老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件
3話 ユキムラ大地に立つ
ヒデオにとってUBMは生活の一部であり、呼吸をするように行ってきた行動だった。
自分のキャラが自分の思うどおりに動くのはあたり前のことで、別段考えて操作をしているわけではないので、今現在自分に起きている異常事態も、ヒデオにとっては日常茶飯事だった。
「おお、グラが凄いから楽しいなこれは」
身体を動かすようにゲームキャラクターが動いている。
そのくらいでしか考えていなかった。
主観視点と俯瞰視点、画面の端のステータス画面、MAP表示。
彼の人生とも言えるVOのいつもの視点だった。
「ステはやっぱ初期か、とりあえず進めばイベントだな」
一通りのコンソールや操作感覚がVOのままであることを確認してヒデオは歩き出す。
その世界のすべてが鮮やかに彩られていた。
初期スタート地点である森は緑が生い茂り、木々の間から降り注ぐ太陽の暖かな光、美しい草花、土の地面、そこに落ちる小さな石、土を踏む感触、石を蹴る感触、鼻から吸い込む空気、香り、その全てがリアルだった。
「最近の技術は凄いなほんとに……」
技術どうこうじゃなくて、あなた指を動かすキーなんて設定してないでしょ?
思わずそう突っ込みたくなるが、ヒデオはVOが存続してくれるというただそれだけで幸せだった。
彼にとって自分の世界が終わるという絶望から救ってくれたのだから、細かな(細かくはないが)ことなどどうでも良かった。
見た目は少し(だいぶ)変わっているけどVOの世界でまだ生きていける。
ヒデオにとってそれ以上に大事なことなんて何一つなかった。
「さて、こうしていても仕方がないな。フラグ立てに行きますか」
メタい発言は厳に謹んでほしいが仕方がない。
嬉しくて仕方のないヒデオは力強く歩み始める。
ドット絵との違いを楽しみながらこの世界の自然に触れ合う、思えばヒデオが自然と触れ合ったのは……触れ合ったのは……この話はやめておこう……。
しばらく森の道を歩いていると少し開けた場所に出る。
その時! 森の切れ目である藪の中から息を切らせた少年が飛び出してくる。
「ハァハァ……あ、お兄さん助けてください……」
原作では、
▷どうしたんだい!?
▷何かあったのかい?
と選ばせる意味があるのだろうかと疑問に思ってしまう選択肢が出て来る。
今はそんな選択肢は出てこない。
「大丈夫きあ?」
長年声を出して他人と話していなかったヒデオが噛んでしまうことは致し方がないことだ。
「ご、ゴブリンに襲われて、必死に逃げてきて……あ、追いついてきた! もうダメだ……」
中性的な顔立ちの可愛くも儚いショ太君が恐怖に怯えている。
「下がってろ」
今度は噛めずに言えた。
それと同時に草むらから3体のゴブリンが飛び出してくる。
この世界において最弱のモンスター、ゴブリン。
なんだけど、実は進んでいくと結構厄介なモンスターでもある。
弱いからレベルも上がりやすく、派生も多い。
群れをなしたりパーティを組んだり、場合によっては村や国を作ったりして、今後とも長くお世話になっていく。
ここで出て来るゴブリンは序盤にありがちな操作を覚えさせるチュートリアルなのでレベルは1。
ドット絵とは異なる3D用に作り込みをされたゴブリンは、背は低く、みすぼらしい腰布を蒔いて、木を削っただけの短剣や木の棒を持っている。
鼻が少し長く、目は赤黒く染まっている。
モンスターはアクティブ、自分を狙う状態だと赤黒く目が光っている。
緑色の肌、身体は貧相に痩せている。
それにしたって普通なら異形の相手にビビるとこだけど、ヒデオにとってはゴブリンはゴブリン、雑魚モンスターだ。
広場に躍り出てきた3匹のゴブリンは少年とヒデオに気がつくと襲いかかってくる。
3匹とも武器は右の手に構えている、セオリー通り相手の左側に常に回り込むように、そして3匹に同時に襲われないようにする。
職業:凡人はJobLv(略称:JLv)が10まで上げてJobチェンジしないとスキルは覚えない。
