老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

205話 海の守護者

 海底洞窟ダンジョン最下層100階。
 今までのゴツゴツとした岩肌から神殿のような荘厳な雰囲気の作りに変化する。

「海底にいることを忘れてしまいますね……」

「これは……色々と刺激されますね……」

 ガニとイオラナはそれぞれ感動の言葉を述べる。
 どこまでも続くような高い天井に向かって、輝いているようにも見えるほど磨き上げられた柱が伸びている。
 床は一枚一枚が複雑な濃淡模様が美しい大理石のような濃碧なタイルが敷き詰められている。
 真っ白な石像が左右に並んでおり、その一つ一つが繊細な細工を加えられていながら巨大で迫力がある。
 床全体が魔力による淡い輝きを放っている。
 壁面の水の流れに、その光が写り幻想的な雰囲気作りに一役を買っている。

「静かですね……」

 レンのそのつぶやきでさえ神殿内に響き渡って、布の擦れ合う音でさえもこの場には異物であるかのように響き渡る。
 敵の気配ももちろんなく、その美しい神殿を注意深く進んでいくと巨大な扉に突き当たる。
 美しく周囲に竜の首のような装飾が囲うように作られていて、扉自体は光り輝く真っ青な下地に金の装飾、扉自体が芸術作品のような立派な作りをしている。

「あそこが終点かな?」

 ユキムラの声に反応するかのように周囲から水の音がしてくる。
 最初はサラサラと流れるような音、そしてどんどんと音が大きくなり、まるで激流でも流れ込んでくるかのような爆音になっていく。
 音はすれども水の姿は見当たらない。
 ユキムラはいつでも魔法で対応できるように身構えながら状況の変化を見守る。
 他のメンバーも周囲への警戒を怠らないように臨戦態勢で構える。
 次の瞬間扉を囲うように配置された装飾品から大量の水が溢れ出してくる。
 思わずユキムラは魔法を発動しかけるが、水は生きているかのように空中に絡め取られて球体を作る。
 どんどん水が集められ巨大な水の球体が空中に浮かんでいる。
 水の排出が収まると、球体の塊がうねるように空中を踊りだす。
 どんどんと大蛇のように空中を水の塊が伸びていく、そして次第に透明な水に色がついてくる。
 気がつけば巨大な龍の姿へと変化していた。

「リヴァイアサンか……」

 ユキムラがその姿を捉えてつぶやく。
 海の主リヴァイアサン。
 目の前に浮遊している巨大な龍は海を統べる王者の姿をしている。

『我が主の寝所を騒がすものはそなたたちか、この場に何のようだ?』

 穏やかな水面のように響き渡る声、耳から聞こえているのか頭に直接響いているのかわからないくらいだ。

「私は来訪者です。各地を女神と神を復活させて旅をしております。
 貴方の主が神や女神であるなら対立する立場ではありません」

『ふむ……来訪者とは懐かしい。なるほど、敵ではないようだ。
 しかしな、このまま通すわけにはいかん。
 我が主は深き眠りについている。
 そして、この扉は主以外が開けるためには我が身を屈服させその力の結晶を掲げなければ開かない。
 お役目ゆえ、手を抜くこともできん。
 どうする? それでも進むか?』

「ええ、それで構いません。
 胸を貸していただきます」

『うむ、礼節をわきまえた来訪者よ、褒美に全力でお相手をしよう!』

 リヴァイアサンは大きく首をもたげると大瀑布がリヴァイアサンと白狼隊を包み込む。

『さぁ、かかってくるがいい!!』

「戦闘エリアが限定されていて圧倒的に相手が有利な状態だから、注意してね」

 ユキムラは冷静に現在の状況を全員にへと通達する。

『なかなか、言うではないか来訪者よ!』

 リヴァイアサンは水球を無数に作り出し雨あられのように打ち込んでくる。
 超高速に打ち込まれた水弾は激しく地面をえぐり取る。
 しかし、ユキムラ達に触れると吸い込まれるように消えてしまう。

『ぬ……?』

 水弾が効果がないと判断すると水を刃と化して飛ばしてくる。
 それでも水魔法である以上対策をしっかりと取ってきたユキムラ達にはほとんど効果がない。
 その間にも白狼隊は着実にリヴァイアサンの身体を傷つけていく、しかも攻撃を食らうたびに不快な電撃が全身を打ち続ける。

『お主ら、卑怯ではないか? これでは我はいたぶり殺されるのみではないか!?』

 必死に爪や身体、尾を振って物理攻撃で反撃しようとするが、水による圧倒的攻撃力に頼った戦闘スタイル故にいまいち有効打になりきらない……

『くっ! こうなったら、我が切り札! 大瀑布!!』

 周囲の壁状の水が巨大なうねりとなって白狼隊を飲み込まんとする。

「ワオーン!!」

 タロが高々と遠吠えをすると水のうねりはリヴァイアサンのコントロールを離脱し、白狼隊に迫る大瀑布は穏やかな水の流れへと変化して周囲から神殿内に霧散していった。

『な、なん……だと……水龍の力は感じるが、そんなものに我が支配を……そんなこと、出来るはずが……』

「ワン!」

 タロは満足気にしている。

『ま、まさか……おま、いや、貴方様は……』

 リヴァイアサンの驚愕のつぶやきはタロ以外の耳に入ることはなかった。
 ペコリとタロが頭を下げてそのつぶやきに応じると、合点がいったようにリヴァイアサンは覚悟を決める。

「なんか、申し訳ないから一気に決めよう!」

 リヴァイアサンの切り札を簡単に無効化してしまった白狼隊。
 その後の一斉攻撃で哀れリヴァイアサンは手も足も出ず扉を開ける鍵へとその身を変えるのであった。



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