ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】

日比野庵

19-164.この階段を下ると第二階層だ

 
「いや、それは危険だ。万一、防御できなくてエルテマナ吸引エナジードレインされてしまっては取り返しがつかない。ここは、サークレットをしていないと考えマナ吸引エナジードレインされると仮定して行動しよう」

 ヒロの判断にエルテが同意する。先程、エルテの青い珠ドゥームと迷宮の魔法の炎のどちらがマナを吸い取る力が強いのか試したばかりだ。エルテの青い珠ドゥームはあっけなく魔法の炎に吸収されてしまった。それを考えると、エルテのサークレットが魔法の炎のマナ吸引エナジードレインを防いでくれる確証はない。ここはネガティブに考えてよい場面だ。

「ヒロ……」

 ソラリスが何か言いたそうに口を開いたが、ヒロにはその中身が分かった。

「そうか。ここからは隊列を組んだ方がいいんだな?」

 ソラリスがそうだと答える。モンスター襲撃に備えてバリアを張るにしても、全方位バリアでは攻撃が出来なくなる。ソラリスはある程度は隊列でカバーできると言っていた。ヒロは昨日の打ち合わせで確認した内容をメンバーに告げる。

「基本は昨日確認した通りだ。ソラリスがタンクで一番前、その後ろがリムとエルテ。殿は俺。俺はバリアを後ろに展開する。エルテは左右に注意しながら、リムを守ってくれ。俺は後方から魔法でソラリスの援護に回る。モンスターに出喰わしても、体力温存を優先して戦闘は極力避ける。いいかい?」

 一同が頷く。元々、ヒロはミスリルの鎖帷子を装備していることもあって、ソラリスと一緒に前衛に回る積もりでいた。昨日の打ち合わせでその希望を伝えたのだが、ソラリスに止められた。ソラリスは背後に気を配るべきだと言った。ソラリスによると、パーティで一番重要かつ危険なのは殿しんがりなのだという。前方の危険は見れば分かるが、後ろには目がついてない。殿しんがりはパーティ全体の様子を最後尾で確認しながら、後ろからの危険に備えなくてはならない。

 一般の冒険者パーティでも一番のベテランが殿しんがりを務めることが多いという。前方に向ける注意が二割だとすると残りの八割は後ろに払うのだそうだ。

「あたいなら、前が一割、後ろを九割にするけどね」

 ソラリスはそう言っていた。それほど死角のカバーは重要なのだ。本来なら、冒険者として一番経験のあるソラリスが殿しんがりになるべきなのだが、それでは盾役タンクが居なくなってしまう。いくらヒロが魔法を使えるとはいえ、不意打ちや狭い通路での接近戦は分が悪い。

 という事で、剣が使えて耐久力のあるソラリスが盾役タンクとなって前衛に周り、不意打ちに備えて、ヒロがバリアを常時展開したほうがよいという結論に自然となった。

 ヒロは隊列の確認をすると、ゆっくりと一つ深呼吸をした。いよいよだ。

「皆、行こうか」

 ヒロの号令に皆が腰を上げる。ヒロには、心なしかソラリスの横顔がいつもよりも引き締まっているように見えた。

◇◇◇

「この階段を下ると第二階層だ」
「地図の通りですわ」

 ソラリスの説明に補足するようにエルテが答える。一度このフォーの迷宮ダンジョンに来たことがあるソラリスは、過去の記憶を頼りに進んだのだが、内部は当時と変わっていないようだ。地図とも一致しているのが心強い。もっともソラリスに言わせれば当時よりも壁や床が大分傷んでいるそうだが。

 階段の入り口向かって右側と出口の左側の壁に燭台が掛けられている。その上で例の魔法の青い炎が妖しく揺らめいていた。ヒロ達は、ソラリスを先頭に一列で魔法の炎から遠い側の壁に沿って、慎重に階段を降りた。

 第二階層をしばらく進む。不意にソラリスが歩みを止める。

「ここからは、あたいも行ったことのない路だ。ちょっとゆっくり目に歩くよ」

 丁度、目の前に三叉路がある。ヒロは指に唾をつけて頭上に掲げた。空気の流れを確認する為だ。だが、微かな風を感じるばかりで、明確な方向は分からない。

「地図だと真ん中の路を真っ直ぐ行って、突き当たりを左、二番目の角を右。その先に階段があります」

 リムがもう一度、地図を広げて確認する。昨日の打ち合わせで何度も確認した。経路は頭に入っている。だが地図で経路は分かっても、その路が今どんな状態で、どんなモンスターが出現するかまでは分からない。よしんばその記載があったとて、所詮それは過去のデータに過ぎない。やはり現場の状況は、直接行って確かめるしかないのだ。

 ヒロ達は、ゆっくりと真ん中の路に足を踏み入れた。

 そのずっと後ろに、赤く光る二つの目玉がぎょろりとヒロ達の後ろ姿を捉えていた。
 

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