自身に不安を持ってしまったのだ。
「勘違いしないでね。俺が全力で戦えるのはみんながいるからだから。
俺がいるから勝てたわけじゃない、むしろみんながいなければあんな戦い方はできないよ。
もっともっと安全域をとってそれこそ日をまたぐような長期戦になっていただろうし、そうなってたらとてもじゃないけどここまではたどり着いていないよ。
みんな自信を持っていいよ。大丈夫、俺たちは一つのパーティになってるよ」
ユキムラにしては結構臭いことを言っている。
過去の熱かったころを思い出した影響だろう。
事実、みんなは少し感動した面持ちでユキムラの言葉を噛みしめているが、言い終わったユキムラは耳まで真っ赤にして照れている。
ユキムラの思案はともかく、皆最高の発破をかけてもらった。
皆の顔つきさえ変わったように見えた。
きちんと朝食も取り、万全の態勢で城門に手をかける。
「それじゃ、行きますか!」
「はい!」「はい!」「はーい!」「ワン!」「応!」「はいな~!」
開かれた扉から城内へと侵入すると、まっすぐな板張りの廊下が正面の襖まで続く。
襖を勢いよく開くと畳の間、さらに襖が続く。
襖には物語が描かれている。
鬼が人にやられる昔話のようだ。
次から次へと襖をあけて奥に進むと、だんだんとおどろおどろしい物語に代わる。
地獄の物語のようだ。
8個の地獄、どんどんと深くなっていく。
「阿鼻叫喚……みんな気を付けて、たぶんこの次だ……」
ユキムラの言葉通り、最後の襖を開くと城の中のはずだったが、丸石が敷き詰められた河原になっていた。
「賽の河原ってことか……」
【よくぞここまで来たな……】
頭に直接届くかのような低い恐ろしい声が響く。
「夜叉姫を返してもらいに来た、姿を見せろ!」
朧の声がこだまする。
【返してほしくば、我を倒すのだな!】
ごうっ、と突風が吹き小型の竜巻を作る。
その竜巻に雷が降り注ぎ、炎をあげる。
炎が燃え上がり、人型を作り上げる。
全身は炎のような深紅、白目まで漆黒の瞳、巨大な牙、金色の髪が風を受けてたなびいている。
体躯は巨大で4mほどはある。
腕は4本、金属のリングのような武器と巨大なこん棒をもち、筋骨隆々の身体が大地に降りるとどーーーんと鈍い振動があたりに響く。
【我が名は鬼の王、鬼王! 全ての鬼の頂点に立つ者だ。
夜叉は我が預かっておる! 我が決めればそれは何人にも覆せぬ。
それを覆すなら、力だ、力を示してみよ!
今までのものと同じと思うなよ?
体を動かすのは久しぶりだが、準備運動ぐらいにはして見せよ】
「なんというか、わかりやすいラスボスだね」
ユキムラは鬼王の異形を見ても怯む事無く平常心だ。
今の言葉だけでも白狼隊のメンバーは心強く冷静でいられる。
「行くぞ!!」
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