JLvが10になると隠しスキル:秘められた才能(経験値1.5倍)が覚醒して普通の職につくことが出来る。UBMはその後も続くため、よほどの変わり者でないと凡人スタートは選ばない。
あまりに誰も選ばないため、JLv10になった時にUBMを通常BMに戻す代わりに、スキル:小さな才能(経験値1.2倍)という救済措置が取られたため、ほんの少しプレイする人数は増えた。
VOにおいてJLvが1上がることはかなり大きなことだ。
行動における職業行動熟練度システムが取られていて、熟練度経験値が100に達すると熟練度レベルが1上がる。
その熟練度レベルの合計が5上昇するとレベルが1上がるというシステムになっている。
もちろんこれは例外もある。あまりにきつく緩和されたのがほとんどだ。
凡人は例外に当たるのだが、細かなことは置いておくがJobスキルが殆ど無いせいで、Jobに関係なく持てる一般スキルと言うものを合計5あげるとレベルがあがる。
普通にもし凡人でプレイが出来る人がいるならば、足捌き、片手剣、パリィ、カウンター、クリティカルを10にしてレベルを10にするのが王道だ。
まぁ、ほとんどヒデオしかやってないって噂なのだけど。
レベル10がいかに大変なのかわかっていただけるとありがたい。
もう一つVOにはレベルがあるBaseレベル(略称:BLv)だ。
これはJLvが技術的なレベルだとすると肉体的ポテンシャルの上昇にあたる。
実は凡人が茨の道になるもう一つの理由がこれだ。
JLv10になる頃にはBLvが40くらいになってしまう。
VOでは敵とのBLvとの差で経験値補正がかかってしまうために、やっとの思いで凡人を終えた後のJLv上げが大変困難になっていく。
凡人しか無いということは攻撃スキルが皆無なことを意味する。
ところがBLv40あたりの敵は攻撃スキルを駆使しなければ戦闘は長引く、操作の難解さと相まって事故死が増える、そしてみんな挫折していくのだ。
VOの世界で純粋な凡人上がりのキャラクターはヒデオ以外片手で足りるほどであったことで、その難易度の高さが伺える。
そしてそんなマゾい超絶技巧を持ったプレイヤーの中でもヒデオの操るキャラクターは異質だった。
ゴブリンは自分たちの攻撃がかすりもしないことにイライラし始めていた。
ヒデオは巧みにゴブリン達の周りを移動して、ゴブリン同士が邪魔になって攻撃しにくい位置取りをし続ける。
移動やステップなどは全てゲームのときと同じように行えている。
まるで踊っているかのようにゴブリンの攻撃を避けていく。
そのうち苛立ったゴブリンが滅茶苦茶に武器を振り回して同士討ちを始めたりしたので、移動・ステップ練習はそれくらいにすることにした。
動きを止めたヒデオに今までのイライラをぶつけるように短剣を突き出してくる。
ヒデオはその軌道を完全に見切り自らのもつ初心者短剣で弾く、キィンと甲高い音がする、突き出した攻撃を逸らされ、しかも前方に滑らされたためゴブリンは体勢を完全に崩してしまう。
無防備な横腹にヒデオの短剣が吸い込まれるように薙ぎ払われる。
何の抵抗もなくゴブリンの皮膚は裂かれ大量の出血と臓物がこぼれ、すぐに息絶える。
これがVOの初心者の壁と言われるパリィクリティカル攻撃だ。
敵の攻撃に合わせて防御を行うと相手の体勢を崩せることがある。
その隙に攻撃をすると必ずクリティカル攻撃になる。
この一連の流れ全体がクリティカル攻撃と呼ばれていた。
乱戦でコレを出せるのと出せないのでは戦局が大きく変わる、タイミングは相手が強ければ強いほどシビアになっていく。
盾を装備するとパリィの入力時間が伸びるが攻撃のタイミングがシビアになる。
武器の種類でもタイミングが変わったり、装備でパリィ入力時間が伸びたり、装備やアイテムの組み合わせを自分の力量に合わせるのもVOの楽しみの一つだ。
2Dからこの世界に変わってもヒデオの神業とも言えるプレイヤースキルは衰えることはなかった。
「うおー! 気持ちいい!!」
まるで初めて与えられたおもちゃに目をキラキラさせる子供のように、ヒデオは残りのゴブリンも一閃のもとに葬った。
