老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

215話 男はいつまでも男の子

 どれほどの時間戦っていただろうか、強力にして強靭な龍。
 そのなかでも最強の矛をもつ炎龍。
 吐く息は岩をも溶かし、振るう爪は鉄を引き裂く、叩きつけた尾は大地を割る。
 巨体をして鈍重ならず、地を蹴り身体をぶつけてくる。
 世界を何度か滅ぼすほどの強靭な龍も今、地に伏した。

 白狼隊とアスリによる絶え間ない攻撃の嵐に晒され続けた炎龍は、その力尽きるまで暴れに暴れに暴れて息絶えた。
 さすがの白狼隊もボロボロだ。
 付きかけたMPはポーションを流し込み、スタミナさえもポーションを飲めばもうひと踏ん張りできる。
 流石に途中からアスリは絶対結界に退避していた。
 鎧の効果もあって少し休むと身体は万全に戻ったが、心がついていかなかった。
 とてもついていけない世界の戦闘なのだから。

「あー……これ腕部分作り直しだな……コア部分まで壊れてるよ……」

 幾度となく大技を叩き込み、その衝撃に晒され続けた籠手は魔力が付きて自動修復も働かないまでにぼろぼろになっている。

「ユキムラちゃん私の棍ももうだめみたい、自己再生されなくなっちゃった」

 爪を防ぎ、尾を止め、腹を打ち牙を砕いたヴァリィの棍も ノ の時に歪んでしまっている。

「師匠、ローブ3枚駄目にしました」

 魔法発動時に攻撃を受けるリスクが高いレンは何度か攻撃がかすめており、一番被弾が多かった。
 機能維持できなくなった装備を交換に次ぐ交換をしながら戦線を維持していた。

「ユキムラさん、タロちゃんの爪武具も、もう駄目っぽいです」

 タロも龍戦で張り切って大暴れしたのである意味一番ボロボロ、泥だらけの煤だらけだ。

「ソーカは凄いね、だいぶ魔力落ちてるけど、まだまだ使えそうだね」

 ソーカはユキムラと同じくほぼ被弾なし、さらに攻撃もキレが大事なので武具への負担は少ない。

「ユキムラさんだって腕の故障は被弾じゃなくて反動じゃないですか」

 戦闘が終わったばかりだと言うのに各自自分たちの装備を当たり前のように確認している。
 アスリからすれば傾国レベルの装備が当たり前のように目の前で修復されていく光景は異常でしかなかった。
 あっという間に鍛冶場になってそしてあっという間に新品同様の姿に変化する武具。
 もう彼の頭は受け入れられる変化量の許容を遥かにオーバーしてしまっていた。

 炎龍はソーカが緊張しながら解体を行うことになっていた。
 緊張しながらも瞳の中に『肉』という文字が見えるほど集中したソーカによって無事にドラゴン肉も入手出来た。もしかしたら、白狼隊が一番喜んだのはこの時だったのかもしれない。
 その後、タロは龍玉を嬉しそうに取り込んでいた。
 一瞬タロが炎に包まれたのでびっくりしたが、すぐにもとに戻ったので安心だ。

 激戦のダメージを修復して一休みをした白狼隊は柱と石像が並ぶ扉への道を進む。
 石像の一つ一つが精巧な作り込みをされており、純白と言っていい真っ白な石材で作られている。
 これ一つでも芸術的な価値は素晴らしいものになるだろう。
 女神を象ったものや騎士を象ったもの、聖獣達、様々なモチーフでそのすべての作品が素晴らしい。

「見事じゃな……」

「ほんとに素敵だわぁ……火山にいるのを忘れるほどの荘厳な雰囲気、素晴らしいわ」

 アスリとヴァリィはため息混じりにゆっくりと像を楽しみながら進んでいる。

「ん? タロどうしたの?」

 先行していたタロが一つの石像の前で座っている。

「あ……この像少しタロのお母さんに似ていますね……」

「ああ……ほんとだ。……サナダ街へ帰れたら一緒にお墓参り行こうなタロ!」

「わうん!」

「全ての動物の神、フェンリルンの像って書かれてますね。タロは神様の子供なのかなー?」

 ソーカがタロをわしゃわしゃと撫で回している。

「でも龍の力を取り込めるなんて只者じゃないのは確かだよねー」

「そうですねー、流石タロです」

 問題はそこじゃないと思う。そう思うのはアスリだけだ。

 近くに来ると扉は巨大だった。
 山肌をくり抜くように作られた巨大な扉。
 絵巻物の様に神話が描かれる装飾がされている。
 ユキムラが軽く扉に触れるとゴゴゴゴゴゴと地面を震わすような音を立てながら扉が開いていく。
 山の内部をくり抜いて作られた通路。
 ユキムラ好みの赤く脈動する淡い光が、術式のようにドーム状に通路に描かれている。

「うお! 何これかっこいい!!」

 案の定ユキムラは大興奮だ。
 触れても熱くないことを確かめると熱心にいじって研究している。
 通路の奥へ向かって光が流れていって、異世界への入り口のような雰囲気を作っている。

「うおー、ストライクだここ。最高にかっこいい!」

 ユキムラのはしゃぎっぷりにレンも少し引いているが、師匠が喜ぶことは積極的に学んでいく弟子の鑑である。同じように分析をして再現するためのシステムを考えている。
 まぁ光らせるだけなら既に可能なんだが、色々と雰囲気やパターンを再現するのに二人で四苦八苦していた。 
 その通路の突き当りには黒い壁がある行き止まりだった。

「あれ? 脇道なかったよね?」

「はい師匠。一本道でしたよ」

 そっとユキムラが壁に触れると触れた場所から壁に波紋のように光が広がり音もなく静かに左右へ開く。

「うおー! 今のかっこいい! 閉まって! もう一回!!」

 まるで子供のようにはしゃぐユキムラ。
 流石にレンも呆れ顔だが、残念ながらユキムラがいくら頼んでも壁がもとに戻ることはなかった。






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