老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

94話 王都観光

 ダンジョン都市バルトール。次の目的地が明確に定まった。
 しかし、落ち着くこと無く動き続けてきた一行は、少しは王都を見て回ろうということになり、ヴァリィの案内で王都を観光する時間を設けることになった。
 サナダ街との色々なやり取りもあり、飛ぶように日にちが飛んでいた。
 いくらなんでも働き詰めだった。いい仕事には良い息抜きが必要というヴァリィの提案は最もだ。
 もちろん鍛錬など、日々欠かさずするものもあるが、それ以外少し羽根を伸ばす時間が彼らには必要だった。

 レンも病み上がりだからというのも大きい、なんだかんだ言って弟子には甘々なユキムラなのだ。
 何かをしようとしても少し休めと代わりにやってあげている。
  レンはと言えば今ではすっかり体調も戻り、以前よりも身体が軽いと本人は上機嫌だ。
 ユキムラがまとめた魔法大全其の一 基礎構成 全1200ページ をもらって更に張り切っている。
 全12部構成なのはレンには内緒にしている。

 そう言えばギルド本部には自身の成長具合をざっと測れる魔道具があったのでみんな計測した。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

ユキムラ:力(S)  とんでもない 
Lv201   素早さ(A)とんでもない 
     体力(V) とんでもない
     知力(I)  とんでもない
     器用さ(D)とんでもない
     幸運(L)  とんでもない

レン  :S     すごい
Lv167   A     やばい
     V     結構すごい
     I     超やばい
     D     やばい
     L     とてもすごい

ソーカ :S     やばい
Lv187   A     超ヤバイ
     V     すごい
     I     すごい
     D     超すごい
     L     可哀想

ヴァリィ:S     すごい
Lv70   A     すごい
     V     超すごい
     I     まぁまぁ
     D     結構やばい
     L     結構すごい

タロ  :測定不能
LV 測定不能

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 とってもアバウトでした。
 でもこれでソーカやレンの育成方針も定めやすくユキムラとしては得るものが大きかった。
 今後のためにヴァリィは冒険者としての資格を復帰させることにした。
 以前はA級だったそうだがB級からの開始となる。
 まぁ、ユキムラといればすぐにA級復帰するのは時間の問題だ。

「すごいとやばいはどっちが上なんですかね?」

「やばいだと思う。結構すごい、すごい、超すごい、結構やばい、やばいって感じだと思う」

「さすが師匠はとんでもないですね!」

「タロは流石にわからなかったかぁ」

 呑気に先程の結果の話に花を咲かせながらメインストリートを歩く。
 今日は流石にこの間の制服は着ていないが、ヴァリィの作り出す服たちは、4人と1匹の魅力を存分に引き出して人目を引いていた。
 以前から王都においてヴァリィブランドは有名だったが、今回ヴァリィが店を離れるという話が広がると更にブランド価値を上げている。
 しかし、共同経営者のカイラが引き継いだ新店から生み出される作品も、既に評価はうなぎ登りだった。
 ヴァリィ自身もカイラの作品を見て、過去の自分は遥かに超えている。
 これを更に上に行けるよう頑張ってくる! と、意欲を新たにしていた。

 話は戻って観光で息抜きをする一同は、強行日程でハードな日々から開放されてはしゃいでいた。

「師匠! あっちのお店で何か売ってますよ!」

「ゆ、ユキムラさんあのクレープ食べてもいいですか……? も、もしよかったら一緒に……」

「み、みんなはしゃぎ過ぎだぞ……ん? あれなんだ、豚肉を何のタレだいい匂いだな。
 おじさん、それ……5本、それもうまそうだな、そっちも5本ください」

「師匠これ買ってきましたー!」

「ユキムラさんクレープどうぞ……」

 全員普通の遊び方のアクセルがわからなくて踏み切っている感じだ。
 タロとヴァリィはヤレヤレと落ち着いている。
 なぜか食べ物ばかり買い込んだ一同は大聖堂前の広場で腰を落ち着ける。

 王都内にはところどころに緑あふれる公園が点在していろいろなところで子どもたちが走り廻っている。王都の治安がいいことを表している。
 ベンチや公共への投資もしっかりとされており、あの王や周りの宰相の国民への気遣いを街づくりから読み取ることが出来る。
 国立の孤児院にはじまり、教会主導の無料診療所、定期的な炊き出しなど王都では福利厚生への投資がしっかりとされている。
 大陸の東を接するゲッタルヘルン帝国との国境線をめぐる小競り合いは長年続いているが、今のところ大規模戦闘になりそうな気配はなかった。最近少しきな臭いという情報も入っているようだが……
 南に位置する群島国家であるフィリポネア共和国とは友好関係を結んでおり、各種貿易を行っている。
 国家としては安定した状態にあると言っていい。
 そして何より今後はサナダ街という経済的な起爆剤を手に入れている。
 今後の発展が加速度的に進んでいくことは疑いようもない事実だった。

「この王都はいい街ですね師匠!」

「そうだね、子供は元気だし、待ちゆく人はみな表情が明るい。
 そして見かける動物がみんな太ってるからな。満たされていると言っていいだろうね」

「ヴァリィさん、そういえば王都は貧民街のような場所はできたりしてないのですか?」

「そうねー、地価の安い地域はあるけど、スラム化したりはしてないわね。
 城壁のそとに幾つか集落もあるけど王都の側は常に兵隊さんが巡回してるから治安は良いわよー」

 皆が皆買った物を少しづつ分けあって食べている。
 優雅な時間。ユキムラは大変心地よくこの時間を楽しんでいた。

「レン、口元にソースがついてるぞ」

 ユキムラがレンの口元のソースを拭き取る。
 レンは身長は伸びてきているし、内政面でも非常に頼りになる文官に成長してきている。
 しかし、師匠であるユキムラと過ごすリラックスした時間では、いまだに出会った頃の少年なレンのままのようだ。

「あ、あのユキムラさん、あー、私もクリームが、あーついちゃったなー……あーどうしようかなー」

 ソーカの猛アピールは残念ながらタロのひと舐めですっかり解決してしまう。

「わうん」

「あ、うん。ありがとねタロ……」 

 ヴァリィはユキムラとレンのやり取りを血走った目で見つめている。
 また新しいインスピレーションを吸収しているようだ。その発想は衣装だけの枠にとらわれずに文学や芸術へと昇華され後の芸術家ヴァリィの土台を構築していく。

 ユキムラたちのパーティは一時の平穏を十二分に楽しむことができた。

 そして、すっかり暑くなってきた初夏の日差しの中、冒険者・ダンジョンの街バルトールへと旅立つことになる。
 初めてのMD、ダンジョン攻略の開始である。

 

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