倒されたモンスターは魔石と言われる宝石に変化する。
ドロップアイテムが落ちることもある。
今回はゴブリンの魔石(極小)を3個手に入れた。
初めての戦闘はヒデオの圧倒的勝利となった。
自分のキャラが自分の思うどおりに動くのはあたり前のことで、別段考えて操作をしているわけではないので、今現在自分に起きている異常事態も、ヒデオにとっては日常茶飯事だった。
「おお、グラが凄いから楽しいなこれは」
身体を動かすようにゲームキャラクターが動いている。
そのくらいでしか考えていなかった。
主観視点と俯瞰視点、画面の端のステータス画面、MAP表示。
彼の人生とも言えるVOのいつもの視点だった。
「ステはやっぱ初期か、とりあえず進めばイベントだな」
一通りのコンソールや操作感覚がVOのままであることを確認してヒデオは歩き出す。
その世界のすべてが鮮やかに彩られていた。
初期スタート地点である森は緑が生い茂り、木々の間から降り注ぐ太陽の暖かな光、美しい草花、土の地面、そこに落ちる小さな石、土を踏む感触、石を蹴る感触、鼻から吸い込む空気、香り、その全てがリアルだった。
「最近の技術は凄いなほんとに……」
技術どうこうじゃなくて、あなた指を動かすキーなんて設定してないでしょ?
思わずそう突っ込みたくなるが、ヒデオはVOが存続してくれるというただそれだけで幸せだった。
彼にとって自分の世界が終わるという絶望から救ってくれたのだから、細かな(細かくはないが)ことなどどうでも良かった。
見た目は少し(だいぶ)変わっているけどVOの世界でまだ生きていける。
ヒデオにとってそれ以上に大事なことなんて何一つなかった。
「さて、こうしていても仕方がないな。フラグ立てに行きますか」
メタい発言は厳に謹んでほしいが仕方がない。
嬉しくて仕方のないヒデオは力強く歩み始める。
ドット絵との違いを楽しみながらこの世界の自然に触れ合う、思えばヒデオが自然と触れ合ったのは……触れ合ったのは……この話はやめておこう……。
しばらく森の道を歩いていると少し開けた場所に出る。
その時! 森の切れ目である藪の中から息を切らせた少年が飛び出してくる。
「ハァハァ……あ、お兄さん助けてください……」
原作では、
▷どうしたんだい!?
▷何かあったのかい?
と選ばせる意味があるのだろうかと疑問に思ってしまう選択肢が出て来る。
今はそんな選択肢は出てこない。
「大丈夫きあ?」
長年声を出して他人と話していなかったヒデオが噛んでしまうことは致し方がないことだ。
「ご、ゴブリンに襲われて、必死に逃げてきて……あ、追いついてきた! もうダメだ……」
中性的な顔立ちの可愛くも儚いショ太君が恐怖に怯えている。
「下がってろ」
今度は噛めずに言えた。
それと同時に草むらから3体のゴブリンが飛び出してくる。
この世界において最弱のモンスター、ゴブリン。
なんだけど、実は進んでいくと結構厄介なモンスターでもある。
弱いからレベルも上がりやすく、派生も多い。
群れをなしたりパーティを組んだり、場合によっては村や国を作ったりして、今後とも長くお世話になっていく。
ここで出て来るゴブリンは序盤にありがちな操作を覚えさせるチュートリアルなのでレベルは1。
ドット絵とは異なる3D用に作り込みをされたゴブリンは、背は低く、みすぼらしい腰布を蒔いて、木を削っただけの短剣や木の棒を持っている。
鼻が少し長く、目は赤黒く染まっている。
モンスターはアクティブ、自分を狙う状態だと赤黒く目が光っている。
緑色の肌、身体は貧相に痩せている。
それにしたって普通なら異形の相手にビビるとこだけど、ヒデオにとってはゴブリンはゴブリン、雑魚モンスターだ。
広場に躍り出てきた3匹のゴブリンは少年とヒデオに気がつくと襲いかかってくる。
3匹とも武器は右の手に構えている、セオリー通り相手の左側に常に回り込むように、そして3匹に同時に襲われないようにする。
職業:凡人はJobLv(略称:JLv)が10まで上げてJobチェンジしないとスキルは覚えない。
