ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
25-197.凱旋
ヒロ達は、フォーの迷宮探索を終え、八日振りに無事、ウオバルに戻ってきた。ウオバルについたのは正午過ぎだったこともあり、冒険者ギルドに顔を出すことにした。小悪鬼騎士討伐を報告する為だ。
ギルドでは小悪鬼騎士討伐のクエストは出されていなかったのだが、討伐した時はそれを報告する義務がある。後日、討伐のクエストが出されたとき、対象が討伐済だったら困るからだ。
ギルドでは小悪鬼騎士の首実検を行った。首実検は首尾良く終わり、ギルドから討伐証明を受け取ることができた。
勿論、クエストによる討伐ではないからギルドからの報酬はない。だが、ギルド長が特別報奨金としてバルド準金貨三枚をパーティ全員に与えてくれた。
それだけではない。ヒロ達による小悪鬼騎士討伐という快挙にギルドは沸いた。居合わせた冒険者達が次々と祝福の言葉を掛けてくる。やはり小悪鬼騎士の討伐はそれほどの事だったのだ。仲間の冒険者達の賛辞を受け、ヒロは自分達が成した事の大きさを知った。
「どうする? ヒロ。大きなクエストを成功させた時には、仲間で祝うってのが、この辺りの相場だよ」
ソラリスの問いにヒロはメンバーを見渡した。あの戦いをくぐり抜けた仲間だ。ヒロは仲間の疲労を気遣いながらも、ソラリスの助言に従った。
「皆がよければ、でも軽く一杯だけにしよう。小悪鬼騎士討伐はクエストじゃなかったしな」
ヒロ達は、近くの酒場でささやかな祝宴を上げた。ロンボクとミカキーノの労をねぎらう。ミカキーノは小悪鬼騎士の首を持って、スティール・メイデンのメンバーで郷に帰り、討伐の報告と死んでいった郷の仲間達を弔うという。
ロンボクもロッケンに付き添って、スティール・メイデンと共に彼らの郷を訪問するといった。
「ロンボク、しばらくのお別れだな。本当に世話になった。ミカキーノもだ。君達が居なかったら、生きて帰れなかったかもしれない」
「いえ、貴重な経験をさせて貰いましたよ。ヒロさん。小悪鬼騎士の討伐で、ギルドの中でも貴方のパーティは一目置かれることになるでしょう。ソラリスに、エルテさんがいるんですから……」
ロンボクには、フォーの迷宮の帰りに、エルテが黒衣の不可触だと明かした。フォーの迷宮でのエルテの魔法とあの青い珠をみた後だったから、ロンボクは驚きながらもすんなりと受け入れてくれた。無論、口外しないという固い約束付で。
「皆、今日はもう宿に戻ろう。シャロームのところは明日だ」
ヒロ達は今日はギルドへの報告のみにして、シャロームへの報告は翌日にすることにした。
◇◇◇
――地下の小部屋。
テーブルの前で一人の男が、対面の小柄なせむし男の言葉に耳を傾けていた。
「剣を見ると腕試ししたくなるのは貴様の悪い癖だな。バレル」
「……」
バレルは黙ったまま一言も発しない。心なしかその顔が悔しさに歪んでいるようにも見えた。
「まぁよい。続けよ」
報告を受けているのはラスター。レーベの秘宝を追っているウオバルの有力貴族だ。彼は手下のバレルからフォーの迷宮でのヒロ達の様子とその顛末について報告を受けていた。
「黄金水晶は実在した。だが、すでに黄金水晶としての力を失っているというのだな」
「はい。ラスター様」
「そうか。ご苦労だった。バレル」
バレルはベスラーリと別れた後、単身フォーの迷宮に乗り込み、ヒロ達の様子を監視していた。精霊獣アークムの姿を拝むことは出来なかったが、リムが事の顛末を説明するのは聞くことが出来た。証拠として、黄金水晶だった巻き貝を奪い取ることには失敗したが、重要な情報を持ち帰ることができた。ラスターの労いの言葉がそれを示していた。
「黄金水晶を奪い取れなかったのは残念だが、報告の通りであれば、それが本物だと証明できない限り、ないと同じだ。ただ、少しでも不安要素は残したくない。引き続き監視せよ。そして……」
ラスターはバレルに何事か指示を出した。
「承知いたしました。キヒヒヒヒヒ」
薄気味悪い笑い声と共にバレルは煙のように消え失せた。
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