ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】

日比野庵

19-161.永久の火

 
 そこは、大きなホールだった。地上の建物部分のホールと同じくらいの広さがある。両脇に甲冑を模した彫像が二体。右の像の頭部は崩れてしまったのか首の根元からぽっきり折れてしまっている。左の像は頭こそ無事だったが、両手が捥げて無くなっていた。見るからに古そうだ。

 壁は床と同じ石で出来ていたが、所々崩れて、土が剥き出しになっている。エルテやソラリスは大人数で暴れると崩れると言っていたが、これもその跡なのだろうか。

 ホールの中央には大きな漏斗状の燭台が口を上にして置かれており、口の部分から青白い炎が怪し気にホール全体を照らしていた。これがソラリスの言っていた迷宮内の明かりか。だが、炎に近づこうとしたヒロをエルテが呼び止めた。

「ヒロさん。近づかないで下さい」
「どうした?」
「これが、迷宮内にマナが殆どない理由ですわ」

 エルテが一歩だけ進み出た。

「この炎は、魔法の炎です。回りのマナを吸い取り、それによって灯る永久とこしえの火。近づけば炎に体内マナオドを吸い取られ、動けなくなります。絶対に近づいてはいけません」
「とすると、これがフォーの迷宮に掛けられているというマナ吸引エナジードレインの元凶なのか?」
「これが全てかどうかは分かりません。けれども、原因の一つであることは確かですわ」

 ヒロはエルテが首肯するのを確認すると、防御魔法でお盆くらいの大きさの小さなシールドを発動させた。輪廻の指輪レンガスの力で、ヒロの周囲には、自身の体内マナオドが循環しているため、余程の大魔法でもない限り、大気のマナを集める必要はない。この程度のシールドなら余裕だ。問題ない。

 ヒロは錬成した魔法の盾を手にとると、燭台の炎に向かって、フリスビーの要領で投げつけた。

 駒のように回転しながら青白い炎に向かった魔法の盾は、片手で届くくらいの距離にまで近づくと、パキパキと音を立てながらひび割れて砕け、そのまま炎に吸い込まれていった。

「……」

 ヒロは少し考えてから、エルテに命じた。

「……エルテ。済まないが青の珠ドゥームをあの炎に掛けてくれないか? 確認しておきたいことがある」

 青の珠ドゥームはマナを吸収・解放する魔法だ。発動に魔力を殆ど消費しないことは昨晩確認している。ここで使っても問題ないだろう。尤も、使える術者は限られているが。

「分かりました。ヒロさん、皆さんも下がっていてください」

 エルテは、ヒロ達が数歩下がったことを確認すると、一つ深呼吸をして目を閉じる。そして両手を揃えて前に出し、掌を炎に向けた。

あま駆ける神の御使い、リーとセレスの名の下に命ず。命の灯火を集め、新たな力と為さん……」

 エルテの掌が青く光る。

「ドゥーム!」 

 背後から微かに風が吹いたかと思うと、エルテの手から小さな青い光の珠が生まれた。エルテが発した青い珠は、ゆっくりと燭台の炎に向かっていく。片手の距離まで近づくと、青い珠は上下に潰れ、ラグビーボールの様な形となり、一気に吸い寄せられていく。青い珠が炎に触れた時には、フリスビーくらいにまで潰れていた。燭台の炎は青い珠を吸い込んだ瞬間、一際大きく燃え上がったのだが、しばらくして元通りになったときには、エルテの青の珠ドゥームは跡形もなく消え去っていた。

「……そういう事か」

 青い珠が消失するのを見届けたヒロは静かに首を振った。
 

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