ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
24-195.ヒロ、戦利品だ
「……刻まれている言葉は此処までです」
リムの説明に一同は静まり返っていた。あまりの事にしばらく誰も言葉を発しなかった。
「これは、あのときリーファが浜辺にあった巻き貝にアークムを召喚して錬成変化させたもの。間違いなく黄金水晶です」
リムが両手に黄金水晶だった巻き貝を乗せてそう言った後、やっとヒロが口を開いた。
「リム。さっきのモンスター、いや精霊獣アークムは八千年振りに復活したということか。でも何故……」
「……青い珠の所為かもしれませんわ」
エルテが独り言の様に言った。
「アークムがどうやって目覚めたのかは分かりませんけれど、八千年前から続けていたマナの供給が十分量に達したからということではないでしょうか?」
エルテは、治癒魔法をかけようと、先程自分が発動した青い珠が黄金水晶に吸い込まれていったことを指摘した。アークムが姿を現したのはその直後だ。
「つまり青い珠を取り込んだことが目覚めの切っ掛けになったということか」
「……はい」
「そういう話か……」
目覚めが今になった事の是非はさておき、青い珠が最後のマナ供給だったという理由は分からなくもない。先程のリムの話のとおりであれば、このフォーの迷宮は、いわば治癒の為の施設として何千年にも渡り、黄金水晶に封じられたアークムにマナを供給しつづけたのだ。その歳月からみれば、いつ復活してもおかしくない状態だったのかもしれない。――しかし。
「アークムがこの巻き貝に封じられていないとしたら、今は何処にいるんだ? 突然姿が消えたことと何か関係でもあるのか?」
リムに問うのは筋違いだと分かっていた。アークムが姿を消した時には、彼女は気を失っていたのだから。
思ったとおり、リムは首を横に振った。
「分かりません。でも、もう此処にいないことは確かです。多分、水の精霊界に還ったのだと思います」
八千年前の契約を果たし、アークムは精霊界に還った。普通に考えても一番妥当な説明のように思えた。同じ精霊のリムがいうのだ。間違いはないだろう。
「そうなのですか……」
エルテの声は沈んでいた。エルテは、このクエストの依頼主だ。断絶したラクシス家の復興を胸に秘め、ここまでレーベの秘宝を探しにきたのだ。それがこんな形になってしまうとは……。
エルテはすみませんと断って、ヒロ達に背を向け距離をとった。ショックだったのだろう。手で顔を覆っている。
「エルテ……」
ヒロはなんと声を掛けていいか分からなかった。他の皆も声を掛けることが出来なかった。大分経ってから、エルテがヒロ達の所に戻ってきた。目元は潤んでいたが、気持ちの整理がついたのか、その口調はしっかりしていた。
「ヒロさん、他の人がどうあれ、この場にいた人はこれが確かに黄金水晶だと知っています。伝説の聖獣アークムも実在したのだと分かりました。黄金水晶の見た目は変わってしまったけれど、伝説は本当だったのです。これが黄金水晶だと証明する方法がきっとある筈ですわ」
「そうか……」
なんてタフな娘なんだろう。淑やかな外見からは想像も出来ない芯の強さがある。ヒロはそんなエルテの心根の強さにうたれていた。エルテなら黄金水晶がなくてもきっとラクシス家を再興してみせるに違いない。そう思った。
リムはエルテの傍に行き、その金色の瞳で謝罪した。
「エルテさん。ごめんなさい。私が……」
「いいのよ、リムちゃん。貴方の所為ではないわ」
エルテはリムに優しく微笑んだ。
「ヒロ、貰うものを貰って、とっととズラかろうぜ」
ソラリスが宝箱の金貨を革袋に詰めている。赤い皮袋はずしりとした重みを感じさせた。全部金貨としたら相当な額になる筈だ。