JLvが10になると隠しスキル:秘められた才能(経験値1.5倍)が覚醒して普通の職につくことが出来る。UBMはその後も続くため、よほどの変わり者でないと凡人スタートは選ばない。
あまりに誰も選ばないため、JLv10になった時にUBMを通常BMに戻す代わりに、スキル:小さな才能(経験値1.2倍)という救済措置が取られたため、ほんの少しプレイする人数は増えた。
VOにおいてJLvが1上がることはかなり大きなことだ。
行動における職業行動熟練度システムが取られていて、熟練度経験値が100に達すると熟練度レベルが1上がる。
その熟練度レベルの合計が5上昇するとレベルが1上がるというシステムになっている。
もちろんこれは例外もある。あまりにきつく緩和されたのがほとんどだ。
凡人は例外に当たるのだが、細かなことは置いておくがJobスキルが殆ど無いせいで、Jobに関係なく持てる一般スキルと言うものを合計5あげるとレベルがあがる。
普通にもし凡人でプレイが出来る人がいるならば、足捌き、片手剣、パリィ、カウンター、クリティカルを10にしてレベルを10にするのが王道だ。
まぁ、ほとんどヒデオしかやってないって噂なのだけど。
レベル10がいかに大変なのかわかっていただけるとありがたい。
もう一つVOにはレベルがあるBaseレベル(略称:BLv)だ。
これはJLvが技術的なレベルだとすると肉体的ポテンシャルの上昇にあたる。
実は凡人が茨の道になるもう一つの理由がこれだ。
JLv10になる頃にはBLvが40くらいになってしまう。
VOでは敵とのBLvとの差で経験値補正がかかってしまうために、やっとの思いで凡人を終えた後のJLv上げが大変困難になっていく。
凡人しか無いということは攻撃スキルが皆無なことを意味する。
ところがBLv40あたりの敵は攻撃スキルを駆使しなければ戦闘は長引く、操作の難解さと相まって事故死が増える、そしてみんな挫折していくのだ。
VOの世界で純粋な凡人上がりのキャラクターはヒデオ以外片手で足りるほどであったことで、その難易度の高さが伺える。
そしてそんなマゾい超絶技巧を持ったプレイヤーの中でもヒデオの操るキャラクターは異質だった。
ゴブリンは自分たちの攻撃がかすりもしないことにイライラし始めていた。
ヒデオは巧みにゴブリン達の周りを移動して、ゴブリン同士が邪魔になって攻撃しにくい位置取りをし続ける。
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そのうち苛立ったゴブリンが滅茶苦茶に武器を振り回して同士討ちを始めたりしたので、移動・ステップ練習はそれくらいにすることにした。
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無防備な横腹にヒデオの短剣が吸い込まれるように薙ぎ払われる。
何の抵抗もなくゴブリンの皮膚は裂かれ大量の出血と臓物がこぼれ、すぐに息絶える。
これがVOの初心者の壁と言われるパリィクリティカル攻撃だ。
敵の攻撃に合わせて防御を行うと相手の体勢を崩せることがある。
その隙に攻撃をすると必ずクリティカル攻撃になる。
この一連の流れ全体がクリティカル攻撃と呼ばれていた。
乱戦でコレを出せるのと出せないのでは戦局が大きく変わる、タイミングは相手が強ければ強いほどシビアになっていく。
盾を装備するとパリィの入力時間が伸びるが攻撃のタイミングがシビアになる。
武器の種類でもタイミングが変わったり、装備でパリィ入力時間が伸びたり、装備やアイテムの組み合わせを自分の力量に合わせるのもVOの楽しみの一つだ。
2Dからこの世界に変わってもヒデオの神業とも言えるプレイヤースキルは衰えることはなかった。
「うおー! 気持ちいい!!」
まるで初めて与えられたおもちゃに目をキラキラさせる子供のように、ヒデオは残りのゴブリンも一閃のもとに葬った。
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