「ソラリス、戻ったら皆で分けよう」
ヒロの視線はロンボクにもミカキーノにも向けられていた。一緒に闘ってくれたのだ。お宝を山分けするのは当然だとヒロは考えていた。
「いらねぇよ」
ミカキーノが、床に転がっている小悪鬼騎士の首を拾い上げる。
「俺はこれだけあればいい」
「ミカキーノ、小悪鬼騎士討伐のクエストなんて出ていなかったぜ、一文にもなんないよ」
ソラリスが片目をつぶる。台詞は忠告だったが、その表情には笑みが浮かんでいた。ソラリスも知っているのだ。ミカキーノにとって小悪鬼騎士討伐は悲願であったことを。
「僕も辞退させていただきますよ」
ロンボクだ。
「僕が受けたクエスト以上の報酬は戴く訳にはいきません。大してお役に立てませんでしたけど、ガーゴイルや小悪鬼騎士と戦うなんて経験は滅多に出来るものではありません。それで十分ですよ」
ソラリスが、欲がないんだな、といいながら金貨を入れた皮袋の口を縛った。続いて小悪鬼騎士の剣を拾い上げるとしばし凝視した。
「どうかしたのか?」
ソラリスは、ヒロの問い掛けに反応しない。ヒロの二度目の声にはっと我に返ったような表情を見せた。
「い、いや、何でもない。ヒロ、戦利品だ。お前の剣にしな」
ソラリスは小悪鬼騎士の骸から鞘を抜き取って、剣を納めてから投げて寄越す。ヒロはそれを両手で受け止めた。
――軽い。
予想していたよりずっと軽い。こんなもので斬れるのかと思ったが、そうでないことは、小悪鬼騎士との闘いで見たばかりだ。もっとも、ヒロは小悪鬼騎士が見せた大理石の床を真っ二つにした剣技が自分に出来るとは思わなかったのだが。
ヒロは鞘から剣を抜いた。それは剣というよりは刀に近かった。刃の長さは一メートルと少し程で片刃だ。緩やかな反りがあり、白銀の刀身の材質は分からなかったが、その輝きはソラリスのカラスマルとよく似ていた。
ヒロは剣を鞘に納め、腰にさしてみる。悪くない。
「じゃあ、戻ろう。でもまだ気を緩めないでくれ、帰るまでが遠足だ」
「なんですか? それ」
リムが不思議そうな顔を見せる。
ヒロは、俺の国の格言さ、といって歩き出すが、隊列が出来ていないことに気づいて、ソラリスに先頭に立って貰うようアイコンタクトする。ソラリスも分かったと目線で答え、前にでる。
――それにしてもボロボロだな。
最後尾からパーティの仲間を見るヒロは素直にそう思った。誰一人傷を負ってないものはいない。頑丈なソラリスでさえ、脇腹を時々押さえている。元々、傷の癒えていなかったミカキーノに至っては、自力で動けるのが不思議な程だ。エルテもロンボクも度重なる魔法発動で疲労困憊している。ロンボクは、小悪鬼騎士に見舞った最後の光魔法は自分の体内マナを使って発動したと言っていた。体内マナを使っての大魔法発動は、危険が伴うらしいが、大丈夫だろうか。
――俺も人の事はいえないか……
ヒロは皆に聞こえない程の小声で呟いた。死霊魔法発動の為に、自分の体内マナを使わせたのだ。あの後から、まともに魔法が発動できなくなっている。一時的なものだといいが……。
しかし、今のヒロには、その不安よりも満足感が勝っていた。
怪我をしたとはいえ、あれだけの激しい闘いをして、生き残る事が出来たのだ。しかも小悪鬼騎士を討伐したというオマケ付きだ。レーベの秘宝を見つけるという目的は、微妙な結果に終わったが、全くの空振りというわけでもなかった。今のところは十分よしとすべきではないか。
ヒロ達がホールから出ようとしたその時。
――ドス、ドス、ドス。
ヒロの足下に、突然投げナイフが突き刺さった。
 
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